このほど政府は、「副業・兼業の推進に関するガイドライン骨子(案)」を発表しました。

ガイドラインには、副業・兼業のメリットと留意すべき点、そしてそれに対する労働者・企業それぞれに求められる対応が記載されています。ガイドラインが発表されたことで、副業解禁に向け本格的に動き出す企業も増えるでしょう。ガイドラインの内容を確認しながら着目すべき点について、あらためて見ておくことにしましょう。

副業解禁がもたらすものは? ガイドラインがあげるメリットを分析

労働者のメリットの分析

ガイドラインでは、副業を行う労働者のメリットとして以下の点があげられています。

  1. 離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。
  2. 本業の安定した所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。
  3. 所得が増加する。
  4. 働きながら、将来の起業・転職に向けた準備ができる。

確かにこのようなメリットはあるでしょう。しかし、みずほ情報総研株式企業が行った「新たな産業構造に対応する働き方改革に向けた実態調査」によると、副業・兼業を行う者が「現在の働き方を選択した理由」の設問に対する回答のうち「十分な収入」が最も多くなっています。また、エン・ジャパンの「5,000名以上の正社員に聞く「副業」実態調査」でも、副業に「興味がある」と回答した人は88%で、その理由として「収入を得るため」が83%を占めています。

副業をしている労働者の多くは所得の増加を目的としているのであって、他のメリットは、さほど着目されていない現実が見て取れます。

企業のメリットの分析

一方、企業のメリットについてはどうでしょうか。ガイドラインでは以下の点があげられています。

  1. 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
  2. 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
  3. 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

確かに副業による人脈の拡大やスキルアップは、労働者にとって有用なものです。しかし、本来、業務上で必要なスキルは社内研修などを通じて得させるべきです。また、優秀な人材の流出を防止したければ、まず取組むべきは処遇改善であって、人材の流出を副業解禁で防止するというのも筋違いのように思えます。

メリットの裏には問題点も ガイドラインは具体的な対応策示さず

副業容認の裏側には、就業時間の把握・管理や健康管理への対応、労働者の職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかといった問題点もあります。ガイドラインでは、こういった点を留意点としてあげ、労働者と企業の双方が取るべき対応をまとめています。

(1)企業の対応

  1. 裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とする。
  2. 労働時間や健康の状態を把握するため、副業・兼業の内容等を労働者に申請・届出させる。そのためには労働条件通知書や契約書により確認する。
  3. 厚生労働省で示しているモデル就業規則の規定を参照する。

(2)労働者の対応

  1. 労働者は本業先のルールに照らして、副業・兼業の業務内容や時間等が適切なものを選択する。
  2. 労働者自らが本業及び副業・兼業の業務量や進捗状況、それらに費やす時間や健康状態を管理する。
  3. 就業時間や健康の管理のためにツールを活用する。

副業による長時間労働は健康問題と直結するため、特に留意する点だと思われますが、ガイドラインでは労使双方において就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましいとするにとどまっています。あらかじめ労働者に副業・兼業の内容を届け出させるという以外の具体的な指針は示されていません。

残された法的問題

副業による長時間労働にどう歯止めをかけるのか、時間外労働となった場合の割増賃金はどうなるのか、副業で労働災害に遭っても本業の休業手当は補償されない点をどうするのかなど、解決すべき法的問題はたくさんあります。

しかし、ガイドラインでは、労災保険、雇用保険、厚生年金保険、健康保険についての現状制度を紹介するにとどまっています。今後の検討課題だということでしょうが、いくら副業を推進しようとしても、これらの法的問題を解決していかない限り、労働者としては安心して副業を行うことはできないでしょう。

まとめ

ガイドラインは、より多くの労働者に副業のメリットを享受してもらうために企業に対し原則として副業を容認する方向を示した一方、問題点については、労使による個別対応に委ねています。

企業が労働者の健康に配慮することや、労働者の職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務は当然のことです。副業が容認されるようになったからといって内容が変化するものではありません。そういった意味でガイドラインは、これまでの遵守事項を確認したに過ぎません。

厚生労働省のモデル就業規則の改正案」を見ても、労働者に事前の届出を義務付けることで副業に伴う問題点を労使が共有できる前提を示したにとどまり、解決策につながるような規定はありません。

残された法的問題が今後、どのような形で解決されていくのか、興味を持って見守りたいところです。

記事制作/白井龍