システム思考の始まり

システム思考の提唱

システム思考は、1950年代にマサチューセッツ工科大学のシステム理論研究によって開発されたシミュレーション分析手法です。

もともとは生物学や工学などの分野で活用されていたものでしたが、1960代に社会や経済、ビジネスなどへの応用論が提唱されるようになり、システムダイナミクスという学問となりました。

学習する組織の中のシステム思考

システム思考がビジネス界に広がったきっかけとなったのが、マサチューセッツ工科大学の講師だったピーター・センゲ氏の「The Fifth Discipline(学習する組織)」の出版でした。

ピーター・センゲ氏は、このシステム思考の提唱を通じて、世界のビジネス戦略に大きな影響を与えた人として評価されています。

この著書で紹介されているのは、学習し続けることのできる組織に必要な5つの規律。「メンタルモデル」「対話」「パーソナルマスタリー」「共有ビジョン」、そして複雑さに効果的に対処するための「システム思考」が挙げられています。

システム思考の重要性とメリット

複雑化が高まっている世の中で

ものごとのシステム、つまり関わる要素がどんどん複雑になってきています。事業も組織も、経済も環境上の生態系も、今まで私たちが持っている知識と直観では、どうにも処理できないほどのつながりと絡み合いが発生しているのです。

複数の要素がお互いに影響し合っているその作用をきちんと見極め、対処や解決策を探るためにシステム思考が重要視されています。とくに、現状についてしっかり見極めることに有効な思考です。

新しい視点に気づける

システム思考を使っていくと、新しい視点を見出すことができます。
なにごとも先を見通すことが難しくなっている世の中で、システム思考によって最適解をみつけることができるのです。

新しい視点が得られることは、視野が広がることともいえます。ものごとの真実を捉えたいとき、狭い視野のままでは真実を見出すことはできません。

視野が広がると、狭い視点でいたときにもっていた「思い込み」にも気付きやすくなるでしょう。「思い込み」が成功の邪魔をしてしまうことは多いですよね。

視野が広がることの最終地点は、ものごとに関わっている要素を俯瞰して全体を見ること。俯瞰力が付くことによって、ものごとのつながりも、相互作用も見極めることができるのです。

コミュニケーションを促進する

ものごとに関わる要素が複雑化していることをお伝えしましたが、ビジネスにおいて関わる人の多様化・複雑化も進んでいます。

同じ言葉を聞いても、人によって解釈が異なることが、コミュニケーションの弊害になることは多いものです。

システム思考のツールをうまく使ってコミュニケーションをとることで、自分と相手の共有認識が促されます。

色々な人種、立場、背景、知識レベルをもつ人と関わる中で、一致した認識を共有することはコミュニケーションの大きな課題。誰にでもわかりやすいシステム思考の視覚的な情報の共有によって共通認識が後押しされるのです。

システム思考のシステムって何?〜すべてのものごとにシステムがある〜

システムと聞くと機械的な響きを感じる人もいるかもしれません。たしかに、ITや機械というのもシステムのひとつです。システムとは、私たちを取り巻くすべてのものに存在しています。そのため視野を広くして観る、つまり俯瞰する見方が必要になってくるのです。

たとえば、人間を含めたすべての動物の身体もシステムのひとつ。骨、皮膚、筋肉、血液などがシステムを構成する要素です。さらに生態系に視野を広げると、弱肉強食の世界も、健康や病気との関連性もシステムで成り立ちます。

システムは、何かをきっかけにして落ち込んだり、喜んだりという心理の変化にも当てはまります。向上心や好奇心をもつのはよいことですが、行き過ぎればケガをしたり、周りに迷惑をかけたりとマイナスの現象を運んでくることもあるでしょう。これもシステムの一部。

物理的視点だけでは片づけられない、相互作用、背景、行動や働きかけ、関係性の度合い、感情、感覚、時間的な要素もシステムの要素なのです。

システム思考とそうでない思考を比較してみよう〜システム思考4つの視点〜

論理的思考(ロジカルシンキング)を学習したことのある人は、これまでのシステム思考の説明に似たような部分を感じることがあったかもしれません。ここで、システム思考の4つの特徴をご紹介しておきます。

1.全体を俯瞰する。

一点にフォーカスするのではなく、全体を見渡して考えていきます。

2.作用の動きに着目する。

時間の変化とともに状況も変化することを念頭に置いて考えていきます。

3.循環作用に着目する

システム思考では、この循環作用のことをフィードバックループと呼びます。
論理思考では、~だから○○になると直線的に考えますが、システム思考では、それが終わりなく循環しながら変化していくことを捉えていく考え方です。

4.結果ではなく役立つことを探し出す

システム思考は、何かを測るとか、測ったことで何かを証明するためのものではありません。効果的で役立つ解決策やその後の行動を見出す思考です。望ましいほうの選択を助けてくれる思考とも言えます。

システム思考で使われるツール

氷山モデル

氷山モデルは、システム思考で使われるツールのひとつ。
氷山モデルは、4つの階層で構成されていて、水面上に少しだけ出ている氷山の一角が私たちが経験する「出来事」を表します。

水面の高い位置から順に「行動パターン」「構造」「意識・無意識の前提」と深くなっていきます。

たとえば何か問題行動があるときに、行動パターンを変えなければ同じ出来事が発生するし、行動パターンを変えるには、それを取り巻いている構造を変えなければならないということ。

さらに根本的にものごとを解決するには、その構造や行動パターンを創り出す前提となっている意識や価値観レベルから変えなければならないことを意味しています。

ループ図

システム思考をする際には、よく使われるのがループ図です。上記で紹介した氷山モデルもループで図式化すれば流れがわかりやすくなるでしょう。

ループ図は、システムを構成するそれぞれの要素を矢印と曲線でつなげます。始まりの要素(出来事や問題)に対してフィードバックされる循環の関連性を表すものです。

ループ図には、自己強化型ループとバランス型ループがあります。
自己強化型ループは、プラス循環で、強化や拡大をしていくループ。バランス型ループは、マイナス循環で、システム自体が収束に向かうループです。

このループ図の書き方をマスターし、思考や他の人と論議をしながら書き直しを繰り返していくことで、見いだされる結論の精度が高まります。

システム思考の基本的なステップ

ここで、システム思考のはじめから終わりまでの基本的なステップをシンプルにご紹介しましょう。

1.  課題を設定する
2. 「今までパターン」の分析
3. ループ図でシステム構造を見る
4. 「このまま」のパターンを確認
5. 「望ましいパターン」を考える
6. 抵抗を予測し、対策を立てる
7. 「望ましいパターン」を実践に移す
8. 振り返り、学習し、広げていく

ポイントとしては、人や状況、問題に焦点をあてるのではなく、パターンに着目することです。パターンを引き起こしている構造を把握することが重要で、全体をみながら、「望ましいパターン」を創り出す働きかけの要素をいくつも考えておくことをおすすめします。

要は、思考や感情ではなくシステムの力を借りて「望ましいパターン」に切り替えていくということです。

システム思考をシンプルにかじってみよう

1.全体を見ることの大切さを知るストーリー

全体を見る俯瞰力の重要性を説く「群盲象を評す」というインドの寓話があります。ものごとが巨大だったり、複雑だったりするほどに、自分で得る情報(視野)の範囲内で判断してしまいがちだということを示唆した内容です。

2.システム思考をわかりやすくしたストーリー

ここまで、システム思考のことをお伝えしてきましたが、はじめから「システム思考ってこういう思考なんだ!」と明確に理解できる人は少ないでしょう。そこで、システム思考のことをシンプルに説明しているストーリー動画を紹介します。

システム思考でシンプルな考え方を身に付けよう

なんとなく決めて行動したことというのは、多くの場合、今までとシステム構造が変わらないため、今までのパターンに傾きがち。ビジネスでは、ふっと湧いたアイデアも要望もなんとなくそう思うでは相手に受け入れてもらえません。

システム思考を使って、複雑なことも難しい問題も望ましいパターンを構築して、解決していきましょう。