ピーターの法則とは

ピーターの法則の語源と意味

ピーターの法則とは、社会学的な見地から組織構造を成す人材の特徴を説かれたものです。アメリカの教育学者であるローレンス・J・ピーター氏が、著書「ピーターの法則―〈創造的〉無能のすすめ―」の中で提唱したことからこの名前が付けられています。

ピーターの法則は、能力主義社会の現況が表されたもの。その概要を見てみましょう。

・人は自己能力の限界まで出世する。
・無能な人はそのポジションに留まり、有能な人は限界まで出世するがそのポジションで無能化する。
・組織の中では、まだ限界に達していない人たちによって進められ、機能していく。

注目したいのは、昇進や昇格をしても、そのポジションがその人にとって限界点なら、どんなに優秀だった人たちも「無能化してそのポジションに留まる」ということが起きます。つまり、無能な管理職層が出来上がってしまうということです。

ピーターの法則の内容に対して衝撃や危機感を抱く人がいる一方で、日頃から、できない上司の下で不満や不平を抱えながら仕事をしている人は「わかるな、それ」と説得性を感じる人も少なくないようです。

能力主義の日本

能力主義とは、組織に当てはめてみると、社員やメンバーの能力を主な基準として昇給や昇進を決めていく方針が根底にあることを指します。欧米諸国が成果主義、職務主義といわれることはご存知の方も多いでしょう。対して日本の企業や組織の在り方は能力主義に当てはまるのです。

成果主義は、結果が基準で、出した成果やインパクトの大きさで給与や待遇が決められます。職務主義は、ポジションが基準で、経験や能力に関わらず、どの職務を行なうかで待遇が一律で決まるものです。能力主義は、人重視で、過去の経験や持っているスキル全体が評価され、成果の評価度が低い傾向があります。

世界では国によって、国内だけを見ても企業ごとに成果主義、職務主義、能力主義の取り入れ方はそれぞれです。優劣があるわけでもなく、それぞれにメリットとデメリットがあります。能力主義においてピーターの法則が当てはまりやすいことが指摘されているのです。

創造的無能のすすめ

部下でいる間はこのピーターの法則に頷けたとしても、時が経つと他人ごとではなくなります。自分のキャリアの将来を考えたとき、自分も当てはまってしまうのかと心配にもなりますよね。

出世するにつれて無能になってしまうことが真実なら、出世しないほうがいいということ?と感じる人もいるでしょう。

ピーター氏は、著書「ピーターの法則―〈創造的〉無能のすすめ―」の中で創造的無能をすすめています。創造的無能というと難しく感じるので、クリエイティブに無能さを出していくという表現はどうでしょう。さらに、クリエイティブという言葉を「演じる」としてみるとわかりやすいかもしれません。

ピーターの法則を個人で取っていく回避策

有能に見られることより能力発揮度を優先

昇進することや出世することが「有能」に見られるという意識を取り払うことが必要です。

ピーター氏は、できる人だけど、あえて、できない部分を故意に持ち続けることを推奨しています。これが「創造的無能」です。仕事のメイン(自分の能力の発揮できる仕事やポジション)からは離れることなくできる人として遂行し、「玉にきず」という点を持っておくとよいといっています。

自分で昇進、昇格、出世、ステップアップをコントロールするための秘訣。決して頑張らないというわけではありません。出世することで無能な域に達してしまうことが真実だとすれば、無能な域に達することを回避し、幸せに能力を発揮し続けることのほうが、自分にも組織にも社会にも有益なのです。

自己認識は必須

現代では、働くことの意義、仕事に対する価値観はますます多様化が進んでいます。自分の価値観を自覚しておくことが大切かもしれません。自分らしい能力を発揮しているときに感じる醍醐味について一度振り返ってみて、ポジションや役職にその醍醐味を奪い取られないようにしたいものです。

「昇進や昇格をすること」と「幸せな仕事」をイコールにしないことも、重要な個人の視点です。ステップアップやキャリアアップを目指すのは、悪いことではありません。

しかし、自分にとって幸せな仕事を考えるときに、昇進や昇格が必要とは限らないのです。もっと言えば、その昇進や昇格が、幸せな仕事を阻害してしまうことすらあることは心に留めておきましょう。

自分を良く知ること、客観視してみることの重要性は、ビジネスパーソンとして活躍していくための必須の条件といわれます。昇進や昇格といった一般的に言われるキャリアアップとは別に、自分にとって有能度を上げていける、本物のキャリアアップについての内省が必要のようですね。

たしかに、自分の限界値を測ることは難しいこともあるでしょう。ピーターの法則によれば、限界の少し手前に留まるほうが、結果的に活躍し続けることができるとされています。さまざまな意見があると思いますが、世の中に行きかっている一般的なビジネス論とは一線を画しているので一考の価値がありそうです。

管理職に対する誤解を取り除く

少し、現実的な面を見ていきましょう。主任⇒課長⇒部長⇒専務⇒CEOなどからなる昇進や昇格。それぞれのポジションが未経験の人がその昇進や昇格を実現したときに、よくあるのがそのポジションについての大きな誤解ではないでしょうか。

「マネージャーはこうあるべき」「社長はこうしなければならない」無能か有能かという前に、前提にズレがあれば、いくら頑張ってみたところでうまく回していくことは難しいでしょう。

厳しいものと認識すれば、プレッシャーや緊張感は大きくなるはずです。強みや弱みの視点など考える余裕すら無くなってしまいます。そもそも、管理職としての本分を知らなければ、有能に転じていく可能性すら通り過ぎてしまうことでしょう。

さらに、管理職の仕事は難しいもので、管理職をこなせる人が有能とするのは一種のバイアスとも取れます。管理職でない仕事は難しくないと捉えることは間違いなのです。ズレていることに気付かないままでいることが、無能に陥ってしまう一因ともいえるのではないでしょうか。

ピーターの法則に陥らないための組織づくり

ハロー効果が危ない

ハロー効果という言葉をご存知でしょうか。

ハロー効果とは、人の目立つ特徴がクローズアップされて「○○ができるんだから○○もできるはず」「○○の好成績だから○○に適任だ」というように間違った判断がされることを指します。

人のいい面を見る際も、悪い面を見る際にも気を付けなければならない一種の認知バイアスのことです。

ピーターの法則に当てはまってしまうことを回避するためには、実力や能力、感情に至るまでの判断にこのハロー効果が働いてしまうことを避けなければなりません。

管理職の配置だけでなく、自分についてもハロー効果で判断することもあるので注意が必要。歪んだハロー効果にもとづいてしまうと、幸せな仕事からは遠ざかってしまうのです。

昇進を悲劇にしないために

著書「ピーターの法則―〈創造的〉無能のすすめ―」の中で、組織としての対策が紹介されています。

昇進や昇格後の仕事を遂行できる知識や能力が付くまで、昇進をさせないことが、ひとつ目の対策。本人にとっても、組織にとっても、無能化を防ぐための安全策となるのです。

管理職の仕事は、一般職の技術やスキルでこなしていくものではありません。どんなに一流のプレーヤーであっても、その技術と経験は、監督としては役に立たないことが多いといわれます。

昇進や昇格がなくても、優秀な功績や実績を上げている人には昇給や賞与という形で対処していくことがふたつ目の対策です。また、管理職としなくても信頼して任せるという権限委譲によって、社員の能力開発や成長を促している企業も増えているようです。

出世することが目標だったり、モチベーションの源泉だったりする社員もいます。

しかし、そこに本人の能力が伴っていない場合(もしくは、その社員の限界であった場合)、たとえ目標を達成していたとしても社員が幸せに仕事を遂行していくことはできないでしょう。

自己認識と相互理解の仕組みを作る

昇進や昇格については、組織やマネージャーが正確に社員の能力や適性を測っていかなければなりません。いわゆる適材適所への配置は、組織の命運を左右するものとなります。

ピーターの法則が蔓延する組織にならないためにも、マネージャーが部下を理解するための仕組みづくりが必要。

ピーターの法則を真とするなら、その判断を個々のマネージャーの裁量に任せ切りにしてしまうことは危険なことといえるでしょう。これが従来、日本にあったマネジメントのスタイルでもあるのです。

コミュニケーションを円滑にするための環境づくり、現状ポジションで社員がワンステップ上の業務を学ぶことのできるような支援、マネージャーの人材育成力を上げるための施策など、組織が取り組むべきことはたくさんありそうです。

ピーターの法則における負のスパイラルを回避せよ

ピーターの法則によれば、それまで順調に高実績を上げてきた人も、限界値に達してしまえば残念な負のスパイラルをたどることとなります。

著書「ピーターの法則―〈創造的〉無能のすすめ―」では、昇進や昇格を目指すだけの仕事の弊害や「無能」に達したと感じている人の対処策も紹介されています。これからのキャリアについて新たな視点を得るために、著者の風刺やユーモアが含まれていることを念頭に置きつつ、一読されてみてはいかがでしょうか。