前回、外国人を多く受け入れた国のひとつとして、ドイツの現状を紹介しました。今回は、わたし自身が、外国人としてドイツで働いてみて感じたことを書こうと思います。
わたしは日本の大学を卒業後、半年働き、2014年の9月にドイツにやってきました。半年間のワーキングホリデー中はパートタイムで、ドイツの大学に入学後は、カフェでアルバイトしました。 さらに、ドイツで就職活動をした経験もあります。
自分自身が外国人として働いたことから、「外国人として働く」とはどういうことか、考えたことをお伝えします。
外国人は「特別」なのか?
日本で外国人を採用するのは、どういう場合でしょうか。多くの場合、外国人は「外国人枠」で採用されます。仕事は外国との取引や外国人(日本語を母国語としない人)を相手にすることがほとんどです。
日本で就職活動をしたドイツの友人はみな、英語が公用語の部署で就職活動をしていました。日本語がある程度話せていても、日本人と同じように就活するのはむずかしいのが現状です。
ドイツでは、良くも悪くも「外国人扱い」はされません。差別にあたるので、外国人扱いはされてはいけないのです。もちろん難民制度などにより多少ビザの種類がちがったりはしますが、ドイツ人ではないから採用枠が別であることは、まずありません。
そのため、わたしがドイツで仕事をさがしたときは、他のドイツ人たちと同じ枠をめぐって競っていました。日本よりはるかに外国人比率が大きいので、「外国人枠」などを作れないという現実的問題、さらに表立って「外国人扱いをすること」が社会的タブーであることから、このように「外国人も平等に」という状況になったのでしょう。
ですが、いくら「平等」とはいえ、外国人はいくらドイツ語を勉強しても、ネイティブに敵わないことが多々あります。結果的に、移民背景がある人とない人の間に収入差が生まれているのが現実です。
わたしが就職活動をしたとき、ドイツ語レベルはC1ほど(英語に換算すると、英検1級、TOEIC900点以上)でした。それでもネイティブと同様に仕事をするのはむずかしく、結局仕事は見つかりませんでした。そう考えると、外国人採用枠がある日本の方が、外国人には優しいのかもしれません。
国籍よりも個人の能力を重視
わたしが就職活動していたとき、「外国人のなかでドイツ語がそこそこ話せる」という自負があり、「きっと仕事も見つかるだろう」という甘い考えを持っていました。
ですが、ドイツはいまや、5人に1人が移民背景を持っている状況です。そんななかで、「そこそこドイツ語ができるだけの外国人」なんて、吐いて捨てるほどいるのです。「外国人だから、ネイティブほどドイツ語ができなくても仕方ない」と思ってもらえるなどと思うのは、あまりに軽率でした。
外国人扱いをしないことが前提のドイツでは、外国人であることは、言い訳やアドバンテージとして使えません。採用の基準は、「ドイツ語がどの程度できるか」「採用職種にどれだけ詳しいか」「どんな性格か」などです。
どの国出身で、母国語がなにか、どんな宗教を信仰しているか、などを面接で聞くには、注意が必要です。聞き方次第では、「差別」として大問題になります。ドイツという国は、そうやって外国人とドイツ人の均衡を保っているのです。
特別扱いと「理解」のちがい
ドイツのとあるカフェで働いていたとき、時折、お客さんの言っていることがよくわからいことがありました。お年寄りのドイツ語や方言などはまだハードルが高く、ケーキの種類などもあまり詳しくなかったため、何度も聞き返すことがありました。
聞き返してもわからないことは、ほかの人にオウム返しをして、「お客さんにこう言われたけどわからなかった」と正直に言いました。
わたしはそれがとても悔しかったし、情けなく思っていました。ですがほとんどのお客さんは、何度もゆっくり繰り返してくれ、身振り手振りで言いたいことを丁寧に伝えてくれました。
助けを求めた同僚も、「あなたがマジメに働いてることを知ってるから、謝らないで。できないことはできる人がやればいいのよ」と言ってくれました。
それがとてもうれしかったし、できないこともあるけれど、それでもできることを一生懸命やろう、と心に決めました。
ですがそれと当時に、「日本ではどうだろう」とも考えました。
わたしは以前、横須賀の居酒屋で働いていました。米軍基地があるので、アメリカ人の方が来ることも少なくありませんでした。
年末で店内がとても込んでいたとき、アメリカ人のお客さんがやってきました。バイト仲間は、「いま込んでいるから、席は2時間制、料理に時間がかかる」と英語で説明することができないから、アメリカ人2人を門前払いをしたのです。衝撃的でした。
また、以前弁当屋に行ったとき、ハンバーグが冷たかったとクレームをつけている方がいました。対応した店員は東南アジア系の名前の名札をつけていて、見た目も日本人ではありませんでしたが、できる限り丁寧に、言葉を尽くして対応していました。それでもその客は、「ガイジンじゃ話にならない、店長を出せ」と怒鳴りました。それを見て、とても悲しい気持ちになりました。
日本は、ドイツのように、「外国人にも平等に」という考えが発達していません。外国人を受け入れることを拒んできた歴史や、相対的に外国人人口が少ないことを踏まえれば、当然のことかもしれません。
ですが現在、日本だって、外国人労働者の受け入れを推進しているのです。いまや多くの外国人が、日本で、日本人と同じように一生懸命働いているのです。それならば、日本はいつまでも外国人労働者を特別扱いするべきではないはずです。
人口が減り、積極的な外国人の受け入れをはじめた日本。日本が日本人だけのものではないということを自覚し、外国人労働者も「一個人」として、平等に扱うべきではないでしょうか。
取材・記事制作/雨宮 紫苑
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