2017年、連日のように副業や働き方改革のニュースを見るようになりました。しかし、いまいちなんで副業が容認されるようになったのか?副業がOKになったから今後どのような影響が自分たちにあるのか?というあたりがよくわからないという方も多い気がしますので、今回はそのあたりをまとめてみたいと思います。

どういう流れで副業が容認されるようになったの?

政府の働き方改革の概要

政府は少子高齢化が進むなか、日本経済の再生に向けて働く人の視点に立ち、「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しもが活躍できる社会」を目指して「働き方改革」提唱し、2016年9月に「働き方改革実現推進室」を設置しました。働き方改革とは、一億総活躍社会の実現を目的とし、多様な働き方を可能にするとともに格差の固定化を回避して中間所得層の厚みを増して成長と分配の好循環を目指します。

2016年9月から全10回にわたって行われた働き方改革実現会議において議論が交わされ、2017年3月の最終回で具体的に以下の9つのテーマからなる「働き方改革実行計画」が策定されました。

  1. 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  2. 賃金引き上げと労働生産性の向上
  3. 時間外労働の上限規制等の在り方など長時間労働の是正
  4. 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定させない教育の問題
  5. テレワーク、副業・兼業などの柔軟な働き方
  6. 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
  7. 高齢者の就業促進
  8. 病気の治療や子育て・介護と仕事の両立
  9. 外国人材の受け入れの問題

それ以前の背景〜なぜ政府は働き方改革の実施を決めたのか?〜

政府が今働き方改革を進めるのは様々な問題の解決を狙ったものですが、最近騒がれている部分だと主に以下の4つの理由によります。

  1. 少子高齢化の進展による労働力人口の減少対策
  2. 長時間労働の是正
  3. ダイバーシティ(多様性)マネジメントと生産性向上の推進
  4. オープンイノベーションの推進による企業の成長促進

働き方改革の一環として社員が副業を行うと起業家精神やさまざまなスキルの養成が期待できます。また優秀な人材ほど副業のチャンスも多く副業を禁止すると人材確保が難しくなるなどから、企業は副業を容認/解禁しはじめています。さらに、政府も副業の解禁で新たな発想による起業が経済全体を活性化させるとして、2016年12月に副業を「原則容認」すると発表し、副業解禁への流れが強くなりました。

副業が容認/解禁された企業の事例一覧

日産自動車

不況時に工場生産調整による減産で生じた臨時休業日にかぎり副業を行う内容を会社に届け出ることを条件に勤務時間が8時間以内であれば副業を容認しています(働き方改革の以前2009年から)。

ロート製薬

土日・祝日など会社の休業日のみならず平日の勤務終業後にも副業を認める「社内チャレンジワーク」と、社内の複数の部門や部署の仕事を行う「社内ダブルジョブ」制度を容認しています。募集対象は入社3年目以降の国内正社員。副業を行う内容を直接人事部に申告し、人事部と面談して許可が得られることが条件となっています。

富士通

不況時に減産に生産調整の実施した半導体を製造する子会社の4工場で上司の承認を得ることで副業を「例外的な措置」として認めています(働き方改革の以前2009年から実施)。

ヤフー

事前に申請をすれば副業を認めています。ただし、競合他社や本業に支障が出るような仕事などは禁止されています。

公務員も副業解禁なの?

副業解禁の流れは、法律上は副業が原則として禁止されている公務員にも一部で例外的に副業を認める動きが出てきています。

奈良県の生駒市は副業に従事する基準を策定し、2017年8月1日から市職員が公共性がある組織に限って副業を行って報酬を受け取ることを可能にしました。これにより、生駒市は市職員が地域活動に積極的に参加することを促進して市民と一体になって協働することで「まちづくり」が一層活発になることを期待しています。

対象となるのは「公益性が高く継続的に行う地域貢献活動で報酬を伴い、かつ生駒市の発展、活性化に寄与する活動」です。対象となる職員は「在職3年以上の一般職の職員で人事評価が一定の水準以上」です。

副業解禁によって私たちの生活にどんな影響があるの?

副業解禁は労働者個人の生活や企業の人事・労務マネジメント、および社会への影響が考えられます。どのような影響が考えられるのかそれぞれについてみてみましょう。

個人への影響

残業代もらった方が安定的だったかもというデメリットも

副業をすると今まで行っていた残業時間が一般的には減ります。副業は本業に比べると収入の継続性や安定性に欠けます。残業も多い月・少ない月が生じますがそれでも副業に比べると安定しています。せっかく積極的に残業を減らして副業に励んでも安定した収入が得られなかったという可能性があります。

人脈が広がる

副業をすることで本業のみでは出会うことがなかったさまざまなタイプの人と出会える可能性が高まります。本業のみでは人間関係が固定されます。また本業は同じ業務を長く続けることが多く異なる人と出会っても多様な考え方に触れる機会はそれほど拡大しません。一方副業では勤務する企業にはいないタイプの人とも出会える可能性があります。それによって、幅広いモノの見方、考え方ができるようになります。

スキルアップに繋がるメリットが大きい

副業をすることで書籍から学ぶこととは違った実践的なスキルを習得できます。また、多くの場合本業では業務が定型化されており、幅広いスキルが求められる機会は小さいですが、副業によってまったく異なったスキルを習得できる可能性があります。これにより今までのスキルを多角的な強化ができ、幅広い視野が持てるようになって、それを本業に生かすことも可能です。また、終身雇用制の崩壊や企業経営の不安定さ・不透明さが続く時代には社員にとってはリスクを軽減できるメリットが得られます。

企業への影響

効率的な業務設計への投資など新しい労働環境の構築が必要になった

副業を解禁することで生じる問題点を検討し、副業を行う社員が増加しても問題なく効率的に社内業務が遂行できるように組織や制度などの業務設計をして労働環境を新しく構築するための投資が必要になると考えられます。環境変化への対応力のない古い体質の会社には大きなデメリットです。

情報流出リスクへの対応を強化する必要性が高まってきた

社外で働く社員が増加すると必然的に社内の情報流出の危険性が高まります。社内の機密情報(顧客データ、新製品や営業などの企業戦略関連情報など)や広い意味では社員の所有するノウハウやスキルも含まれます。顧客の個人情報に加えて社内の重要な情報をどのように守るかという制度を現状より厳しくなるような見直しが必要です。

残業代を削るいい口実?

企業が社員の無駄な残業代が多いと感じている場合、副業を口実にして大幅な残業カット対策に利用できる可能性があります。しかし、安易に行うと企業への忠誠心が失われたり、優秀な人材のみが副業をきっかけに退職したりするリスクがあります。

外部人材の活用する絶好の機会

これまでの終身雇用制の崩壊や派遣社員の増加、およびアウトソーシングによる人材の流動化・外部企業の利用などによる経費の削減や業務の効率化に加えて、副業解禁は有用な選択肢として活用できます。まだ、制度ができあがっていませんが副業解禁によって優秀な人材を必要なときに必要な時間だけ活用できるようになる可能性があります。

社会的な影響

より顕在化する健康・過労問題

働き方改革では残業時間を削減することも目指す目標になっていますが、一方で副業を解禁することは新しい残業が生まれることを意味します。しかも、副業解禁によって社員のトータルの労働時間の把握が企業は困難です。そのため現在の健康・過労問題は企業による残業の強制で生じていますが、企業による残業カット・賃金カットが行きすぎると新たな健康・過労問題が顕在化してくる可能性が考えられます。

副業に対応したアナログ税制の改革の必要性

ひと昔前の副業は本業の企業とは異なる別の企業で働くダブルワークが主でしたが、現在はインターネットの普及によって企業に属して副業をするのではなく、個人または個人事業主として働く新しい形態が増えています。これをデジタル時代の副業とすると収入の把握が難しいという特徴があります。現在の働き方に課税される税制をアナログ税制とすると、アナログ税制ではデジタル時代の副業の収入が把握が完全にできていません。課税の公平化の観点からアナログ税制の改革が必要です。

フリーランスやパラレルキャリア/複業という働き方が促進されるきっかけに

副業解禁は、現在のフリーランスやパラレルキャリア/複業という働き方をさらに促進していく大きなきっかけになります。副業解禁が大きな流れになって進むなか、メリットを生かしデメリットを抑えた働き方、能力の生かし方を個人も企業も社会も目指していかないと働き方改革の目的は達成は難しくなります。

まとめ

話題になっている働き方改革の目的、働き方改革で副業が容認されている背景や副業解禁が個人、企業、社会への影響について解説しました。副業解禁によって新たな問題も生まれてきますが、副業解禁のメリットをより強く効果的に生かしていく必要があります。そのためにも働き方改革に内容や副業解禁がもたらす影響について理解が必要です。本記事を参考に副業と向き合ってください。