平成27年12月25日のクリスマスの朝、電通の女性社員が「人生も仕事もすべてつらいです」などとしたメールを母あてに送り自ら命を絶ちました。人生に希望を抱き社会人となったわずか8か月後のことです。

彼女の死後、月間残業が100時間を超える長時間労働が常態化していたことが認められ、自殺は過重労働が原因だったとして労災認定されています。

電通では、約25年前にも男性社員が長時間労働によって過労自殺しています。過労自殺は繰り返されているのです。どうして彼らは死ななければならなかったのでしょうか。

1.原因究明が予防への第一歩!厚労省が過労死実態を調査

2014年、「過労死等防止対策推進法」が成立しました。同法は国に対し過労死を取り巻く現状や対策について年次報告をまとめることを義務付けています。これを受け、厚生労働省は「平成28年版過労死等防止対策白書」を公表しました。

白書では業種別の残業時間や、疲労の蓄積度、ストレスの状況などが報告され、労働者を取り巻く過労死の現状を把握することができます。

職業別にみると、平成27年度における被雇用者・勤め人の自殺者数は6、782人で、そのうち遺書等から推定される原因・動機が「勤務問題」にあるとされた自殺者は全体の3割を超える2、159人に上っています。さらに勤務問題の詳細をみると、「仕事疲れ」が3割、次いで「職場の人間関係」が2割、「仕事の失敗」が2割弱、「職場環境の変化」が1割強となっています。

1年間に600人以上が仕事による疲れ、つまり過労を原因・動機として自殺している実態が白書によって明らかにされました。

2.長時間労働だけが原因ではない?過労死と過労自殺の本質的な相違点

ひとくちに過労死ということが多いですが、過労死には2種類あります。過重な業務によって脳や心臓の疾患が発症し病死するケースを「過労死」と呼ぶことにします。一方、心理的負荷による精神障害を発病したことで自殺に至るケースを「過労自殺」とします。

白書によれば、平成27年度に労災補償の給付が決定されたのは、過労死が96件、過労自殺が93件(自殺未遂を含む)となっています。このうち月間80時間以上の時間外労働を行っていたのが、過労死では91件あるのに対し、過労自殺は64件にとどまっています。

長時間労働と過労死の関連性が強いことは明らかですが、過労自殺との関連性は、それほど強いとはいえません。過労自殺の原因・動機となる心理的負荷には、長時間労働以外の要因も影響していると思われます。

3.ハラスメントを見逃すな!過労自殺へのハードル下げるストレス要因

白書によると、ハラスメントがある場合は約半数の労働者で疲労の蓄積度が高くなっています。生活のため、あるいは生きがいを求めて選んだ仕事である以上、嫌なことがあるからといって簡単に辞めるわけにはいきません。まずは我慢ありき。それが大きなストレスにつながっているといえます。

すでにハラスメント状態にあれば、過労自殺へのハードルは下がっています。そこへ時間外労働時間が加わることで心理的負荷が限界に達し、過労自殺に至る可能性があることを理解しておく必要があります。過労死ラインとされる月間80時間を超えるほどの時間外労働でなくても、ハードルを飛び越えてしまう労働者はいるのです。

電通の女性社員のケースではパワハラの存在も報道されていました。上司からのパワハラに加え100時間を超える時間外労働…彼女の窮状がどれほどであったかを想像すると言葉をなくします。

平成27年度で約600人と推定される過労自殺者のうち、労災認定されたのはわずか93件です。もちろん600人すべてが労災申請しているわけではないですが少ない印象は否めません。自殺の場合は生活苦や対人関係など仕事以外の原因も考えられます。もし、それを使用者が責任逃れのために都合よく利用しているとすれば、何ともやりきれません。

4.追い詰められる前に電話相談を!弁護士らが過労死防止へ水際作戦

過労自殺の問題に早くから取り組んでいるのが、弁護士を中心とした過労死弁護団全国連絡会議です。同連絡会議は「過労死110番」という全国ネットワークを組織し、労働者等からの相談を受け付けています。1988年6月に始まった電話による全国一斉相談が契機となって、過労死・過労自殺の存在が広く知られるようになりました。

「過労死110番」に寄せられる相談のうち、本人からのものは約2割にとどまります。妻からの相談が全体の3分の1を占め、これに本人以外の親族を加えると全体の6割近くになります。つまり相談者の多くは本人以外の親族です。

家族が単なる「仕事による疲れ」を超えた異変を察知しているということでしょう。誰しも精神的に追い詰められると正常な判断能力を維持できなくなることがあります。異変の現れはSOSです。過労自殺を防止するためには、SOSのシグナルを家族が注意深く感じ取ることが大事だといえます。

5.まとめ

電通の社員手帳には「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは」という文字が刻まれていたと言われています。高い目標設定とその実現を強いられる環境にあってはサービス残業はあたりまえ、デキル社員になるためには寝る間も惜しんでクライアントの要求に応え、会社の業績を上げることが求められていたのでしょう。

やりがいのある仕事を任されれば誰でも頑張ります。新入社員ならなおさらです。でも際限なく頑張れるわけではありません。

もし周りに頑張りすぎている人がいたら、気にかけてあげましょう。誰にもいえず限界が来るのを待っている状態かもしれません。あなたの一言が過労自殺者を減らすことにつながります。

記事制作/白井龍

ノマドジャーナル編集部
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