読み方の前に決算書の種類を確認
貸借対照表
貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)と読み、英語では、balance sheetで略して「B/S」と表記されていることもあります。一年の最後の決算日時点で、企業の財政状態がわかる書類です。
財政状態は、資産、負債、資本で構成されていて、資本は純資産とも呼ばれます。貸借対照表の書面の左側が資産のこと、右側が負債と純資産のことが書かれています。「資産=負債+資本(純資産)」となるはずなので、英語ではbalance sheet(バランスシート)と呼ぶのです。
単純に考えるために自動車の購入に置き換えてみましょう。購入した自動車が「資産」となり、その支払いのための借り入れやローンを組むことで「負債」が発生し、現時点で支払える自己資金が「資本」です。
もちろん、企業の貸借対照表では項目が増えます。
次に資産についてみていきましょう。資産は、固定資産と流動資産、繰延資産があります。
資産の種類
・固定資産は、有形、無形、投資など1年を超えて所有するもの
・流動資産は、預金、売掛金、有価証券など1年内に現金化できるもの
・繰延資産は、創立費、開業費、開発費となります
負債の種類
負債にも、固定負債と流動負債があります。
・固定負債は、銀行からの融資や社債など1年を超えて返済をしていくもの
・流動負債は、買掛金、未払金など1年以内に支払う義務のあるもの)となります。
純資産
純資産は、株主資本と株主資本があり、どこかに返済する必要のない資金です。
株主資本は(資本金、資本剰余金、利益剰余金)で構成され、資本金+資本剰余金+当期純利益(損益計算書より)=利益剰余金となります。
損益計算書
損益計算書は、企業の経営状況や営業成績を見ることのできる書類です。
損益計算書(そんえきけいさんしょ)と読み、英語では、income statement(アメリカ)profit and loss statement(イギリス)で、略して「P/L」と表記されていることもあります。
会計期間内の収益と費用を計算し、実際の利益はいくらなのかを見ることができ、収益ー費用=利益が成り立つ計算書です。
給与収入(収益)が30万円の家庭での一か月の家計に照らし合わせて考えてみましょう。
支出(費用)は、食費、家賃、学費、保険料、水道光熱費などで20万円掛かった場合、残りの10万円が利益で、損益計算書の中では当期純利益となります。
損益計算書の借方と貸方
計算書の借方(かりかた)の欄に費用項目が記載されます。書面の貸方(かしかた)の欄に営業活動などで得られた収益が計算されています。
会計期間が赤字であれば借方に当期純損益として計上され、黒字であれば貸方に当期純利益が計上されます。
収益に関しては、段階的に提示されていて売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益があります。それぞれがマイナス収益となった場合は、営業損失、登記純損失など損失として計上されます。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書は、会計期間内のお金の流れについて詳しく見ることのできる計算書です。英語ではCash flow statementで略して「C/S」と表記されることもあります。
キャッシュフロー計算書の項目は、営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローに分かれています。
企業の利益や損失にはさまざまな要因が関わっているため、そのお金の動きの要因を見ることに役立つのがキャッシュフロー計算書。たとえば、企業がお金を使うときというのは、支払いなどの債務ばかりでなく、将来的な拡大を見込んだ先行投資のこともあります。
上記で説明した貸借対照表や損益計算書では、決算時点の状況は分かっても、会計期間内にお金が何によって入ってきて、何のために出ていったのかの流れを把握することができません。このため近年では、キャッシュフロー計算書での分析が重視されるようになっています。
基礎的な決算書の読み方を押さえる
貸借対照表の分析ポイントは3つの指標
では、貸借対照表では分析ポイントをお伝えします。
それぞれの勘定科目を見るだけでなく、つなぎ合わせることで分析の精度が高まります。
自己資本比率
企業の基盤や安定性を見るには、自己資本比率を押さえます。
「自己資本比率=自己資本÷総資産×100」
自己資本比率の理想基準は、業界、事業内容などによって異なります。おおまかには40%が理想で、60%を超えていれば倒産確率は低いといえるでしょう。
流動比率
どんな状況にも即時に対応できる金銭的な能力があるかを測るのが流動比率です。「流動比率=流動資産÷流動負債×100」
流動比率の理想ラインは200%。一般的には140~150%なら比較的安全性が高いといわれています。100%を下回ってしまう場合は注意が必要です。
固定比率
企業の長期的な安全性を測れるのが固定比率です。「固定比率=固定資産÷自己資本×100」
固定比率は、自己資本の中の固定資産がどれくらいの割合かを見る指標で、100%であれば許容範囲で、比率は低いほど安全とされています。
損益計算書の分析ポイント
では、損益計算書での分析ポイントをお伝えします。
それぞれの勘定科目を見るだけでなく、つなぎ合わせることで分析の精度が高まります。損益計算書は、その期間が赤字だったのか、黒字だったのかをひと目で把握できるものです。
まずは、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益などが純利益計上か、純損失計上かを確認しましょう。
経常利益が、もっとも重要といわれていて、経常損失となっている場合は当期純利益が出ていたとしても本事業以外で資金繰りした可能性もあることから注意が必要です。
売上高営業利益率
事業活動での利益率を見る売上高営業利益率があります。
「売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100」
高ければ高いほど事業活動が活発で、事業活動によって収益を上げる力がある(本来あるべき姿)と判断でき、3~10%が目安となるようです。
分析材料になる比率や数字は過去のデータとの増減を比較することも分析判断には欠かせません。
また、業界によって目安の数字が大きく異なるので、業界内の動向をチェックしておくこともおすすめします。
キャッシュフロー計算書の分析ポイント
キャッシュフロー計算書の分析ポイントとして、営業活動、投資活動、財務活動のそれぞれについてポイントをご紹介します。
営業活動
営業活動のキャッシュフローは、基本的には、最終でプラス計上になることが理想です。
税引前当期純利益で、まずは十分な売上が上がっているかを確認します。売上も上がっており、その支払い回収も行なえているかがわかります。
過去の営業活動のキャッシュフローと比較してマイナスが続いている場合は経営状態に懸念があります。
投資活動
「有形固定資産の取得による支出」の勘定科目で、新規事業や将来に向けた投資をどれくらい行っているかがわかります。
成長企業においては、投資活動キャッシュフローはマイナスに転じることが多いです。
投資活動キャッシュフローの最終数値はマイナスのほうが理想的。またこの資金を営業活動キャッシュフローでカバーできていればさらに理想的な財政状況といえるでしょう。
財務活動
財務活動キャッシュフローは、上記の営業活動や投資活動も含めて自社の能力や活動に見合っているかを測ります。
融資などの資金繰りを行なえばプラスに転じ、返済すればマイナス計上となります。つまり、プラスなら借金が多いという見方ができますが、そのことがイコール、経営状態の悪さを意味するわけではありません。
決算短信という情報を活用
企業のホームページなどで決算短信が公開されており、決算での財務諸表と会計期間の詳しい業績や進捗、将来の展望などが記載されています。上記で紹介した貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書なども含まれています。
企業についてより詳しい財務情報、事業情報が記載されているので、ぜひ、情報収集の際に活用してみてください。
決算書の読み方を知ると役立つこと
自社を詳しく知れる通信簿
財務諸表は、いち会計期間の企業を評価する通信簿の役割を果たします。
分析をしっかりと行うことで、修正や改善するべき問題点、将来の可能性も見出しやすくなります。経営者にとっては、その後の意思決定や判断をするための重要な材料となるでしょう。
競合や取引企業を詳しく知って戦略策定
競合他社の状況を把握することに財務諸表を活用する人も多いようです。
具体的には、営業活動、売上度、新規事業、人材状況、注力する業務やその時期、戦略の進捗度などを見極めることができます。その情報を参考にして、対抗策や自社戦略を練ることも可能かもしれないですね。
新規や既存の顧客や取引企業について、リスク管理として企業状況を調べることに財務分析も役立ちます。収益性や返済能力のチェックだけでなく、将来的な成長度を予測することにも役立つでしょう。
転職応募企業の情報を知って内定へ
就職や転職の際に、自分が入社を希望している企業の財務諸表をチェックできるといいですね。
「経営状況の逼迫した企業だった」「1年後に倒産してしまった」ということにならないように、事前に調べる人も増えているようです。
決算書は作成できなくても読み方は知っておくべき
決算書の作成方法を知っておかなければならないのは、経理や会計の仕事をする人です。作成することで細かなチェックも可能ですが、厳密には、作成することと作成された内容を分析することは視点が異なります。
経営者や経理や会計以外の職種のビジネスパーソンは、決算書の読み方だけでも身に付けておきましょう!