インポスター症候群とは?〜自己評価が極めて低い状態〜
今回、“インポスター症候群”という言葉を初めて聞いた人も多いのではないでしょうか。まずはインポスター症候群という言葉がもつ意味について説明していきます。
インポスター症候群というのは、
何か目標を達成したり、仕事に成功したりしても、「それは自分の実力ではなく、私の運がよかっただけ」
などと思い込んでしまい、自分に自信が持てていない状態のことです。
インポスターは英語で書くと“Imposter”。これには“詐欺師、偽物”という意味があります。つまり、自分が周囲に対して“実力があるかのように見せて、周囲を欺いている”というような感覚に陥っているのです。
そのためインポスター症候群の人は、「異常なまでに自己評価が低い(または低くしている)」といわれています。自分自身について卑下するようなことをいうのもそのためです。
女性に多いインポスター症候群
インポスター症候群のもう一つの特徴は、男性よりも女性の方が症状を発症しやすいことです。とくに、専門職の女性に多く見られる症状といわれています。
海外で行われた研究では、7割近くの人がインポスター症候群を経験していることが明らかとなりました (※※1)。ここから分かるように、インポスター症候群自体は性別に関係なく発症するものです。
また国内企業によって行われたインポスター症候群に関する調査では、調査対象となった女性の約65%が「周囲の人が評価するほど、自分の能力は高くないと思っていて、周囲の人をだましていると感じたことがありますか?」という質問に対して、「かすかに感じたことがある」または「はっきり感じたことがある」と回答したと報告しています(※1)。
とくに最近では、女性の社会進出、管理職への登用が積極的に進められていることもあり、「なぜ自分が評価されているのだろうか?会社に利用されているだけではないか?」、「自分にはこのような役職に就く実力なんてないのに・・・」などの疑問をもつ女性も少なくありません。
こうした社会的な背景も重なり、会社からの評価を素直に受け入れられない女性が増えているのです。
インポスター症候群の症状とは?
では、インポスター症候群にかかると、どのような症状が現れるのでしょうか。ここでは、自覚症状と他覚症状の2つのポイントから見ていきましょう。
インポスター症候群の自覚症状とは?
インポスター症候群の自覚症状の一例を紹介します。
- 自分の実力のなさがいつ周囲にバレてしまうかと恐れている
- 自分の失敗に対する不安
- 自分が失敗をした時に「やっぱり、ダメだったか」と思っている
- 自分の待遇や役職と能力が自分には不釣り合いだと思う
- 他者からの評価が素直に受け入れられない、不安に感じる
などが挙げられます。
インポスター症候群の他覚症状とは?
次にインポスター症候群の他覚症状の一例を紹介します。
- いくら成功をほめたり、認めたりしても素直に自分の成果として認めない
- 他者からの評価に強い不安や否定を示す行動や言動をとる
- いくらほめても「自分なんて・・・」という言い方をする
などが挙げられます。
インポスター症候群の原因とは?
ではインポスター症候群を発症する背景にはどのような原因があるのでしょうか。ここでは、心理的・文化的な2つの側面から考えていきます。
「自分は成長してはいけない」と思う心理的な背景
インポスター症候群を発症している人の中には「自分は今のままでいなくてはいけない」と無意識に決めつけている人がいます。つまり、「自分は変わってはいけないのだ」と思い込んでいるのです。
この背景には、
- 自分が成功をした時に周囲からねたみや嫉妬を受けることへの恐れ
- 仲間外れやイジメにあうことで孤独になることの恐怖
- 失敗した時に「あいつ、ダメなやつじゃん!」というレッテルを貼られる心配
- 仕事量の増加や難しい業務が与えられることへの抵抗
などがあると考えられます。「自分は今も昔も変わらない」と思うことで、周囲のストレスから身を守っているともいえます。
子供時代や今の社会制度による文化的な背景
インポスター症候群を発症している人の中には、子供時代の教育や現代の社会環境が原因の人もいます。
こうした人たちは、自分も気がつかないうちに「人よりも目立ってはいけない」、「自分が成功することはいいことではない」と刷り込まれてしまったのです。
この背景には、下記のようなことなどがあると考えられます。
- 小さい時から、周囲と同じように振る舞うことが求められてきた
- 自分の成功よりも、友人や同僚の成功、そしてチームや組織の成功を常に考えるようにと教育を受けてきた
- 女性は女性らしく、目立たず、そして静かに生きていかなくてはいけないと教えられてきた
- 女性活躍という社会的な風潮によって、手のひらを返すかのように扱いが変わった経験をした
このような理由から、「文化的な背景では女性の方が影響を受けているのではないか?」と推測されます。
インポスター症候群克服のための3つの方法とは?
では、インポスター症候群を克服するためには、どうしたらいいのでしょうか。ここでは、今からでも取り組める3つの方法を紹介します。
「完璧でなくてはいけない」という自分を脱ぎ捨てる
まず、「自分は完璧でなくてはいけない」という思いを捨てるところから始めてみてはいかがでしょうか。どうしてもインポスター症候群の人の場合には、“自分がイメージする成功している自分”と”今の自分“にギャップが生じています。
そのため、「もっと頑張って、完璧にこなさなくては」と思う人が少なくありません。これは、とくに女性に多い傾向です。過度な完璧を求めることで自分を苦しめないためにも、100%完璧な自分を目指すのではなく、80%ぐらいの自分を目指していきませんか。
未来の自分ではなく、今の自分に集中する
インポスター症候群の人の場合には、周囲からの評価や評判を気にするあまり、未来の心配をしてしまいがちです。
将来のことを考えるのはとても大切ですが、ネガティブな心配は時間のムダにしかなりません。自分の力でも抜け出せない負のループに陥ってしまい、心も体も疲弊してしまいます。
今の自分の行動や仕事に集中することで、周囲の雑念は耳に入りにくくなります。慣れるまでは難しいかもしれませんが、意識を持って取り組むのとそうではないのでは、3カ月後に大きな差が出ます。
自分をほめることを習慣化する
インポスター症候群の人は、自分を肯定することが上手にできません。それは、自分を否定したり、卑下したりする習慣がこれまでの生活で身についているからです。
そのため、自分をほめることによって、自己肯定力を高める訓練が必要となります。まずは”目標の80%ぐらいを達成できたら、自分をほめてあげる“ということを取り入れてみてはいかがでしょうか。
なかには、「自分がその日よかったことを3つ発見し、SNSで共有する!」という活動を通して自己肯定力を高めている人もいます。このようにどのような方法でも構いませんので、自分をほめる練習をぜひ今日から始めてみてください。
周囲がいくら結果をほめてくれても、それを素直に受け取れるかは自分次第です。インポスター症候群を克服するには、自分の感度を自分で高めていくしかありません。
上司や人事担当者が気をつけたいことは?
では、インポスター症候群の人を部下に持つ上司や管理職、人事担当の人たちはどのようなことに注意をしていけばいいのでしょうか。ここでは、2つの観点からお話しします。
相手を肯定しながら話をする
まず大切なのが、“相手を肯定しながら会話を進めること”です。
正直、当たり前のことだと思う人が多いのは重々承知しています。しかし、インポスター症候群の人の場合には、自分の成功をかたくなに否定したり、卑下したりするような言い方をするケースが多いです。そのため、会話をしている方がイライラしてしまうケースが少なくありません。
ここで相手に怒りや不満をぶつけてしまうと、それ以上の話は難しくなります。相手が「この人は分かってくれない」と壁を作ってしまうからです。こうした状況は、退職や転職といった考えを起こすきっかけにもつながります。
それを防ぐためのポイントは“時間を決めること”です。時間を区切ってインポスター症候群の部下に接することで、互いにストレスをためずに会話ができます。
相手と2人で向き合える環境を作る
インポスター症候群の人の中には、周囲の目線が気になって本音が言えないという人も少なくありません。そのため、他の人がたくさん居る場所で仕事の評価をしても逆効果になります。
周囲の目線を気にせず、静かな環境で話をした方がインポスター症候群の人の場合には会話がスムーズに進みやすいです。もしできたら、同じ部署の人が出入りしない場所やフロアなどが理想的です。
インポスター症候群の人が安心して思いや意見を伝えられるようにするためにも、環境作りは大切な要素になります。
一歩を踏み出してみよう
インポスター症候群で悩んでいる人は、正直多いです。改めて周囲を観察すると、周りの人も同じような症候群で悩んでいることに気がつけたのではないでしょうか。
心理的・文化的な要因がインポスター症候群の発症には関係していますが、その状態を打破できるのは自分自身です。まずは、自分ができる取り組みを始めることで一歩を踏み出してみませんか。その時には、その一歩を踏み出したご自身をほめることを忘れないであげてください。
【引用】
※1:PRESIDENT Online パターン別「インポスター・シンドローム」はこうして解決!
【参考】
※※1:日経WOMAN ONLINE 女性の多くがインポスター症候群 チャンスを逃す理由