グロースハックとは、2010年シリコンバレーで誕生した新しいマーケティングの”枠組み”です。AirbnbやUberなどのユニコーン企業のスタートアップに成功に大きく貢献したことでも有名であり、海外IT界隈で今最もホットなワードといっても過言ではありません。

従来かけていた広告費よりも圧倒的にコスパ良く、短時間で効果を生み出すグロースハッカー。しかし、日本ではまだまだ認知されていないのが現状です。そこで、今回は、グロースハッカーを多数要するPROJECT GROUP株式会社の代表である田内氏に、グロースハックについてお話を伺いました。 (以下、田内氏談)

PROJECT GROUP株式会社について

2012年3月、創業。facebookを中心としたソーシャルマーケティング事業、受託のWeb制作・システム開発事業、など経て45以上の自社メディアのグロース経験で培った「高度なユーザー行動解析技術」「数千を超えるA/Bテスト履歴」を元に「グロースハック事業」を展開。コンサルティングおよび改善実行で大手クライアントを中心にサービスを提供し、現在までに150社以上・250サイト以上の改善実績を積み、圧倒的な改善施策データベース量誇る。

グロースハック、その存在意義とは〜たった数時間、1人で企業の売上を億単位上げる力〜

「会社の売上を伸ばしたい」実店舗であれWEBサイトであれ、ほとんど100%の企業が感じているであろうこの課題に対して、グロースハッカーは従来のマーケティングとは全く異なったアプローチで課題解決を図ります。

通常、「売上を伸ばす」という課題に対し図る観点は大別して

  1. 商品設計・・・単価や継続率
  2. 集客数・・・どのくらいのお客さんをサイトに呼ぶのか
  3. 転換率・・・そのお客さんがそこで何個買うのか・単価の高い商品を買うのか

の3つ。

これらの課題解決の判断基準は従来のマーケティング戦略において、大半が「売れそう」「よさそう」「需要がありそう」など、数的論拠がない「なんとなく」の判断基準でした。

これに対し、グロースハックの判断基準は「数字」。ユーザーの行動をデータとして見える化し、データ(課題)から考えうる限りの仮説を設計し、質に転化する瞬間までデータドリブンに量質転化を行い成功の仕掛けをつくります。数字を明確な根拠とすることで、”高確率で成功を引き出すマーケティングの枠組みがグロースハック”なのです。

「データドリブン×量質転化」がグロースハックの最も重要なポイントです。

グロースハックと従来のアプローチの違い

グロースハックの重要ポイント①〜"データドリブン"で「数字」を視る能力〜

1つ目の重要ポイントとして、数字を視るスキルが必須であります。

統計的に有意性のある範囲で、多方面からのアプローチにより効率的にプロダクトを向上させていくため、ユーザーデータや打った施策の効果検証などのデータを数字として見える化する必要があるのですが、それには以下のツールを使いこなせなければいけません。

主に用いるツールとして、以下があります。

  • A/Bテストツール・・・A/Bどちらのほうが効果的かテストするツール
  • データ解析ツール・・・PV数やユーザーの基本データなど、数字化されたデータを見るためのツール
  • ユーザー行動分析ツール・・・WEBサイト版のサーモグラフィ。どのコンテンツが良く読まれているのか、どのボタンがよくクリックされているか等、ユーザー行動を視覚的に見ることが出来るツール

これらのツールを網羅し、必要な数字を抽出することがグロースハッカーになるための基本であります。

グロースハックの重要ポイント②〜プロダクトの生死を決める”量質転化” 〜

2つ目の重要ポイントは、量質転化。

有名な芸術家が描いた絵は、全てが名画であるとは限りません。有名な芸術家であっても無数に絵を描き、その内のいくつかだけが名画と表されます。

つまり、個人の技量がいくら高くあろうとも100%の精度は発揮しえないのです。

プロダクトも、作った後にどれだけPDCAを高速で行い、改善策を突き詰めていけるかでその後の完成度は全く異なるでしょう。プロダクトの生死は量質転化を行うか否かにかかっているのです。

なぜ今、グロースハックなのか?〜グロースハック事業へ転換を決意したきっかけ〜

もともと、2012年設立当時は大手企業の新規事業開発(企画~実装まで関わる受託システム開発事業)を手伝っていたのですが、その中で、新規事業の失敗率の高さに構造的な疑念を感じるようになっていきました。

「失敗するチーム」にあった共通点

失敗するプロダクトは、決まって初期コストをかけすぎていたのです。

全コストが1億円だとした場合、開発コストに5000万以上をかけてしまってはその新規事業の破綻確立は圧倒的に高くなるという認識があまりにもされていませんでした。

例えば、開発費用に8000万、残り2000万でマーケティングを行うと予算を振った場合、投資でいう所の2割の予算でそれを5倍にしないと取り返せないということになります。つまり、レバレッジ5倍は必要。普通のマーケティングをしていたら、とてもではないが回収することは極めて難しいでしょう。

常に改善し続けることがプロダクトの成功確率を高める秘訣

プロダクトの成功確率を上げたいのであれば、常に改善を繰り返し、最善の状態にし続けることが必要です。マーケティング予算をかけない作りっぱなしのプロダクトに満足するほど、ユーザーは甘くありません。どんなに良いプロダクトであろうとユーザーにとって使いやすく、ニーズに沿っていなければすぐに淘汰されてしまうことは容易に想像がつきます。

グロースハックこそ次世代のマーケティングそのものになっていく予感

このように、「一体なぜ失敗するプロダクト」が生まれるのか、事業開発を手伝いながらその共通点を探るうちに、今後グロースハッカーは各企業、各業界にとって重要なポジションになってくると予感し、事業転換を決意するきっかけとなりました。

グロースハックの難しさ〜日本でも一度、グロースハックは話題になっていた〜

実は、「グロースハック」という新しい手法は、2013・14年頃、日本でも流行の兆しを見せたことがあったのですが、結局その概念は日本に行き渡ることなく廃れてしまっていました。しかし、シリコンバレーではグロースハッカーという職種自体がスタンダードになりつつあります。では、なぜ日本では消えてしまったのか、2つの理由があると推測しています。

  • 1つ目は、マネるためのモデルがないこと
  • 2つ目は、日本におけるグロースハックの定義の不明瞭さ

一つずつ詳しく見ていきたいと思います。

グロースハックが後退した理由①〜マネるためのモデルがない〜

まず1つ目。グロースハックを行なうための専用ツールは、実はたくさん世の中に出回っています。しかし、それらのツールを活かしてグロースハックを行なっている企業は非常に少ないのです。

例えば「一つの画像を変更したことでどのような成果が上がっているか」を調べるのがグロースハッカーの行う一部の仕事なのですが、グロースハックには先に述べたツールを使いこなした上で「非常に細かく、手間な作業」を求められるため、企業側はどうしても余計な費用や時間が掛かると考えてしまいがちなのです。

本来であればグロースハックは内製すべきであり、それだけの価値もあります。しかし、グロースハックというもの自体が新し過ぎて、内製化しようにもマネるためのモデルがないのです。

特に老舗の大手企業はITの分野に強いとは言えない企業が多いため、ほとんどは内製化できずにいます。

グロースハックが後退した理由②〜グロースハックの定義が曖昧で「AAARR型=グロースハックの認識は大間違い」〜

2つ目。グロースハックには、はっきりとした定義がなく人によって見解が違うため、統一性のない情報が一人歩きし、結局何がグロースハックなのか分からなくなってしまっていることが挙げられます。

日本のメディアやイベントなどで語られているグロースハックは、実際の現場とはかけ離れた情報が非常に多いのです。

中でも、グロースハックに関してする「AAARR型」と表記された説明をよく見かけますが、これは間違い以外のなにものでもないと感じています。これは、グロースハックの本質と限りなくかけ離れているものです。

まず前提として、「グロースハック」とは手法ではなくマインド(考え方)であります。それにも関わらず、「AAARR型」という手法論にはめ込み、「グロースハック=AAARR型」であるかのような記載に実働を行う我々としては認識のズレを感じてしまうのです。

真の「グロースハック」 とは?

 再度日本に正しいグロースハックの定義と新しいキャリアに対する認識を広めるため、グロースハックについて我々はしっかりと定義をつけなければなりません。それは、

「予断なく量質転化を行い、手段を選ばず考えられる全ての手法を試し、PDCAを回す」こと。

加えて、成功まで根気強く取り組むマインドを持つことがグロースハックと言えます。グロースハックの本質的な働き方とは、まさに「泥臭い」のです。

いくつか事例を紹介します。

【事例1】グローバルナビの削除施策

グロースハック事例1〜グローバルナビの削除施策〜

クリックユーザーのCVRが低く、ページ遷移後の直帰率も高かったのですが、削除によってユーザーの離脱が減り、結果CVRが向上しました。

【事例2】人物を男性から女性に変更する施策

グロースハック事例2〜人物を男性から女性に変更する施策〜

CVしているユーザー層が、ほぼ男性だったこともあり、女性に変更した結果、CVRが改善しました。特に「35歳以上・男性」のCV数が大幅に増加。ちなみに、女性のCVRは「7倍」にも向上しました。

【事例3】割引情報訴求の追加施策

グロースハック事例3〜割引情報訴求の追加施策〜

CVRが大幅に減少。他のコンテンツテストでサービスクオリティを推すコンテンツの追加でCVRが向上していたことから、サービス特性として、「安い」ではなく「良い」を押す必要があったのにも関わらず、一見ベストプラクティスにみえる割引を実施してしまいました。顧客に刺さる訴求はサービスによって違うため、判を押したようにベストプラクティスに見える安い押しをすると数値が減少することもあるのです。

これらのように、グロースハックとは数字を元に地道に改善を重ね、トライ&エラーを繰り返しクライアントの売上貢献に真摯に向き合うのです。

グロースハッカーの果たす役割〜日本のWEB業界を変えるカギとなる〜

2020年、WEB業界は深刻な人材不足が懸念されています。現在のIT事業ににおける人材は91.9万人。すでに現時点で17.1万人が不足しており、2020年には36.9万人、2030年には78.9万人と、不足数はさらに拡大すると予想されています。

これは少子高齢化による人口減少という構造的要因が大きく、減少の加速スピードを考えれば、人手不足は一段と深刻になる恐れもあるのです。

この深刻な人材不足問題を解決できるのは間違いなくグロースハッカーという「ある種のジェネラリスト」の存在であると考ています。

従来プロダクトを完成させるため、デザイナー/プログラマー/マーケター…と最低でも3人以上は必要でありましたが、グロースハッカーは1→100をたったの1人で作ることが可能です。また、AIやIoTなど技術の進化により、仕事の速度や保有する情報量など、あらゆるものの優勢がロボットとなります。それにより、10~20年の間に世界の仕事の65%はなくなるとするとの予測もあるのです。スペシャリストが生き残るには、人工知能を凌駕するほど分野に対して特化しているかジェネラリストのような働き方に変化させるしかありません。

従来通りの知識で1つに特化しているだけでは、もはや「能力は足りない」というジャッジが下り、失業者の増加は必然的です。            

日本の将来人口予測とIT業界人材不足

 

グロースハックの資質のあるマーケッターが主役に〜スペシャリストからジェネラリスト〜

今後は1つの分野に特化したスペシャリストから、1→100のトータル作業を1人で行う労働レベルの高い人=ジェネラリストを作っていく必要があります。WEB業界における人材不足問題は、単純に人数不足で生じているのではなく、1人のできることに対する能力の数不足からも起因していると考えられます。

AI時代の到来やこれから深刻化していくであろう日本の人口減少問題など、時代の変化に合わせ我々の働き方も根本的に変わっていく必要が大いにあるのです。

世界的にもグロースハッカーのニーズは高まっており、現在シリコンバレーでは年収2000万円を超えるグロースハッカーも存在、求人件数は1000件を超えています。

「グロースハック/グロースハッカー」は、今後間違いなくスタンダードになっていくでしょう。

お話を伺った方:田内 広平さん

PROJECT GROUP株式会社の代表取締役。 2012年3月、創業。45以上の自社メディアのグロース経験で培った「高度なユーザー行動解析技術」「数千を超えるA/Bテスト履歴」を元に「グロースハック事業」を展開。コンサルティングおよび改善実行で大手クライアントを中心にサービスを提供し、現在までに150社以上・250サイト以上の改善実績を積み、圧倒的な改善施策データベース量誇る。「EC事業」「ツール事業」「サイト買収事業」の新規事業にも力を入れつつ、既存事業の強化を行い、日本のWEB業界にグロースハックを布教していく。