個人事業主やフリーランスとして事業をスタートしようと考えている方にとって、「保険の話」というのは、とても気になるテーマではないでしょうか。ご自身の「もしも」や「まさか」のリスクに、保険でそなえることができれば安心ですよね。

今回は、個人事業主の「保険」について考えてみましょう。

※記事の中では、個人事業主やフリーランスの方を包括して、「個人事業主」と記載させていただきます。

個人事業主になったら、健康保険はどうなるの?

多くの方は、企業勤めを辞めて個人事業主になると、必ずといっていいほど社会保険制度について悩むことになります。皆さんは、日本の社会保険制度の仕組みをご存知でしょうか。

日本には、「医療保険(健康保険)」「年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労働者災害補償保険(労災保険)」の5つの社会保険が存在します。中でも「医療保険(健康保険)」は多くの方にとってもっとも身近な制度ではないでしょうか。

「医療保険(健康保険)」とは、毎月一定の保険料を支払うことで、病院に行って診察を受けた時の医療費の自己負担が3割で済む制度です。

健康保険には主に、会社員(給与所得者)が加入する「健康保険」と、個人事業主などが加入する「国民健康保険」の2つの制度があります。会社員の場合、会社が個人の給与から保険料を天引きして代理納付してくれますが、個人事業主になると、自分自身で保険料を納付しなければなりません。

国民健康保険について

個人事業主として個人で健康保険に加入するとなると、一般的には「国民健康保険」を思い浮かべがちですが、国民健康保険以外の選択肢を選ぶことができる場合もあります。ここでは代表的な2つの加入方法についてご紹介しましょう。

⑴ 任意継続する

1つ目は、健康保険に加入していた被保険者が、退職後もそのまま退職した会社の健康保険に加入し続ける方法です。手続きとしては最も簡単ですが、在職中よりも保険料が上がる、加入期限が2年間に限定されるといったデメリットも存在します。

⑵ 健康保険の被扶養家族に入る

2つ目は、家族の健康保険で「被扶養者」になるという場合です。両親や配偶者が既に健康保険に加入している場合、扶養家族として認められると、ご自身で保険料を負担することなく健康保険に加入できます。扶養家族として認定されるためには、年収が130万円未満であることなど、いくつかの条件を満たすことが必要です。

個人事業主として収入面が不安定な方で、条件に合致する場合は、被扶養者として健康保険に加入するのがよいでしょう。

個人事業主が気になる、生命保険の話

健康保険と生命保険の違い

健康保険についてみてきましたが、民間の生命保険にも医療保険が存在します。どちらも「保険」という言葉が共通しますが、制度の違いについてご存知でしょうか。

「健康保険」は国の福祉制度であるため、全国民に加入義務がある、いわば“強制保険”です。健康保険の加入者は病院で診察を受けると、医療費の自己負担額が3割となります。70歳以上の方は現役並みの所得がない限り、自己負担額が1割〜2割に減額されます。もし健康保険に未加入の場合や手続きを失念していた場合、医療費が全額負担となる上に、法律で罰則が生じる可能性があります。「健康保険」には必ず加入しましょう。

「生命保険」は民間保険会社が販売している“任意保険”であり、さまざまな保障内容の保険が販売されています。また金融商品としての役割も持っているため、加入するためには条件や審査もあります。

保険料にも違いがあります。健康保険料は収入によって変動しますが、民間の生命保険の保険料は年齢や性別、保障内容によって変動します。

民間の生命保険に必ず加入しなければならないわけではありませんが、加入しておくと万が一のリスクにそなえることが可能です。

個人事業主におすすめの生命保険

個人事業主の場合、もし自分の身に万が一のことが発生した際、自分のことを守れるのは自分だけになってしまいます。そんな個人事業主におすすめの生命保険をいくつかご紹介しましょう。

生命保険には色々な商品がありますが、その中でも特に「医療保険」「収入保障保険」は個人事業主にもおすすめの保険です。

「医療保険」は、健康保険ではまかなえない入院費・手術費などの負担を軽くすることができます。「収入保障保険」は、失業した時や、事故で身体に障害が残り仕事ができなくなった場合に、収入相当を補填するというものです。万が一保険期間中に自分自身が死亡した場合は、家族の生活費として残すこともできます。

生命保険は、特に貯蓄が少ない場合や収入が少ない場合に、そなえておくと安心できるでしょう。

個人事業主として、税金対策に生命保険を活用できるか

個人加入の生命保険で節税ができる

個人契約で生命保険に加入すると、毎年確定申告時に、生命保険料控除を受けることができます。最大12万円まで控除されますので、生命保険に複数加入している場合、節税の意味でも必ず確定申告を行いましょう。

法人名義の生命保険で節税ができる

個人加入の生命保険だけでは、なかなか大きな節税効果を見込むことが難しいものです。その場合、もし既に個人事業主から法人化していて、法人名義の生命保険を契約することができれば、税金負担が軽くなる可能性があります。

法人名義の場合、終身保険を除く生命保険の保険料は損金として経費算入できます。例えば経営者自身や従業員に保険をかけている場合、掛け捨ての保険料は損金となるのです。損金として算入しておけば、法人所得が減っているものとみなされ、法人税の課税対象も減少。結果として税金負担が軽くなり、節税に繋がります。

節税を目的とした法人用の生命保険商品も存在しますので、法人化している方は、そういった保険を検討してみるのもよいかもしれません。

請負契約で賠償が発生してしまった際にそなえる保険

損害賠償にそなえる保険はあるのか

個人事業主として仕事を請け負っていく中で、クライアントから訴えられ、損害賠償しなければならないようなケースが発生する可能性はゼロではありません。保険で損害賠償のリスクにそなえることはできるのでしょうか。

損害賠償のリスクに対しては、個人契約か法人契約かで対応できる保険が異なります。例えば個人契約であれば、損保商品である自動車保険や火災保険、傷害保険の「個人賠償責任保険」で賠償責任のリスクにそなえることができます。法人契約の場合、IT業務や個人情報漏えい、ビジネスの総合的なリスクなどに特化した賠償保険を検討するのがよいでしょう。

まとめ

日常的に保険について考える機会が少ないと「保険は難しいから、後で考えよう」という意識が働きがちです。しかし保険を味方につけ、必要な保障を見極めることで、個人事業主として安心して業務を請け負うことができるようになります。

個人事業主である自分を守れるのは、自分自身だけです。ぜひこれを機に個人事業主として、ゆっくりと保険について考える時間を持ってみてはいかがでしょうか。

執筆者:神野 友里

大学卒業後、大手損害保険会社での勤務を経て、2016年よりフリーライターとして活動。前職の経験を活かした保険の話が分かりやすいと好評いただき、これまでも多数の記事を執筆。現在は新たな業界で本業を得ながら、副業によるパラレルキャリアを模索中。