第15回で非営利法人を紹介しましたが、必ずしも利益を上げていくことだけがビジネスの目的ではありません。身の回りの課題の解決を図ったり、社会をより良いものに変えていこうという目的のもとにビジネスを行うこともあります。このようなビジネス形態はソーシャルビジネスとも呼ばれます。

ビジネスで社会課題を解決していくということ

一般的に社会的な課題を解決することを目的としたビジネスをソーシャルビジネスと呼びます。隣接する概念として、社会奉仕・ボランティアがありますが、これらとの大きな違いは、あくまでビジネスとして持続可能な形で事業を続けていくという点です。

例えば、過疎地の買い物弱者という共通したテーマであったとしても、ボランティアとソーシャルビジネスではアプローチ方法が異なってきます。
歩ける範囲に生鮮食品を扱う店がない、買い物に行くだけで一日仕事という集落があったとします。そして車を運転することができない高齢者は、満足に買い物に行くこともできずに日々の生活に困っています。
この高齢者の悩みを解決していくためには様々な手法がありますが、ボランティアの立場で考えると、買い物代行という選択肢が出てきます。車を運転できる人が、車を運転できない高齢者の分もまとめて買ってくるというものです。

一方、ソーシャルビジネス的な立場で考えていくと、車を運転できない高齢者でも買い物ができる場を作るというのも選択肢に入ってきます。ボランティアベースではなく、ビジネスベースで課題解決策を考えていくのです。

ボランティアというのも、する方、受ける方の双方にとって負担が大きいものです。

ボランティアをする方からすると、他人の分の買い物までするわけですから手間がかかります。また、相手のことを気遣って、自分は必要のない時期でも買い物に出かける等、有形無形のプレッシャーが生じます。
ボランティアを受ける方からしても、相手の厚意に甘えているのではないかと負い目を抱きがちです。本当はお菓子やお酒といった嗜好品が欲しくても遠慮して頼むことができないということもあるでしょう。

金銭、対価を介在させないボランティアベースの活動というものは、社会のあり方としては美しいですが、義務感や罪悪感でがんじがらめになって息苦しさを覚えてしまうこともあります。

ソーシャルビジネスの場合は、あくまでビジネスを通じて課題を解決していきます。近くに買い物をする場がないということであれば、店舗を設置したり、移動販売車を導入して、ボランティアに頼らずとも買い物にいくことができる環境を作り上げていきます。
高齢者を助ける対象としてではなく、顧客として捉え、顧客の満足度を向上させるためにビジネスモデルを磨き上げていくのです。そのビジネスを利用する高齢者も、顧客の立場で要望を言うことができますので、妙な気苦労を生じることもありません。棚の中に自分が好む商品がなければ顧客として物申せば良いですし、要望を受ける側もビジネスベースで対応を考えていくだけです。

対価を支払う、受け取るというのは、お互いの存在と価値を平等な立場で認め合うということでもあるのです。

起業意識とソーシャルビジネス

ソーシャルビジネスというと高尚なものに聞こえますが、起業の形態としては決して珍しいものではありません。
例えば、自分が生まれ育った町から映画館がなくなるので、それに代わるミニシアターを開業する、映写機を担いで移動上映会を開催するといったこともソーシャルビジネスの一形態と言えます。経済合理性、利益重視で考えるなら、映画館が撤退したような町ではなく人口が多い場所で起業した方が効率的です。

駅前が寂れてしまって人が集まる場所がなくなったので、自らカフェを開くというのもソーシャルビジネスと言えるでしょう。カフェを開くのであれば、最初から人通りが多い場所を選んだ方が良いのはあきらかです。それにもかかわらず、あえて寂れた駅前を選んだということは、利益以外の目的意識があるはずです。

顧客の数が少ないので大手資本は撤退したものの、経営者個人の生活を賄う程度の利益は確保できるという市場は意外とあるものです。大きな成長は見込まずに、社会に寄り添うことを決めた起業者・経営者というのも少なくないでしょう。ソーシャルビジネスというのは身近な起業形態でもあるのです。

ソーシャルビジネスとクラウドファンディング

一方、ソーシャルビジネスというビジネスモデルは資金調達の面では不利に働きます。そもそも利益をあげることを重要視していないので、出資をしてリターンが得られるとは考えにくいですし、融資にしても事業性と返済能力を見極めることが難しいところです。

このようなソーシャルビジネス特有の資金調達の課題の解決策として注目を集めつつあるのがクラウドファンディングです。特に、起業時のスタートアップ資金をクラウドファンディングによって調達するという事例が増えつつあります。

最近だと、保育園の新設、増設といった子育て関連サービスのクラウドファンディング事例が目立ちます。近所に保育園があったら良い・子供を預ける場所が欲しい、その実現のためには資金を出しても良いと考える人は多いのでしょう。

市場規模が小さいために大手資本から見放されてはいるものの、町にこんな店があったら良い、こんなサービスを行う会社が欲しいという声自体は地域内に埋もれています。こうした声を掬い上げる、共感を集めることによって資金を調達していくクラウドファンディングはソーシャルビジネスとの相性が良いのです。

記事制作/ミハルリサーチ 水野春市

ノマドジャーナル編集部
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