ナレッジマネジメントとは何か

暗黙知と形式知

組織は社員で成り立つものですが、個々の社員がもつ知識のすべてが、組織のもつ知識であるとは言い切れません。

個々の社員の、それぞれの経験やそれぞれの技術で培われていく勘や知恵のようなものを「暗黙知」といいます。その暗黙知を文書などの形にすることで「形式知」ができあがります。

暗黙知は意識して形式知にしなければ、組織に浸透することはありません。個々の知見の範囲で留まれば、組織にとっては一時的な財産でしかなく、その社員がいなくなれば無くなってしまうものなのです。

ナレッジマネジメントは、この暗黙知も組織の財産として取り入れ、さらに創造性のある知識に発展させていくための管理手法のひとつ。変化や革新が求められる近代の事業経営では、知識の集約によるイノベーションが課題となるため注目されるようになっています。

ナレッジマネジメントのモデル

SECI(セキ)モデル

ナレッジマネジメントの進め方は各企業で独自に決められていくものです。基本的なサイクルとしてSECI(セキ)モデルというフレームワークがあります。組織の中で、暗黙知や形式知などの知識が移り変わっていくその流れを、4つのフェーズに分けて表されたものです。

SECIモデルは継続的に繰り返されるものであることから、知識創造スパイラルとも呼ばれています。ここで、その4つのフェーズを一つひとつ説明しましょう。

共同化(Socialization)

共同化は、暗黙知を暗黙知として伝えること。

同じ経験を通して、精神的な認知や身体的な技能の暗黙知を創り出していく段階です。暗黙知は表面的なものではなく、感覚的要素であるため表現することは難しいといわれます。

「話はわかるけれども実感がない」というレベルに留まるのは、暗黙知が伝わっていないためです。同じ実体験がなければ、同じ暗黙知を他の人に認識してもらうことも難しいといわれています。

表出化(Externalization)

表出化は暗黙知から形式知に変わるプロセスで、暗黙知が共同化によって共有されたら、その暗黙知を言葉や図といった形にしていくフェーズです。いわゆるマニュアル化もその手段のひとつといえます。

上述したように、暗黙知を一人で形にしていくことは難しいものです。ですから、この段階では複数の人が対話をしたり、複数の社員で一緒に考えたりすることが表出化の助けとなります。

それによって自分ではごく当たり前だった気付かない暗黙知も引き出されるようです。ロジカルに考えていくこと、具体性を出すためにたとえを取り入れることなどが重視されます。

結合化(Combination)

さらに進める結合化のフェーズでは、すでにある形式知と他の形式知を結び付けて新しい知識として形づけていきます。個々に存在する形式知を、組織の中で機能させるにはこの段階が不可欠です。

すでにあるものとは「顧客データ」「現状の使用サイクル」「ネットワーク」などがあり、追加で組み込んだり入れ替えたりすることで適用していきます。

このフェーズでは、現実的で実践度の高い知識にするための論理的な分析が重要になるとともに、その活用度を広げ新しいアイデアに転換させるためのラテラルシンキングが必要になるでしょう。この段階が、個々の社員の内側に眠っている暗黙知を組織財産として活用していく実践ステップです。

内面化(Internalization)

内面化では、ひとつの誰かの暗黙知が形式知として共有されたり、結合されたりした後にフィードバックを受け、新たな暗黙知として個々の社員の中に取り込まれていくプロセスです。

実践し、新しい体感や認知を経験していきます。その見えない暗黙知は、個人と組織の知的財産となるのです。そして、知識創造スパイラルですから、また共同化することから繰り返し、知識の質を上げていきます。

ナレッジマネジメントを導入するメリット

業務効率化

企業には、経験の浅い若手もいればベテランもいます。それぞれに経験の絶対量、経験の質が異なるため、持っている暗黙知の種類も質も異なるでしょう。

たとえば、技術者であれば、ほんのひと手間の感覚的なプロセスが成果の質を上げていることがあります。事務職でも煩雑なタスクを短時間に確実に進める方法を見出して習慣にしている人がいるかもしれません。ある営業マンの手法が大きなコストカットを実現していることもあるでしょう。

いずれもマニュアルや研修、オフィスの中で共有されていないことだとしたらもったいないことですよね。意識的にナレッジマネジメントを進めることで組織全体の業務効率化を図ることができるのです。

属人的業務の回避

組織の中で、誰にも共有されない業務を進めるための知識=暗黙知があることは組織にとってはリスクにもなります。その社員でなければ進められないことが増えるため、その社員にとっても大きな負担となる可能性が高まるでしょう。共有することで負担は分散化できるのです。

属人的な仕事をする社員は、仕事に追われて共有する余裕をなくしがちですから、ナレッジマネジメントで社員の負担をできるだけ軽くするステップを組み込んで、共有化を促進する必要があるでしょう。

さらに、その社員が辞めてしまった場合、その知識をもつ人がいなくなることは組織にとっては人的損失と知的損失が同時に起こってしまうのです。

営業や技術の強化

以前は、営業職や職人といわれるような技術職は、見よう見まねで仕事を覚えていく風土がありました。現代の社会人は、そうやって共有する機会や時間が少なくなっているようです。

うまくいく方法、上手に仕上げるコツなどを形にして共有することで全社員が自由に知識を享受できるようにするのがナレッジマネジメント。これによって、個々の能力による成果のばらつきを最小限に押さえることができます。

共有された知識がいつどこで、役立つかはわからないものですが、活かされた時のその価値は高いのです。全体的な能力の底上げにもつながるでしょう。

ナレッジマネジメントの失敗事例

社員の意識改革ができていない

これからナレッジマネジメントを導入する組織の課題となるのが、暗黙知を社員から集めることです。上記でご紹介したように形式知にしていくには手間も時間もかかるもの。新しい習慣が必要な施策には、社員は面倒さを感じるものです。

どのような目的で行なうことになったのか、組織にとってどのくらい重要度の高いことなのかを説明して理解を得ることが大切。そして何よりも、それぞれの社員自身にどんなメリットがあるかということを伝えなければなりません。このプロセスが確実に行われていないと動きのないナレッジマネジメントとなってしまうようです。

有用認識の欠如

社員にとって有効で、組織にとって価値の高い暗黙知があったとします。ナレッジマネジメントによって形式知となるときに、「わかりやすさ」「実行や体験のしやすさ」への配慮が欠けると個々の社員はその暗黙知を活用しないでしょう。

たとえば、ベテラン社員の専門性の高い表現が満載のシェアの場合、未熟な社員は理解することができません。ナレッジマネジメントで活用するツールの使い勝手が悪いことも活用度を下げる要因になります。

社員が積極的に活用できる、活用したいと思えるような仕組みをつくることは大切です。

循環メンテナンス不足

ナレッジマネジメントは、知識を集め残すことでは完結しません。それを社員が活用し自分の糧として使い、能力を上げていくサイクルを回していくものです。

また、社内にバラバラに存在している知識を融合させながら新しい知識を発見していくためのものです。循環させないと、社員は知識が共有される意義を実感することができません。

そうなってしまうと情報も次第に集まらなくなるでしょう。集めて終わりにしないナレッジマネジメントの推進が求められます。

ナレッジマネジメントの成功のポイント

経営主導は必須

ナレッジマネジメントを成功させるためのポイントとして、経営陣が率先して取り組んでいくという姿勢が欠かせません。人事やどこかの部署だけが取り組む対策と位置づけてしまうと、社員にナレッジマネジメントの重要度が伝わらないのです。

ナレッジマネジメントは組織力強化や人材育成に役立っていきます。経営陣の十分な理解、積極的な働きかけと反応で、ナレッジマネジメントの進行を助けていくことが大切です。また、自社に必要な知識はどんなものかという範囲を定めるのも経営陣の役割となるでしょう。

共有しやすい環境を整える

ナレッジマネジメントを推進する企業のほとんどが、知識浸透の効率化を図るためにIT技術を活用しています。共有のしやすさ、共有の量、共有から学習に変えるスピードを考えてもデジタル化は欠かせないものとなっているようです。紙媒体では閲覧、保存、学習プロセスに落とし込むまでに時間が掛かってしまうでしょう。

イントラネットやグループウェア、情報ネットワーク、データ処理ツール、デジタルドキュメントなどを活用して進めている企業が多いようです。扱いやすさが肝となる点を考慮して、共有媒体を選定していくことが必要となります。

ナレッジマネジメントで効率化を図る

ナレッジマネジメントでは、自社の社員に収集される組織の中にある知識が自分に役立つということを実感してもらうことが大切です。そのことが知識の収集から実践へ、そしてさらに良質化していく循環を促し、知識の質を上げていくことにつながっていくでしょう。