世の中で働き方改革が叫ばれるようになり、「より柔軟な働き方、個人のライフスタイルに合った働き方を実現しよう」という風潮が強まってきました。そんな中、専業主婦層にも、労働の担い手としての活躍を期待する熱い視線が注がれています。
かつて女性は、結婚や出産と同時に退職するのが当たり前でしたが、「本当は働き続けたかった」という人もいたはず。また、「子どもから手が離れたので、再び働きたい」という意欲を見せる女性も少なくありません。

 

積極的に専業主婦を雇用しようという動きも出てきている一方、ブランクがあると、まだまだ再就職が難しいのが現状です。その理由としては、
・ブランクそのものがマイナスと見なされる
・中途採用は即戦力が求められるが、ブランクにより能力が低下していると見なされる
・正社員として復職できる確率より、パート・アルバイトとしての確率が高い

といった状況が挙げられます。

 

ブランクを経ての復職に不安を覚えるのは、企業サイドだけではなく、個人も同じです。その両者のニーズをうまく満たす解決策として、注目を集めているのが”ママインターン”という取り組みです。
今回は、ママインターンを支援するNPO法人Arrow Arrow代表理事の堀江由香里さんにお話を伺ってきました。

 

第一志望の内定を諦めた友の言葉で一念発起

Q:堀江さんがArrow Arrowを立ち上げた原体験は、学生時代の就職活動にあったんですよね。

堀江さん(以下、堀江):

そうなんです。私が就職活動をしたのは、氷河期まっただ中のことでした。第一志望の企業の内定を獲得した親友が、「結婚や出産を経て長く働き続けるイメージがないから、あきらめる」と言って、内定を蹴ってしまったことが衝撃的だったんです。「意欲ある若者に、こんなセリフを言わせてしまう状況は、おかしい。女性が生きづらい世の中を変えたい。いつか、組織をコントロールできるくらい偉くなる。独立する!」と心に決めました。

 

私自身は、無形の営業ができて、女性の管理職がいて、3年で辞めると言ったら面白がってくれる会社は?という軸で探しました。「何万社もある中から、自分に合う会社に出会おうとするのって至難の業だな」と思っていたのですが、なんとなく「出会うべくして出会うだろう」という自信はあったんです。結局、当時急成長していたベンチャーの人材派遣会社に就職しました。同時に、「やはり、何かしたい」という思いから、同期の内定者と一緒に、就職支援のNPOを立ち上げました。

 

丸3年勤めたのち、起業ではなく、転職を選びました。1社目では、人事部を立ち上げたりと、刺激的な経験をさせてもらいました。ですが、掲げたビジョンと現実の乖離のために、せっかく採用した人が辞めてしまうのを目の当たりにしたり、採用する側の実情に触れたりする中で、今後のキャリアについて悩んでいました。そんな中で、NPO法人フローレンスとの出会いがあり、フローレンスがワークライフバランス事業部の立上げをするタイミングで、転職するに至りました。フローレンスでは2年半、自組織の残業削減、広報、病児保育事業の部長など、さまざまな経験をさせてもらいました。

 

「独立はあくまで手段であって、自分がやりたいことができるなら、どこでもいい」と思っていましたので、フローレンスに居続けることも考えたのですが、やりたいこと、自分自身のライフイベント、世の中の動きなどを鑑みて、このタイミングで独立をしました。

ママ自身、企業、自治体、みんなをハッピーにしたい

Q:創業当時から、ママインターンは存在していたのですか?

堀江:

国からの助成金を得るために、ビジネスコンペに出場していたので、ビジネスモデルを考え抜きました。当初からママインターン事業のようなビジネスモデルは構想していたのですが、2010年時点では、箸にも棒にも引っかからなくて。「そんな制約のある働き方を受け入れたい企業など、絶対にない!」と否定され、それならば、と企業コンサルにプラン変更し、そこから入ることになったんです。

 

Q:そうだったんですね!それが今、こんなに注目を集めているなんて。手応えを感じ始めたのは、いつ頃からですか?

堀江:

ごく最近かもしれませんね。最初は、国分寺市との協働事業として3年前にスタートして、今年度ようやく市の政策の中に再就職支援事業として盛り込んでもらうことができました。地道な活動の中で、だんだん認知度が上がってきた印象です。
エリアに特化する意味は、とても大きいんです。ママにとっては、家と勤務地が近いから、通勤時間がかからなくて済む。自治体にとっては、納税者としてお金を落としてもらえる。双方にメリットがあります。すぐには結果が見えなくても、長い目で見て、ママ個人だけではなく、自治体にもメリットがあるということを伝えられたらと思っています。

 

私たちが必要とされなくなる社会をつくることが目標

Q:ママインターンの中身について、くわしく教えてください。

堀江:

まずは、3時間×3回のキャリア講座ワークショップを受けます。その後、数日間の職場体験をし、振り返りを行います。双方に希望があった場合は、その会社に就職する流れです。
これらのステップを通じて、再就職への具体的なイメージをつかんでもらい、再び働くことへの後押しをしていきます。

 

このプログラムは、なかなか自分からは動けない、自信が持てない人たちを対象としています。最初は自信がなかった方が、「私でも、できるかもしれない」「私、行動できるんだ」とだんだん自信を取り戻し、変化していく姿が印象的ですね。実際に、インターン先に就職を決めたり、派遣に登録したり、外部の講座を受けに行って企業探しをしたりといった、実践的な動きに持っていくまでの期間は、実は短いんですよ。

 

これまで、2年間でトータル50名くらいのママさんがインターンプログラムを受けてくれました。就職率も、今年は6割くらいまで上がってきています。当初週2勤務スタートだった人が、今では週4~5で働いていたり、組織の中枢に入って行ったり。入社した個人が活躍することで、受け入れた会社や自治体が活性化していく、良い変化も見え始めました。
また、同じエリアでやり続けたことによって、認知が上がり、口コミで広がったり、受け入れてくれる企業数が増えたりしてきました。細々とでも、やり続けることって大切だなと感じますね。

 

実施エリアが全国に広がってきたので、各地方の事情に合わせてプログラムをカスタマイズしたりしています。今では、東京都世田谷区、小金井市・調布市、宮城県名取市、群馬県高崎市、静岡県三島市、愛知県名古屋市の全国6か所に展開できるまでになりました。行政と組んだり、地域に根差して活動をしている団体と協業したりして、私たちのノウハウを移管してきました。

 

Q:独自の素晴らしいノウハウなのに、他団体に移管してしまうんですね。もったいないとは感じませんか?

堀江:

私自身は、自分たちの団体が大きくなることそのものには重きを置いていません。「社会課題をどうやって解決していけばいいか」と考えた時に、それぞれのエリアで頑張っている人たちにノウハウを移管し、エリア特性を踏まえて独自のプログラムに昇華して展開していってもらうのが、ベストだと思っています。

創業した時に、企業ではなく、NPO法人としたことにも、同じような意味があります。私たちは、必要なくなって、いなくなることが最終的な目標なんです。実現したい世界観は、女性が企業で活躍することで、利益が生まれるようになり、女性たちのキャリアの選択肢が増え、個人も企業もハッピーになることです。その状況が当たり前になったら、私たちは必要なくなりますから。

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。