長時間労働の原因のひとつとして生産性の低さを指摘されることがあります。平成29年6月、安倍政権は働き方改革とともに生産性向上のための改革と人づくりのための改革を一体的に着手すべく、生産性向上国民運動推進協議会を立ち上げました。
まさに、生産性向上をテーマにしたオールジャパンによる取り組みが始まったといえます。
今回は、生産性向上にみる長時間労働解消へのアプローチについて検討していきましょう。
1.生産性とは?2つの指標とその意味合い
一般的に生産性には、労働生産性と人時生産性の二つがあります。労働生産性は以下の式で表されます。
労働生産性=付加価値÷労働者数
付加価値とは、簡単に言えば売上高から原価を引いたものです。つまり労働生産性は、労働者一人あたりの粗利益に相当します。
一方、人時生産性は、
人時生産性=付加価値÷労働時間
で表され、単位時間当たりの粗利益ということができます。
労働生産性も人時生産性も共に生産性についての指標ですが、 人時生産性が単位時間当たりの付加価値額を示しているのに対し、労働生産性は労働者一人あたり付加価値額を示しています。
2.生産性向上のヒント満載!事例報告に総理ご満悦
日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2016年版」によると、2015年の一人あたり日本の労働生産性はOECD加盟35カ国中22位、G7(先進7カ国)では最下位という結果になっています。
これを見る限り、日本の労働生産性は先進国の中でも低いといえますが、産業構造や就労形態は国ごとに異なるため、数値によって労働生産性を単純比較することは適切ではないかもしれません。
平成29年5月24日、総理大臣官邸で第1回生産性向上国民運動推進協議会が開催されました。会議の冒頭、あいさつに立った安倍総理は次のように述べました。
•アベノミクスによって企業収益や雇用が大幅に改善した。
•アベノミクスによる景気回復で人手不足の克服が経営者の課題となった。
•人手不足という課題を乗り越えるためには労働生産性の向上しかない。
人手不足により、労働者を増やすことでは付加価値を伸ばせないとしても、作業効率を上げることで付加価値を伸ばすことができます。会議の中で報告された労働生産性向上の取組み事例に対し、安倍総理は「目に見えて売上げが上昇し、従業員の負担が軽減され、生産性が向上することが確認できた」と感想を述べています。
報告された事例は、いずれも作業改善による効率化でした。この方法なら多額の設備投資を必要としないため、中小零細企業でも実行することが可能です。
3.使用者はわかってない?叫ぶだけでは意味のない労働時間削減
生産性を向上させることは、必ずしも労働者の減少や労働時間の短縮を意味しません。確かに付加価値が同じなら、労働者や労働時間が少ないほど生産性は高くなります。しかし、生産性向上国民運動推進協議会で報告された事例には、そういった手法はありませんでした。徹底した作業分析を行い、無駄をなくす努力の結果、作業効率を改善し付加価値を増加させています。
労働者数が同じであれば生産性の低い企業では労働時間が多くなります。その意味で生産性と労働時間は連動しています。長時間労働を解消するためには残業時間を減らすことが必要なのですが、何らかの対策をした結果として残業時間が減るのであって、それも示さずに会社側から「早く帰りましょう」と言ったところで何の意味もありません。早帰りの次の日には、前日の遅れを取り戻すために残業が必要になるだけです。無理やり残業時間を減らして生産性を向上させても、それは見かけだけのことであり、決して評価されるべきではありません。
過労死につながるような長時間労働が問題となり、法改正を含め残業を減らす枠組みができつつあります。そして多くの企業が残業時間の減少に取組むようになりました。しかし、まずやらなければならないのは、使用者が生産性向上のための全社的な対策を示すことです。生産性の向上を労働者個人の働き方に頼るだけでは限界があります。
「ノー残業デー」に「プレミアムフライデー」。いくら制度を作ったとしても、それを利用できる基礎がなければ、ただの絵に描いた餅です。
4.まとめ
安倍政権の働き方改革はわかりにくい点が多いといえます。一つひとつの施策はそれなりに意味があるのですが、全体を鳥瞰した場合、向かっている方向が見えにくいのです。
平成29年6月15日に開催された第2回生産性向上国民運動推進協議会で、安倍総理は、「生産性向上の鍵は、正に人づくりである」と言っています。生産性が向上した事例に対する感想です。それに続けて、次なる安倍政権の柱を「人づくり改革」にすると宣言しました。
「人づくり改革」の中身が明らかになっていないので今は何とも言えませんが、安倍総理の目指す一億総活躍社会は、ますます混迷を極めているように感じます。労働者としては、安倍総理の概念先行型の政治手法にまどわされることなく、常に地に足を付け、自分自身の未来を見据える姿勢を保つことが大事ではないでしょうか。
記事制作/白井龍
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