これまで23回にわたり、長時間労働の問題を見てきました。時間外労働をなくす工夫はさまざまですが、残念ながら方向性に疑問があるものも少なくありません。長時間労働は、経営者と労働者が協調して解決すべき問題です。

はたして安倍総理の「働き方改革」は実現されるのでしょうか。最終回となる今回は、「働き方改革」の意義について振り返ってみたいと思います。

1.電通事件に見る経営者の当事者意識

一昨年、大手広告代理店・電通の女子社員が過労自殺した事件は記憶に新しいところですが、電通では、事件をきっかけに働き方の見直しが始まっています。このほど放送されたNHKの「クローズアップ現代+」は、あらためてこの事件を取り上げ、電通の山本敏博社長に独占インタビューを試みました。

心からおわび申し上げます。二度と労務問題を繰り返さない。

山本社長は、女子社員が過労自殺に至った事実を真摯に受け止め、これまでの働き方を見直すことを明言しています。

その実践として、まず残業時間を削減する取組みが始まりました。名前の書かれたホワイトボードには、規定の残業時間をオーバーした社員の欄に付箋が貼られ、みんながチェックできるようになりました。さらに午後10時に全館消灯することで帰宅を促すようにもなりました。

ところが、消灯後もメールをする社員は後を絶たず、退社してもファミリーレストランや喫茶店で仕事を続けるケースがあるといいます。この点を問われた山本社長の口からは驚くべき答えが返ってきました。

(社員がファミリーレストランや喫茶店で仕事をしているということは)知らないです

これまでの悪しき習慣を改めるために会社が打ち出した方策に対し、社員がどのように対応しているのか、適切な方法だといえるのか、改善すべき点はあるのか、といった基本的な事項がチェックされていないのです。経営者は現場のことを何も知りません。当事者意識のなさが露呈された瞬間でした。

2.企業単体の努力に限界も? 労働時間の削減に赤信号

電通は、2019年までに労働時間を全体で2割減らすことを明らかにしました。そのために社員や契約社員を増員するとともに、PCによる作業の効率化を進め、効率的な働き方を評価の対象にする制度作りに取組むことで、現在の利益水準を維持するとしています。

しかし、これに対して社員からは疑問の声も上がっているようです。顧客から要求があれば、退社後であっても対応せざるを得ない状況にあっては、労働時間の短縮は容易ではありません。日本では、一つの仕事を一人に割り当てる担当制を採用するケースが多く見られます。電通でも多くの仕事が担当制であり、表面的に労働時間を減らしても、個人の仕事量が減るわけではなく、結局、サービス残業が増えるだけです。

このような点に鑑みれば、顧客も巻き込んだ意識改革を行わない限り、労働時間の減少は、実態を伴わない表面的なものにとどまるのではないでしょうか。

3.そもそも「働き方改革」とは何か?

番組の中で、経営コンサルタントは「働き方改革のゴールというのは、生産性の向上」だと話していました。そして「働き方改革」のモデルとして以下のような3段階モデルを示しました。

第1段階:残業の削減
第2段階:業務の見直し
第3段階:短時間で利益を生むビジネスモデル

これには違和感をおぼえました。「働き方改革」のゴールが生産性の向上なら、それは経営者のための改革であることになります。しかし、安倍総理の発言(平成28年8月3日、第3次安倍第2次改造内閣発足における総理会見)にもあるように、「働き方改革」は労働者のために行うものであり、長時間労働の是正は重要テーマのひとつです。つまり残業の削減はゴールであって、出発点ではありません。

第1段階:業務の見直し
第2段階:短時間で利益を生むビジネスモデル
第3段階:残業の削減

業務を見直すことで生産性が向上し、その結果、残業が削減できる。このように解すべきではないでしょうか。

電通の山本社長は、労働時間の減少が事業の縮小につながるのであれば、そのような働き方は健全ではないという趣旨の発言をしています。事業規模すなわち企業利益をものさしとして働き方を評価しているともとれますが、このような経営姿勢こそが度重なる過労自殺を招いてきた原因です。

間違った認識の下で働き方を見直しても、労働者のためになる「働き方改革」が実現することはありません。「働き方改革」は経営者のためのものではなく、労働者のためのものであることを改革に携わるすべての人は再確認すべきです。

4.まとめ

神奈川県川崎市にあるチョーク製造会社・日本理化学工業株式会社は、障がい者が働くことに幸せを感じる「日本でいちばん大切にしたい会社」として全国から注目を集めています。労働者が幸せを感じながら働くということはどういうことなのでしょうか。

小松成美さんの著書「虹色のチョーク」には、その様子が詳しく紹介されています。経営者をはじめ安倍総理にも是非読んでほしい一冊です。

すべての労働者にとって有意義なものとなるよう、経営者と労働者が取引先の理解も得ながら協調して「働き方改革」に取組み、明るい未来を実現させてほしいと思います。

記事制作/白井龍

ノマドジャーナル編集部
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