全24回の連載も、残るところあと4回になりました。残りの4回は「外国人労働者は日本の希望になりえるのか」について、いまいちど考えていきましょう。
その第一歩として、まず「もし日本が外国人労働者をもっと積極的に受け入れたらどうなるのか」について、ドイツの実情をもとに想像してみましょう。
いままで何度も、「日本は外国人労働者の受け入れを甘く見すぎている」と書いてきました。もし、外国人労働者を際限なく受け入れていったらどうなるのでしょうか。外国人労働者の受け入れについて考えるとき、未来の予測、将来図なくして議論することはできません。
ドイツでくすぶる宗教問題
わたしが住んでいるドイツには、多くの移民や難民が暮らしています。「人道的である」アピールのために難民をどんどん受け入れたため、家賃は高騰して家が見つからないドイツ人が増えたり、ドイツでなにもすることがない、できないためにドイツの社会保障のみで暮らしている移民・難民も少なくありません。
特に懸念されているのは、ドイツのイスラム化です。隣国フランスでは以前、「ブルカ禁止法」と呼ばれる法律が成立しました。ブルカとは、ムスリムの女性が髪や肌を隠すために使うヴェールの一部のことを指します。
「髪を覆ったから違法!」というわけではなく、場合によっては目以外の顔すべてを覆う場合もあるので、「公共の場で顔を隠すのは防犯の観点から許されない」という理由の禁止でした。それに対し、ムスリムたちは当然反発。「差別問題」に発展したのです。
ドイツの有力紙である『ヴェルト』は2012年8月17日、「トルコ系移民はムスリムが多数派になることを望んでいる」という記事を公開しました。そこでは「イスラム教が唯一正当な宗教である」と答えている人が72%であり、「ドイツはもっとモスクを建設すべきだ」と答えた人が55%だという結果が報じられています。
イスラム教が一神教であること、自らの宗教をわざわざ否定することもないだろうということを踏まえ、当然の結果と言えるでしょう。しかしドイツは基本的にキリスト教国家ですから、ドイツ人たちがその状況に危機感を覚えるのは理解できることです。
日本はあまり宗教にこだわらない人が多いので、逆にさまざまな宗教を受け入れることができます。ですが、たとえばイスラム教信者が日本市民の過半数を超えたとして、それは「日本」として受け入れられることなのでしょうか。
ドイツで起こった想定外の事態
そもそもドイツの外国人受け入れは、日本と同じく「労働者」を前提にしていました。一定期間ドイツで出稼ぎはするが、十分に働いたら帰国すると考えていたのです。ですが技能実習生のように「帰国しなくてはいけない」という規則があったわけではないので、結果的に多くの外国人労働者が定住し、その上で母国から家族を呼び寄せ、移民としてドイツで暮らし続けることになりました。それでもあくまでドイツは、彼・彼女たちは「外国人労働者」という認識でいたのです。
建前上、移民は「いない」わけだから、移民をいかにドイツ社会に統合させる か等の政策もなかった。トルコなどからの移民やその二世、三世の多くは、ドイツ社会から分離され、集住し、十分なドイツ語会話能力に欠け、教育水準に劣るといわれるが、その背景の 一つが、移民は「いないふり」をする政府の姿勢、移民政策の不在であった。
出典:移民問題グローバルレポート
このレポートからもわかるように、外国人労働者はあくまで帰国を前提としたものであり、その後ドイツに及ぼす影響の予測が甘かったのです。
日本でも、同じことが起こるのではないでしょうか。現在積極的に外国人労働者を受け入れいていますが、それはあくまで「労働者」であって「移民」とは認識されていません。ですが労働者が定住すればそれは自然と移民問題に発展するのです。
外国人労働者を受け入れるのであれば、「移民として受け入れる」ことを前提に、もっと戦略的で効率的な政策が必要になります。特に移民に関しては、入国の規制だけでなく、経済的、社会的にどのような影響を及ぼすかを慎重に考えて対処していかなくてはなりません。
日本に、そのような戦略を展開できる専門家がいるのでしょうか。ドイツと同じように、「いずれ帰国するだろう」とタカを括っている気がしてなりません。
移民受け入れ問題で問われる日本の本気
ドイツだけでなく、多くの欧米の国々をみればわかることですが、移民の受け入れは「その国らしさ」の放棄にもつながります。
信仰に基づいた服装や食文化を守り、礼拝したいという人の権利を、軽々しく否定はできません。ですが移民の権利を尊重すれば、受け入れた国の伝統は壊れます。外国人労働者が移民として定住することを理解して受け入れるのであれば、「移民と共存する日本」を新しく作っていく覚悟が必要となります。また、どう受け入れるのが最適かを国家戦略として展開させていく必要があります。
その覚悟がないのであれば、日本は外国人労働者をむやみに受け入れずに済むように、出生率の向上や労働環境の改善、外国人受け入れの戦略化など、ちがう角度から政策を実行しなくてはなりません。
受け入れるにせよ受け入れないにせよ、日本には覚悟が求められています。ドイツをはじめとして移民受け入れによって生まれる摩擦を見ていてもなお、「外国人労働者はいずれ帰国するから移民ではない」と言い切るのは無理があります。
日本が外国人労働者を積極的に受け入れれば、10年後、20年後にはドイツの現状と同じような状態に陥っている可能性が高いです。ほかの国の実情をしっかり理解し、もっと現実的な未来予測のもと受け入れについて考えなければ、ドイツと同じような不安定な社会になるのではないでしょうか。
取材・記事制作/雨宮 紫苑
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