売り物であるスキルや知見は、放っておけば年々陳腐化する。仕事の上で生じる喜びや葛藤を共有できる相手も限られる。そんなフリーランスが長く生き延びて、成功をおさめるために必要なこととは?

 

これは僕自身が「フリーランスと働き方改革」というテーマでこのコラムを綴り始めた当初から考え続けてきたことだ。

 

曲がりなりにもフリーランス・ライターとして生きている今、明確に感じているのは「企業との関係性」が重要であるということ。ごく当たり前なことなのかもしれないが、ここを突き詰めて考えていかなければフリーランスは成り立たないと思うのだ。

 

企業は、フリーランスと取引をする時点でリスクがある

フリーランスの仕事は、そのほとんどが企業から発注されて生まれる。以前にも紹介したが、僕の場合もこのコラムのような記事やインタビュー記事、採用コンテンツなど、さまざまな案件を受注している。

 

一定の売上を保っていくためには、複数の企業と取引をしながら同時並行で仕事をこなしていく必要がある。強みを明確にしてジャンルを絞っている人、あえて幅広いジャンルにわたってチャレンジしている人など、そのスタイルもさまざまだ。

 

ただ、こうした案件の多くは「そのフリーランスの現在のスキル・知見」に応じて発注されている。企業側から見れば、一定のクオリティが保たれる見込みがなければ仕事を任せることはできないし、法人ではない個人事業主のフリーランスと取引をする時点でリスクを感じていることもあるかもしれない。

 

これは、「駆け出しのフリーランスは仕事を得るのが厳しい」というだけの話ではない。経験豊富なフリーランスであっても、スキル・知見が陳腐化して時代に合わなくなれば「取引をするメリットなし」と見られてしまうということだ。

 

コンテンツ制作を内製化する企業が求めることとは

企業からすれば、フリーランスの能力を見極めたりプロジェクトへの貢献度を事前に測ったりすることは難しい。にも関わらず、企業がフリーランスを活用するのはなぜなのか。僕は2つのポイントがあると思う。「必要なスキル・知見を低コストで得られること」、そして「柔軟でスピーディーな対応が期待できること」だ。

 

ライターという仕事を例にとって考えてみたい。僕は以前に編集プロダクションで仕事をしていたことがあり、現在は編集プロダクションからの仕事を請ける立場でもある。編集プロダクションという事業を一言で説明するのは難しいのだが、広義では「高いクオリティが求められる制作過程を一手に引き受ける」事業と言えるだろう。

 

企業がイメージする制作物(ウェブコンテンツや書籍など)の要件に則って、必要なライターやカメラマン、デザイナー、場合によっては識者や芸能人などをアサインする。そうした外部リソースをマネジメントし、プロジェクトを進めていく管理者の役割だ。企業はほぼ手放しでも制作を進められる。その分、コストはかかる。

 

最近では、企業がこうした管理者の役割を内製化するケースが増えていると感じている。プロジェクトを自分たちで指揮し、必要な外部リソースも自分たちで調達する。個人のフリーランスは概ね編集プロダクションよりも低い単価で仕事を請け負うため、やり方次第では「必要なスキル・知見を低コストで得る」ことが可能になるのだ。フリーランスはその場で業務スケジュールを組むため、「柔軟でスピーディーな対応を期待」することもできる。

 

こうした流れを考えると、フリーランスが企業との関係性で意識すべきことが見えてくるように思う。

 

「ちょっと変わった案件」の直接取引も

実際のところ、ここ1年で僕が受注した仕事の中には「企業から直接依頼された、ちょっと変わった案件」も多かった。

 

採用コンテンツの制作という入り口だったが、求職者に注目されるための基盤となる企業力向上が必要と判断し、「理念の見直し」から着手したケース。この場合は社長をはじめとした社内の関係者へ取材を重ね、最終的なアウトプットとして新しい理念をテキスト化した。

 

「自社メディアを持たない」企業からのコンテンツ制作依頼もあった。ライターを必要とするのは自社メディア(オウンドメディア)を運営している企業が多いと思うが、ここはそうではなかった。「今、どこに載せるかは決まっていないけれど、自社にまつわる記事を制作しておきたい」「将来的にメディア運営を始めた際の資産となるコンテンツを早めに確保しておきたい」という依頼だった。

 

こうしたケースでは、フリーランス側の提案も重要な意味を持つ。企業の現状を見て、必要となるのはどのようなコンテンツなのか。それを考えて提案し、即座に実行できる(やるかやらないかは大抵自分の判断にかかっているからだ)のは、フリーランスの醍醐味とも言えるかもしれない。

 

企業は、フリーランスを活用することで「試験的なスモールスタート」がしやすくなるというメリットもある。大きな予算の枠組みを必要とせず、小さな取引からプロジェクトを動かす。フリーランスに発注するのはリスクを伴う一方で、スモールスタートによって社内決裁をスムーズにする効果があるのだと思う。

 

こうして始まったプロジェクトが、いずれは他のフリーランスも巻き込む大きな事業になるかもしれない。そんな楽しみもあるのだ。

ライター:多田 慎介

フリーランス・ライター。1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイトとして入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職に従事。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。