リバースイノベーションとは

これまでの常識では、世界的な戦略や商品開発を行う場合には、本社や本社のある先進国で企画・開発を進め、完成した製品を各国の事情に合わせ事業展開していくのが主流でした。リバースイノベーションでは、途上国で最初に創出・採用された技術や手法を、先進国へと展開されます。つまり、従来とはイノベーションの流れが逆(=reverse)になることから「リバースイノベーション」と呼ばれるのです。

リバースイノベーションとグローカリゼーションの違い

グローカリゼーションとは

リバースイノベーションが世界的に知られるようになったのは、2009年に米ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのビジャイ・ゴビンダラジャン教授とクリス・トリンブル教授が理論として発表して以降です。それ以前は「グローカリゼーション」が主流でした。
グローカリゼーションとは「グローバリゼーション(国際規模の)」と「ローカリゼーション(地域的な)」の造語です。グローカリゼーションの事例としては、世界的に活躍する企業の商品やサービスで、世界共通のもの(グローバリゼーション)を販売する一方、その国や地域に合わせて仕様を変更(ローカリゼーション)したものを提供します。2つの事業を進めることで販売やサービスを拡大させてきたのです。

リバースイノベーションが注目されるわけ

現在世界で活躍する大企業は、社内でさまざまなイノベーションを起こしながら事業を発展、継続させてきました。20世紀以降は、各企業が世界に目を向けた戦略を展開し、現在も先端技術の中から「シーズ(技術や商品に結びつくタネ)」を拾いあげて事業に結びつけています。しかし、先進国や先端技術から生み出された商品がそのまま、新興国や貧しい国の「ニーズ」にマッチする訳ではありません。逆に、新興国のニーズを満たしたイノベーションが、実は先進国でも商品としての価値を上げることが認知されてきました。

GEヘルスケアとインドタタ自動車の成功例

GEヘルスケアの事例紹介

リバースイノベーションの事例でもっとも有名なのが、アメリカGE社のヘルスケア部門が中国で行った、医療用超音波検査装置の開発です。すでに上海に研究・開発拠点を持っていたGEは、2002年に中国市場向けに日本とアメリカで開発した医療超音波機器を投入します。しかし、この商品は10万ドル以上と高価だったため中国市場とはマッチングせず、ほとんど売れませんでした。そこで、上海での独自開発が進み、2007年には1万5千ドル以下で提供できる商品が完成します。この商品は、中国国内で需要が伸びただけではなく、先進国でも受け入れられたのです。

インドの自動車「ナノ」

「タタ・ナノ」は、現在世界で一番安価な自動車です。その価格は、なんと10万ルピー、日本円で約20万円ほどで購入できます。インド最大手財閥であるタタ・グループに属するタタ・モータースが、インドでの自動車普及を目的に2008年に発表・販売した小型自動車でした。「ナノ」は4ドアですがバックドアはなく、ワイパーも1本、ドアミラーがないなど徹底的な簡素化を図ることでこの価格を実現しました。現在では一部の改良は加えてはいるものの、低価格をウリとしてアメリカやヨーロッパで販売されています。

日本企業が取り組むリバースイノベーションの現状

日本に本社をもつグローバル企業は世界の企業と比べて、リバースイノベーションの実施例が少ないといわれています。しかし、国内の数社で実施された事例の中には、世界で注目を集めているプロジェクトもあります。

株式会社LIXILの事例

LIXILはケニア・ナイロビで超節水型水洗トイレを、郊外では循環型無水トイレの2種類のトイレを開発しています。アフリカ諸国では水資源が不足し、また、ナイロビには人口の急激な増加という問題を抱えていました。LIXILは2013年に、洗浄時にほとんど水を使わず、汲み取り式としても利用できる「SATO (Safe Toilet)」を開発、2016年には世界14か国以上、100万台超が使用されています。「SATO」の他にも、便を肥料に変える仕組み「グリーントイレ・システム」を開発し農村部で導入されました。
節水トイレの取り組みはケニアから始まりましたが、慢性的に水不足の問題を抱えた、オーストラリアやアメリカ、また日本での災害避難施設の設備として注目を集めています。

本田技研工業株式会社の事例

スーパーカブは、1958年本田技研工業が製造販売し、現在も世界中で愛されているバイクです。スーパーカブは非常に機能的で人気のバイクであったため、常にコピー商品が出回っていました。これに対しホンダは、2000年に模倣品を製造していた中国企業のうちの一社に出資を行ない、合弁会社にしたのです。現地の企業を買収することで、工場建設などのコストをかけずに中国に生産拠点を移すことに成功しています。

日本企業がリバースイノベーションを行うには?

グローバル化とグローバル人材の養成

リバースイノベーションは新興国に研究開発やマーケティングの拠点を移し、新しい視点で商品開発を行う戦略です。ダイバーシティに対応しながら、現地で人材の採用もします。企業が自社のやり方を一方的に導入したり、現地拠点にまで本国の企業文化を持ち込んだりすると、イノベーションが起こりづらくなるでしょう。日本企業では年功序列の考えや、古い日本のビジネス習慣が抜けない社員がまだまだ多く、彼らはリバースイノベーションの弊害になります。リバースイノベーションをはじめるには、まず国内でのグローバル人材の育成が急務です。

拠点となる現地のニーズを理解する

新興国と先進国で文化の違いはもちろんのこと、所得水準、社会インフラに大きな差があるため、そのニーズは違ってきます。ニーズの差が新しい着眼点を生み、イノベーションを起こすことができるのです。先進国でのニーズが新興国や途上国で受け入れられなくても、「不便で限られた費用の中からできた新しいもの」が先進国で受け入れられることを理解し、偏見をもつことなく、新しいニーズや視点を意識していくようにします。

リバースイノベーションかグローカリゼーションか?

リバースイノベーションは「新興国のニーズ」という新たな視点でのイノベーションが成功のカギになっています。これまでのグローカリゼーションはすでに成熟化し、新たなニーズやシーズを掘り起こすことが難しくなったことも、リバースイノベーションに注目を集めている理由でしょう。しかしどちらかに偏るのではなく、グローカリゼーション、リバースイノベーションともに推進し、常に新しいニーズを求めていくことが社会のイノベーションにつながることを忘れてはいけません。