色々なメディアで見聞きするようになった「働き方改革」。具体的に働き方改革の目的や内容、そして現在働く人たちに与える影響とは何なのでしょうか。ここでは働き方改革に関するサラリーマンや主婦、若者や高齢者など様々な立場への影響や、企業の取り組み事例を説明しています。

大きな目的は労働力の確保〜働き方改革の背景を知る〜

働き方改革の背景にある、一億総活躍社会

働き方改革とは、安倍総理大臣が掲げる「一億総活躍社会」の実現のための改革です。一億総活躍社会とは、50年後も今の日本の人口である1億人を維持するために、少子高齢化における労働人口の減少に歯止めをかけ、職場・家庭・地域で誰でも活躍できる社会を指します。

労働力不足解消のための3つの政策こそが、働き方改革

一億総活躍社会の実現、つまり労働力不足解消のための対策として「女性や高齢者の社会進出促進により働き手を増やす」「出生率を上げて将来の働き手を増やす」「労働生産性を上げる」の3つが挙げられています。

これらの実現への取り組みをまとめたのが働き方改革です。政府は2016年9月、内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置し働き方改革への取り組みを提唱しました。

3つの対策実現のために作られた9つのテーマ

働き方改革は、3つの政策実現のために作られた以下9つのテーマが柱になっています。

  • 働く人の視点に立った働き方改革の意義
  • 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  • 賃金引上げと労働生産性向上
  • 時間外労働に対する上限規制の導入など長時間労働の是正
  • 柔軟な働き方ができる環境整備
  • 女性、若者の人材育成など活躍しやすい環境整備
  • 病気の治療と仕事の両立
  • 子育て、介護等と仕事の両立、障害者の就労
  • 雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職、再就職支援

次に、サラリーマンや主婦など多様な立場から見た働き方改革の影響を、企業の事例を紹介しながら見ていきます。

サラリーマンの働き方改革とは 長時間労働是正と柔軟な働き方への取り組み

長時間労働是正の妨げ 「残業は美徳」の意識は変えられるか

長時間労働是正に欠かせない、残業をなくすための取り組みには、残業を事前申告制にする、残業や休日出勤自体を禁止にする、業務で無駄はないか見直すなどが挙げられます。

しかし、ただ残業禁止や休日奨励をするだけでは残業を減らすことはできません。例えば働き方改革が提唱される以前から、多くの企業が特定の曜日を「定時退社の日」としています。ですが実際には定時退社日でも関係なく残業している社員も多いです。いまだ日本社会で根強く残っている「残業は美徳」の概念を変えなければ、長時間労働はなくなりません。

また残業代目的の非効率な作業をなくすため、働き方改革では労働時間ではなく成果によって賃金などの待遇を決める裁量労働制も推奨しています。

テレワークで在宅も当たり前に?

柔軟な働き方の方法として、働き方改革でも取り上げられているテレワーク。職場に出社せず、離れた場所でも業務が可能となりますが、一方でツールの使用方法、導入への周知、対人でなければ難しい業務への対応についてなど、様々な問題も残ります。

これらの問題をクリアし、ありとあらゆる職場でテレワークが普及すれば、在宅勤務も当たり前になるかもしれません。

フレックス制度の導入

フレックス制度とは、あらかじめ1か月の総労働時間を定めた上で、始業時間や就業時間を職場ではなく労働者が決められる制度です。これも柔軟な働き方に寄与します。

ですが、フレックス制度は時期によって作業量に波があり、生産性が落ちてしまうのでコアタイムを広く取らざるを得ない企業には導入しにくい制度です。また、フレックスを導入済みでも「周囲が利用していないから」「ひとりで早い時間退社しにくい」など、職場環境が利用の妨げとなっていることも少なくありません。

副業が解禁になるか? 禁止になるか?

働き方改革の中では、柔軟な働き方ができる環境作りの一環として、副業が推奨されています。副業は、従業員には金銭面プラス新しい能力やスキル、人脈を得られるメリットが、職場側には、副業で従業員のスキルアップが見込めるメリットがあります。労働生産性向上にも有効となっています。

2017年2月のリクルートキャリアの独自調査によると、副業を容認、推進している企業は22%、禁止している企業が77%と、現状ではまだ副業に対しての風当たりは強いです。ただ、働き方改革の流れを受け徐々に考え方を変える企業も増えてきました。今後企業の方向性としては副業を解禁する・条件付きで解禁する・全面禁止の3つに分かれていくでしょう。

長時間労働是正・テレワーク・フレックス・副業を導入した企業の事例

トヨタ紡織は、部署ごとに週1日「コミュニケーションデー」を設定しました。これはノー残業デーのことですが、社員に浸透させるため、家族との触れ合いを大切にして欲しいという意味をこめて「コミュニケーションデー」という名称を使っています。

トヨタ自動車は、2017年12月から一般職を対象とした在宅勤務制度をスタートさせます。育児や介護をしている社員が対象で、勤務時間内に4時間在社すれば、残り時間は在宅勤務が認められます。限定的な在宅勤務制度ですが、働き方改革の中で他の企業に先駆けて在宅勤務を取り入れ話題になりました。

WOWOWは月間所定労働時間を7時間15分×就業日数、1日の最低労働時間を30分と定め、この範囲で始業就業を自由に従業員が決められるフレックス制度を導入しています。また、日産自動車は業種によって異なりますが、コアタイムのないフルフレックス制度を導入済みです。

ソフトバンクは2017年10月12日に「本業に影響のない範囲かつ社員のスキルアップや成長につながる」副業を、会社の許可を前提に解禁しました。

働き方改革がもたらす、若者や派遣社員たちの今後とは

派遣社員がどうして増えたか

派遣社員が増加した最大の原因は、バブル崩壊後の大不況です。正社員でもリストラやボーナス支給停止などのあおりを受け、終身雇用の安定性に揺らぎが生じ始めました。有効求人倍率も1倍をきり、新卒でも就職が決まらない超氷河期も訪れました。

できるだけ人件費をカットしたい企業とバイトよりも稼げてすぐ就ける職が欲しい求人者を結びつけたのが派遣制度です。1999年の派遣法改正では、派遣業務が「港湾運送・建設・警備・医療・製造以外」と大幅に拡大され、より多くの派遣社員が生まれました。

氷河期世代・中退者も多い派遣社員の現状について

現在の派遣社員には、氷河期世代で新卒での就職先が見つからず未だ派遣で働き続けている人や、高校や大学を何らかの理由で中退し非正規しか働き口がない人も多く含まれています。

特に長く派遣社員として雇用されている人は、正社員と同じ業務を行っているのにも関わらず賃金が低い、ボーナスも支給されない、いつ契約が切られるか分からない…といった不利な立場に立たされています。

同一労働同一賃金は若者を救えるか

働き方改革が挙げる同一労働同一賃金は、正社員派遣社員などの立場に関わらず、同じ業務を行っている人には同じ賃金を支払い、企業内での格差をなくすための取り組みです。しかし企業内で同一労働同一賃金となっても、企業間で格差があれば社会全体としての格差改善にはつながりません。

既に海外で導入されている同一労働同一賃金は、企業内ではなくその人が持つ能力やスキルに応じて一定の賃金を定める方式になっています。これなら、企業間での格差もなくなり、能力に応じた正当な報酬が貰えるようになります。ですが終身雇用が前提である日本では、まだ導入までの道のりは険しいです。

若者を蝕むブラック企業やブラックバイトの是正への課題

氷河期世代や中退者の中には、ブラック企業と呼ばれる劣悪な環境でやむを得ず働く人もいます。就職前の学生が、学費のためにブラックバイトをしていることも。

働き方改革では、長時間労働の是正のために裁量労働制を推奨していますが、これがブラック企業の温床となる可能性が指摘されてます。働き方改革の中でも、「一定の労働関係法令違反を繰り返す企業の求人票をハローワークや職業紹介事業者が受理しないことを可能とする」と、ブラック企業対策と思しき文言は記載されていますが、具体的な対応策は明確にされていません。

目先の長時間労働だけでなく、ブラック企業やブラックバイトへの具体的な是正がされない限り、真の働き方改革は達成できないと言えます。

労働力不足に歯止めをかける 女性への働き方改革とは

女性の離職率の高さにある「家事育児は女性」の意識

労働力減少の要因に女性の離職、そして出生率の低下があります。働き方改革では女性の人材育成や活躍しやすい環境整備についても盛り込まれています。

女性は外的要因による離職が少なくありません。育休や時短など、出産後でも女性が働きやすい環境を既に整えている企業も多くなりましたが、復帰後も子供の病気や介護、育児との両立の困難、保育所の入所不可、配偶者の転勤に伴う転居など、様々な要因でやむを得ず離職することがあります。

女性の高い離職率の裏には「家事育児は女性」の意識がいまだ根強く、仕事以外のことに対し女性にかかる負担が大きいという背景があります。この意識を払しょくし、女性の働き方改革を行うには男性の育児への参加も必須です。

女性が活躍できる社会のために 女性のキャリア育成への働き方改革

妊娠や出産、その他やむを得ない理由での一時休職や退職は、女性のキャリア育成への妨げとなっています。現状女性は「仕事と家庭」どちらかを選ぶしかなく、キャリアを選べば結婚や出産は諦め、結婚や出産を選べばキャリアを手放すことになるのです。

これは、出産できる女性が出産を諦める、有能な女性がキャリアを諦めることと同等であり、キャリアを持った女性リーダー育成の妨げ、そして出生率の低下の原因にもつながっています。

女性の結婚出産とキャリアの両立、求職や離職からの復帰支援も働き方改革の取り組みのひとつです。

働き控えも… パートタイムの103万・130万の壁はどうなる?

主婦の年間収入が103万を超えると段階的に扶養から外れ、所得税や住民税の支払いが発生します。130万を超えると社会保険・年金の扶養からも外れ、税金に加えて保険料や年金額の負担も増加します。そのため、年間160万円まで稼がないと手取り額が減ってしまいます。

家事・育児をしながら年間160万円を稼ぐのは困難です。そのため主婦は年間103万や130万を超えないように労働時間や賃金の調整を行います。この103万、130万の壁は主婦の働き控えを生み、労働力を制限する要因にもなっているのです。

働き方改革では、同一労働同一賃金にて主婦の働き控え是正、パートから正規雇用を目指すための取り組みが期待されています。

働き方改革を受けて、女性に関する企業の事例

花王グループは、男性社員の育休取得促進への取り組みとして、子供が生まれた男性社員とその上司に育児休業取得の啓発リーフレットを配布、今まで対象の40%が育休を取得した実績があります。

トヨタ紡織は、育休は子供が3歳になるまで、時短制度は子供が8歳になるまで取得可能としています。また、あらかじめ登録が必要ですが、配偶者の転勤などで退職しても再雇用可能な制度も。女性の育児と復帰のしやすさをカバーした事例です。

KIGURUMI.BIZは、子供が病気や怪我で保育園などに預けられない時や長期休み中は子連れでの出社を認めています。

カインズは2012年以降、パート従業員から正社員への異動が可能に。能力のある主婦がパートからキャリアを積み、正社員となり店舗責任者として働くことも可能になりました。

企業内だけでなく、外堀を固めることも必要

女性の働き方改革を実現させるには、企業内努力だけでなく、待機児童問題解消のための環境整備や国を挙げての取り組みが必要です。

また核家族化によって頼れる人がおらず、仕事、育児、家事を一手に受ける女性もいます。真に女性が輝く社会の実現には、女性を支える環境整備も急務。女性が輝けば出生率も上がり、未来の労働力確保にも繋がります。働き方改革の成功の鍵は、女性が握っているのです。

働き方改革における高齢者を含めた転職・再就職希望者への支援について

年金受給も70歳からへ 高齢者も貴重な労働力

年金受給開始年齢が65歳に引き上げられ、また将来的には70歳、80歳と更に引きあがることが予想されています。そのため、現役世代の範囲が広くなっています。また、このまま少子高齢化が進むと年金制度自体が崩壊しかねないこと、健康寿命が年々伸びていることを受けて、今では60歳以上も立派な労働力と見なされています。

転職、再就職者が労働生産性向上の担い手となる

「雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援」では、付加価値の高い産業へ転職、再就職は労働生産性の向上に繋がるとしています。

現役世代で自分の能力がより発揮できる所への転職、一旦定年退職した人が培った経験や知識を生かして働ける場所への再就職など、高齢者を含めて適材適所への転職・再就職が実現すれば、高い労働生産性が生み出されます。

雇用力吸収には労働環境の改善が急務

雇用力吸収の高い職場とは、介護や運送、飲食や警備などの重労働・低賃金のため人手の足りない業種を指します。労働力の不足している業種への転職、再就職が特に働き方改革では推奨されているのです。

雇用吸収力の高い業種への転職・再就職を促すには、適切な賃金への引き上げと労働環境の改善が必須です。達成されれば新しい労働力を確保でき、現場で働く人の離職や過労死も防げます。ただし、労働環境の改善の際、現状サービスの一部撤廃など、消費者への影響もあるでしょう。

高齢者を含めた転職・再就職希望者への働き方改革の事例

ダイキン工業には「シニアスペシャリスト制度」を設け、定年退職後65歳までの再雇用、及び65歳を超えても業務におけるスキルや知識を持つ人材は継続して働ける制度があります。

ヤマト運輸では長時間労働及び休憩未取得の原因となっていた「20~21時」の配達枠を「19~21時」の2時間枠に、「12~14時」の配達枠を撤廃しました。

ファミリーレストラン業界では、過重労働防止のためすかいらーくグループが225店舗、ロイヤルホストが全店舗の24時間営業を取りやめました。

まとめ

未来の労働力確保のために必要でも、一部に負担を強いる改革は真の働き方改革とは言えません。働き方改革が提唱されましたが、浸透するには長い時間と社会全体の努力が必要となります。今後変わっていく働き方や、政府・企業の動向に注視しましょう。

執筆者:宮城マリ

出産を機にフリーランスに転身、副業が本業に。育児をしながらフリーライターとして活動中。幅広いジャンルの執筆実績あり、自身の経験を生かした副業やフリーランス関連記事も得意。