サクセッションプランとは

従来のサクセッションプランの捉え方

サクセッションプランのサクセッションは、連続や継続という意味です。ビジネスでサクセッションプランという場合、主として経営層の後継者を選定し、育成するための計画のことを指しています。

せっかく事業が成功しても、後継者として適任の人材を確保することができなければ企業を存続させていくことはできません。

以前は、後継者は経営者が辞任を決めたころに選定し、スムーズに事業と責任を引き継いで経営職を引退できるように計画されるという位置づけられていました。育成や引き継ぎ期間を1年ほど設けて実施されることが多かったようです。

変化する現代のサクセッションプラン

近年、M&Aの活発化や若手経営者の増加などさまざまな要因がもとになり、経営層の入れ替わりの期間サイクルがかなり短くなっています。

社会情勢やビジネス環境の目まぐるしい移り変わりが、経営や人材の動きにも大きく影響を与えていて、いつどのポジションが空いてしまうか予測のつけにくい時代なのです。経営層だけでなく、企業の主要なポジションにおいても同じことが言えるでしょう。

責任の重いポジションほど、補完人材で埋めるまでの空白期間は責任の所在が宙に浮いてしまいリスクともなり得ます。このことから、現代におけるサクセッションプランは、経営継承者の育成という観点だけでなく、事業の基幹となる重要ポジションにも適用されるようになっているようです。

ビジネスの好機に対応できる人材、また、上記のような思わぬリスクの備えとして優秀な人材を自社内に確保するための対策となります。加えて、ポテンシャルを最大限に引き出すための人材育成計画としても有効なのです。

サクセッションプランの必要性

日本企業のサクセッションプランの実施度

大企業になると社員の数も多く、経営陣候補の人選もその人数の確保も、比較的容易のように思われます。しかし、現状の日本は、まだサクセッションプランの実施にいたっている企業は多くありません。2016年の企業法務・弁護士調査によると実施企業は27%に留まっているようです。

コニカミノルタ、キヤノン、日本ユニシスなど一部の上場企業では、企業存続のための対策としてサクセッションプランの策定の中身を投資家に向けて開示する企業も増えています。

セブン&アイ・ホールディングスの経営層の交代では、そのプロセスの不透明さが指摘されました。経営人事は投資家や他のステークホルダーにも大きく関わる問題。弁護士などの専門家からは、経営陣の選任プロセスを透明化する改革の遅れを指摘する意見が多く上がっているようです。サクセッションプランはその有効策のひとつといえるでしょう。

企業のサステナビリティの確保

中小企業になるとサクセッションプランの策定はできても、そもそもの社員絶対数が少ないため大きな難題となります。しかし、中小企業が廃業に至る一番多い理由が、後継者がいないこと。適切なサクセッションプランが企業存続のための要素にもなり得るということです。

サクセッションプランは、企業が発展しながら存続し続けるための対策として大中小企業問わず、意識する企業が増えてきています。

人材のポテンシャルを最大限に引き出す

現代のサクセッションプランは次世代リーダーの育成の側面も強くなっており、人材の将来的なポテンシャルを見極めて人選することも求められます。将来のポテンシャルを評価基準に盛り込む企業は少なくありません。ポテンシャルをどう定義するかが各社の課題にもなっているようです。

ハーバートビジネスレビューで、ビジネススクールの教授たちはハイポテンシャルな人材の共通点を4つの視点で語っています。一例として参考にしてください。

1.人より優秀でありたいという欲求を持っていること
2.情報からのアイデア捻出力や吸収力が高く、行動し結果を出すという高い学習能力を備えていること
3.居心地の良い領域を出て、新たな道を切り開く方法を常に模索できる人材
4.好ましい結果につながることを重視し、好機とリスクの高度な感知センサーを持っている

サクセッションプラン二ングでの重要ポイント

人材要件のビジョンを明確にする

サクセッションプランを実施していくには長期計画が必要ですが、最初に決めるべきことは、経営リーダーとなる人材の人物像を明確にしておくことです。期待される役割や出すべき成果をもとに、そこに必要なスキルや能力を明らかにしましょう。そのスキルや能力確保に必要な経験はどんなものかという点まで掘り下げます。

将来の組織ニーズに備えた選定

現代ビジネスの特徴を踏まえると、経歴や職歴、能力やスキルだけで選定してしまうことにはリスクが伴うとも言われているため、将来的なポテンシャルを見極めることも重要とされているのです。

5年、10年先の企業の在り方や長期計画、事業改革の姿に見合う経営リーダーを選定するというのも重要な視点かもしれません。社会情勢、経済状況を予測しておくことも必要となるでしょう。

サクセッションプランで育成していく人材はCEOだけに留まらない時代です。計画や予測に沿って、企業にとって将来的に重要となるポジションはどこかという点に適任となる人材を選んでいきます。

経営人材育成を絡めること

次世代リーダーの育成は、精神論だけでは成り立たないため、育成のための具体策が必要です。

実施策として効果的と言われているのが、何よりも「実務上の経験」。このことは、サクセッションプランを策定する企業の担当者の多くが効果を感じていることですし、また候補者本人にとっても役に立つという認識が強いようです。

代表的なものとして多くの企業がタフアサインメントによる人事配置を行なっています。タフアサインメントとは、より困難な課題を与えることで成長を期待するものです。

海外子会社のリーダー、不採算事業の再建、未経験分野の業務などが当てはまります。関わる上長や他の経営者からの学びを得るために、経営幹部のそばでOJTを組み込む企業もあるようです。研修からの学びも得られるように育成プログラムを作成していくことも一策となるでしょう。

柔軟に微調整を繰り返す

サクセッションプランは、長期化が進んでいます。リーダー候補者、育成計画、実施施策についての評価と見直しは欠かせません。候補者の入れ替えが必要と判断された場合の、その後のアフターフォローも必要です。候補者のほうが外れることを希望する可能性もあるでしょう。

状況に応じて柔軟に事業や人材にフィットさせていくことが、サクセッションプランの継続と成功の要素となります。

サクセッションプラン人選ツール「9ボックス」

9ボックスとは

9ボックスの始まりは、アメリカのGeneral Electric社が取り入れたことで有名になりました。現在、GE社は、人事評価制度に9ボックス(GE社では9ブロック)を活用することは取りやめています。

ただ、人材のポテンシャルを見極める上で有効とされているツールでもあり、サクセッションプランでの候補者選考に役立てることはできるでしょう。
9ボックスは縦軸3つと横軸3つのマトリクスで構成され、縦軸を業績やパフォーマンス、横軸をバリュー(価値)とします。

GE社のバリューとは

サクセッションプランで9ボックスを使って候補者のポテンシャルを測る場合は、それぞれのポジションの特性や適性、そして何よりも企業が求めるバリューはどういうものかによって決めていかなければなりません。ここで、一例としてGE社はどのようにバリューを定めていたのか、その項目をご紹介しておきます。

GE社の5つのGrowthValue

1.外部志向(External focus)
幅広いステークホルダーと連携、交流が図れる。社会トレンドやグローバル知識をもつ。
2.明確でわかりやすい思考(Clear thinker)
不確実さへの適応力がある。経験や直観を活かして決断できる。
3.想像力と勇気(Imagination&courage)
アイデア発想に長け、実現できる。リスクを厭わず、成功と失敗から学ぶ。
4.包容力(Inclusiveness)
異なる意見に寛容である。他者のエンゲージとコミットを促進できる。
5.専門性(Expertise)
専門領域があり実績を上げられる。常に向上させている。

9ボックス活用のポイント

サクセッションプランで、候補人材を育成する際の配置や異動については、細心の配慮が必要です。優秀な人材ほど、マネージャーは手放したくないという心理が働きやすくなります。自分の部署内の業績に関わる人材であればなおさらでしょう。サクセッションプランにおいては、組織にとっても社員にとってもマイナス要素が多いようです。

9ボックスで評価する際、そのバリューに目を向けると必ずしも数値化できない要素もでてきます。数値化しにくい点こそが、経営層やリーダーの選考では重要なポイントのようです。GE社などでは、候補人材のマネージャーなどの感覚的な見解も大いに反映するとしています。

サクセッションプランで有能人材を育てる

サクセッションプランには、決まった策定方法があるわけではなく、それぞれの企業が独自に決めていくものです。

自社で優秀な人材を育てることは、その人材を失うリスクも同時に発生します。個々のキャリアに対する意識が高まるからです。この状況になったときは、育成としては成功で、サクセッションプランとしては残念な結果かもしれません。リスクを取り続けるとしても、人材を有能にする戦略は怠ってはならないようです。