ビジネスの現場で当たり前のように使われている言い回しや、仕事上の習慣があります。
上司や先輩から教えてもらったり、見て学んだりした「常識」。ビジネスパーソンとして、至極自然だと思っている表現、行動でも、実は違和感を覚えられているかもしれません。新入社員や転職者だけではなく、特に同時に複数企業で働くビジネスノマドにとっては、多様な職場で同時に働くために、「常識」について考え直す機会が多いと思います。
そんな「疑問符のつくビジネスマナー」について考えてみました。
「了解しました」という表現は?
上司や取引先とのビジネスメールや電話などで、「了解しました」「了解いたしました」という返答している人は多いようです。「いたしましたという表現なら、敬語として問題ない」という見方もありますが、「了解」というのは本来、「相手の考えや事情を分かった上で、それを認める」という意味があります。目上の相手に使うのは不適切なのでしょうか。
『仕事の基本 正しいビジネスメールの書き方』(日本能率マネジメントセンター)などマナー関係の著書を多く持つマナーコンサルタントの西出ひろ子さんは、「了解という言葉は自分の立ち位置を考えて使うことが大切。目上の人や取引先に対しては使わないほうが無難な言葉です」という意見。
西出さんは、ビジネスマナー研修や企業コンサルティングも手がけるといい、「部下や取引相手からの『了解』という言葉に違和感を覚えている人は少なくありません」と話す。「おかしいよ」とたしなめられることはなくても、気分を害しているかもしれません。
代わりに使う言葉としては、「かしこまりました」が最適で、「承知いたしました」でもOKとのことです。
LINEで「仕事を休みます」は?
2015年7月現在、国内登録者数は5800万人。仕事で使われることの多くなってきたLINEですが、急に仕事を休まなければいけなくなった時の連絡をLINE(またはメール)で済ませるというのはアリでしょうか?
否定的な意見が多い一方、「LINEやメールでの業務連絡は時代の流れ」「相手が通勤中の場合もあるから電話よりメールやLINEの方がスムーズ」という声もあります。
西出さんは「その会社や上司・同僚とのルール(規則)に従うことが大切」といいます。
ただし、休むときの連絡の仕方にルール(規則)のない会社の場合は、相手によって受け取り方が異なるので、たとえば、最初はLINEやメールで連絡をしたとしても、「後ほど、あらためてお電話を致します」とひと言添えて、最終的には電話で伝えることを薦めています。感情的なトラブル回避にもなります。
電話は面倒と思うかもしれませんが、そのひと手間が自分を守ることにもなるとのこと。
またLINEやメールのような”一方的な”コミュニケーションの手段では、相手に確認の返信をする手間を強いることにもなりますし、連絡に気付かかれず、下手をすれば欠勤扱いになるなど、トラブルの元になることもあるといいます。
「ビジネスに限らず、マナーというのは”トラブルのない社会”にするために存在しているんです」と西出さん。「相手の立場に立つのがマナーの基本。相手によってモノの受け取り方は違ってくるわけですから、相手がどういう受け止め方をするのかを想像する力があれば、自然とその環境に応じて臨機応変にマナーのあり方は決まってきます」と力説します。
自分はLINEやメールで伝えても大丈夫と思っていても、それは自分だけの考えで。受け取った相手がどう思うか、相手の立場に立って考えれば自然と答えは決まるはずです。
相手の立場に立てばマナーの正解は見える
「相手の立場に立って考える」ことがビジネスマナーの基本だとすれば、こういうケースはいかがでしょう。
終業時刻間際に取引先に資料を届ける用事を頼まれた若い社員が、出かけたまま会社へ連絡もなく「直帰」した――。
本人の言い分としては、資料を届けるという用件はきちんと果たしたわけですし、定時の終業時刻も過ぎているのだから、帰るのは当たり前ということなのでしょう。だから連絡しないことに特に違和感はないということなのでしょう。悪気はないようです。
しかし、用事を頼んだ上司としては、書類が無事に届いたかどうか確認できないまま。部下が帰社するのかどうかも把握できません。
相手の立場に立ってちょっと考えてみれば、自ずとビジネスマナーとしての善し悪しははっきりするのです。
マナーは法律や規則とは意味合いが異なります。
ビジネス上のさまざまなマナーに関して、時代の流れも相まって時に賛否が分かれることもあります。
ですから、「昔はこれでよかった」というやり方が、今では通じないことはあり得ますし、またその逆もしかりです。昔は許されていなかったことであっても、時代の変化で常識になっていることもありますから、頑なに昔からのやり方に固執し過ぎるのも疑問です。
「相手の立場に立って考える」という基本を忘れなければ、いつの時代も相手に不快な思いをさせず、円滑なコミュニケーションが図れるはずです。
マナーコンサルタント・美道家。相手を思いやる心を重視するマナー論と独自の指導法を展開。NHK大河ドラマ『龍馬伝』や映画『るろうに剣心 伝説の最期編』などドラマや映画のマナー指導も務める。著書は売り上げ27万部の『お仕事のマナーとコツ』(学研)、『ビジネスマナー虎の巻』(共に河出書房新社)など多数。
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