副業サラリーマンの確定申告では副業での所得金額が多いほど、納税額が多くなります。そのため、税金対策をして納税額を減らしたいと考えるのは当然です。しかし間違った税金対策では税務調査で指摘される危険性が…ルールに沿った税金対策のポイントを解説します。

そもそも税金対策とは何か?

節税を成功させるためには明確なゴールを設定する必要があります。たとえば、確定申告で10万円の節税に成功したと仮定します。しかしそれが間違いだった場合、税務署へ同額(10万円)の税金を追って納付しなければなりません。これではお金を負担するタイミングが遅れただけで無意味です。このような事態に陥らないためにも、税金対策をきちんと理解する必要があります。

税金対策は基本的に税務署が認める節税方法

副業収入に対する税金の計算は確定申告書を提出して終わりではなく、当然税務署職員のチェックが入ります。その一環として、提出された確定申告書の税金の計算に対し実地調査が行われます。それが税務調査です。

たとえば、ビジネス仲間との忘年会費を確定申告で経費に落としたと仮定します。その場合、忘年会費が事業と関連するか・しないかが税務調査の争点です。例えばビジネス仲間から節税対策の事例を学んだなど、今後の事業展開に役立っていると税務署が認めた場合は確定申告どおり経費に落とせます。一方泥酔状態で参加した3次会のスナックパブ代は事業と関連していないと調査官は考えますので経費に落とせません。この場合、延滞税などペナルティの税金を余分に支払うだけ損します。

このように、基本的に税務署が認める節税方法が節税対策としては有効です。

税金対策は2つに大別できる

そもそも税金対策する動機は何ですか?

納税額を少なくして、お金を残すのが目的のひとつです。しかし例えば、税金対策のために忘年会費を10万円負担したとします。この場合同額のお金が減ってしまいます。一方節税できる金額は税率分だけです。つまり、節税額よりも実際に支払うお金のほうが多いです。

もう一例、今年はハウスクリーニングの副業収入が多く、節税対策でチラシ広告に投資したとします。この場合確かにチラシ広告代でお金は減りますが、広告効果で仕事が増えて現金預金への入金額が多くなるかもしれません。

このように、税金対策は「忘年会費のようにお金の減る節税」と「チラシ広告のようにお金の増える節税」に大別できます。

税務署が認めない税金対策

税務調査で争点になり、税金対策として認められなかったケースは2種類あります。「見解の相違」と「違法行為」です。例えばガソリン代5000円を負担したと仮定します。車は副業サラリーマンの場合、事業とプライベート兼用のケースが多いです。

「見解の相違」はガソリン代5000円のうち何割を事業用に使用したかどうかです。具体的に、確定申告で6割の3000円を経費として申告したのに対し、税務署は3割の1500円しか認めないケースが存在します。

「違法行為」とは、副業では車は一切使用していないのにガソリン代を経費に落としている場合です。もちろん税務署は1円も経費として認めません。

税務調査で発覚した「違法行為」による税金対策はもちろん、「見解の相違」でも常識とかけ離れている場合は税務署管内の履歴に残ります。

なお、経費の水増しは発覚しやすいです。税務署では業種別のデータベースと比較してチェックしているからです。

できるだけ経費に落とすのが税金対策の基本

名目ではなく、事業と関連する費用が経費となります。前述の忘年会費で節税対策など今後の事業展開に役立つ情報を得た場合は事業と関連しているといえます。いかに事業と関連する費用を見つけられるかどうかが税金対策のカギです。

自宅の費用を経費に落とす方法

サラリーマンは自宅の費用を全額負担するのが普通です。しかし、副業をしている場合は国や市区町村などが節税という形で部分的に補助してくれます。たとえば、所得税と住民税の税率が43%の副業サラリーマンが自宅家賃のうち、5万円を経費に落としたと仮定します。補助している金額(=節税額)は「5万円×43%=21500円」です。
具体的には、次の費用のうち事業割合分が経費に落とせます。

(1)自宅家賃

経費に落とすポイントは、仕事に使用したエリアを明確にすることです。例えばウェブ製作業で3部屋の内1部屋を使用した場合、事業割合は3分の1(≒33%)です。

(2)通信費

取引先との携帯電話や固定電話代を指します。事業割合は上記(1)と同じです。

(3)電気代

自宅で仕事する場合は経費に落とせます。事業割合は上記(1)と同じです。

マイカーの購入費用も経費に落とせる

マイカーを副業に使用した場合、自動車ローンの支払額を国や市区町村などが節税という形で部分的に補助してくれます。ただし自動車ローンの支払額自体は経費に落とせません。

例えば、購入費用120万円のマイカーを土日に週2日間、営業車として使用すると仮定します。この場合事業割合は使用頻度で計算し、「週2日間÷7日=約28%」となります。それを耐用年数(=税法上の使用可能期間)6年で分割して経費に落とします。この計算方法を減価償却といいます。

上記の例であれば「マイカーの購入費用120万円÷耐用年数6年✕事業割合約28%=5万6000円」が減価償却費として経費に落とせます。所得税と住民税の税率が43%の場合、「減価償却費5万6000円✕43%=2万4080円」だけ節税できます。

合法的に広告宣伝費用を前倒して経費に落とそう

前述のとおり、事業に関連する費用が経費となります。厳密には「その年、収入を獲得するために費やしたお金」が経費です。では翌年の収入金額を増やすために今年チラシ広告を出した場合、その広告宣伝費用は来年の経費となるのでしょうか。実は翌年の広告宣伝費用を今年の経費に落とす、「短期前払費用」という方法があります。これを用いると、例えば今年の12月1日から来年の11月末まで掲載する広告費12万円を今年中に支払った場合、全額12万円が支払った年の経費として計上できます。

短期前払費用は税金対策に有効です。経費に落とせる条件は次の通りです。

  1. 広告掲載などのサービス提供を受ける時期がその年をまたがっている
  2. その年の内に取引先へ支払う
  3. サービスを提供する期間が1年以内
  4. 広告掲載や家賃などサービスの質・量が確実に同じである
  5. 毎年、継続して前倒しで経費に落とす

経費に落とすだけが税金対策ではない!節税方法はまだまだある

もちろん、経費に落とすことだけが税金対策ではありません。他にも節税方法は存在します。ますば、所得税や住民税などの税金の計算方法をおさらいしましょう。

  • 収入金額ー経費=所得金額
  • 所得金額ー所得控除=課税所得金額
  • 課税所得金額×税率=税金

ここでは、収入金額と税率にフォーカスした税金対策を紹介します。

収入金額の計上を合法的に先延ばしにする方法

収入金額が少なければ所得金額が圧縮されるので税金対策となりますが、実は収入金額の計上を合法的に翌年に繰り越す方法があります。それが検収基準です。

通常、取引先へ商品などの納品やサービスを提供した時点で収入金額に計上します。しかし、取引先は提供を受けた商品やサービスを検品した後でないと売上代金を支払わないのが普通です。そのため、検品が完了した時点で収入金額に計上する方法が認められています。

例えばウェブ製作で取引先にホームページを納品した日が今年の12月中旬と仮定します。ホームページの検品を完了したのが翌年1月上旬の場合、検収基準による収入金額の計上タイミングは翌年となります。

ただし検収基準は取引先別に毎年継続するのがルールです。今年だけ適用など都合の良い運用はできませんのでご注意ください。

法人化して適用する税率を下げる

プロ野球選手など有名人が税金対策で、マネジメント会社を作るのはよくある話です。これは球団などから得た収入(=所得金額)を会社と個人に分散して、税率を低くするためです。これが法人化による税金対策です。

法人化は副業サラリーマンも選択肢に入れる価値があります。選択肢に入れるポイントは、「勤務先からの給与所得金額」と「副業の所得金額」を合算した課税所得金額が695万円を超えるかどうかです。

所得税は累進課税制度により課税所得金額に比例して税率が高くなります。具体的には次のとおりです。

  • 課税所得金額が695万円超:税:33%(所得税23%・住民税10%)
  • 課税所得金額が900万円超:税率43%(所得税33%・住民税10%)

一方法人の場合は税率は30%前後で、課税所得金額にあまり左右されません。

上手く所得金額を法人と個人に分散して、適用される個人の税率を低くすれば有効な税金対策となります。

ビジネス仲間を作ることが税金対策に強くなる最短コース

税金対策を学ぶのにビジネス仲間を作ることは有効です。例えば国税庁のホームページに事業割合というキーワードは掲載されています。しかし、具体的な割合までは分かりません。事業割合は個々によってケースバイケースだからです。そこでビジネス仲間から節税方法などの事例を聞くことが重要となります。

税金対策の勉強を独学でするのには限界がある

インターネット上には税金対策の情報が満載です。しかし、掲載されている内容を正しく理解できないと意味がありません。

例えばカウンセラーが短期前払費用で、来年分の費用を前倒しで経費に落とすことを考えたと仮定します。その際集客コンサルタントに今年の12月の始めから来年の11月末までの報酬を支払った場合、短期前払費用としては認められません。確かにコンサルティングサービスは年をまたいでいますが、家賃や広告掲載と違いサービスの質・量が同じとは限らないからです。税金対策を独学で勉強すると、短期前払費用などを中途半端に理解してしまい、このような判断ミスを誘発します。

また、事業割合など見解の相違により、税金対策が税務署に認められるかどうか不明なグレーゾーンについても独学で勉強するのは難しいです。税務調査はほとんど経験できず、税金対策の事例を入手する機会が乏しいため、仕方ありません。

税金対策の情報をビジネス仲間と共有しよう

ビジネス仲間と税金対策の情報交換をするメリットを検証しましょう。例えばビジネス仲間から「駐車場代は事業とプライベートで区分可能で、事業分は事業割合として経費とすることができる」という話を聞けば、今まで計上していなかった駐車場代を厳密に計算するきっかけが得られます。

また、「別居している両親も生活費を負担していれば扶養に入れることができる」という話を聞けば、最低でも「扶養控除38万円✕2人=76万円」の所得控除が適用できることを知ることができます。

その結果、経費に計上できる金額を増やせたり、税制上の恩恵を受けることができます。このような税金対策を「耳学問」できるのが、ビジネス仲間を作るメリットです。

まとめ

いかがでしたか?

副業サラリーマンが確定申告で納税するのは大変です。しかし、税金のごまかしはリスクが高すぎるので、ルールに沿った税金対策を施す必要があります。そのためには税金対策を知ることが必須です。各種事例を学び、時にビジネス仲間から知恵を授かり、税金対策を正しく進めてください。

執筆者:阿部 正仁

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。