テクノロジーの進化やグローバル化により、変化が加速していく現在。個人の寿命は延びていく一方で企業の寿命は短くなっていく時代でもあります。そんな変化の激しい世の中を生き抜く上で、個人にも企業に必要とされる能力「レジリエンス」について、本稿では参考書籍を紹介しながら解説していきます。

「レジリエンス」ってどういう意味?

レジリエンスのコンセプトチャート

「レジリエンス」とは、もともと環境学で生態系の環境変化に対する「復元力」を表す言葉として使われていました。それが現代心理学で、人の「精神的な回復力」を示す言葉として使われ始め、「復元力、回復力、弾力」などと訳されています。

最近では、経営学や組織論などのビジネス領域でも使われることが多くなってきています。関連する書籍でも以下のような意味であると解説されています。

失敗を怖れて行動回避する癖を直し、失敗して落ち込んだ気持ちから抜け出し、目標に向かって前に進むことのできる力

「世界のエリートがIQ・学歴よりも重視!『レジリエンス』の鍛え方」より

挫折や失敗から何度でも立ち上がり、成功するまで粘り強く挑戦を続ける力

「STRONGER『超一流のメンタル』を手に入れる」より

ストレスからの回復力、困難な状況への適応力、災害時の復元力

「未来企業 ─ レジリエンスの経営とリーダーシップ」より

なぜ今「レジリエンス」が注目されているのか?

本稿ではビジネス領域で使用される「レジリエンス」について解説していきたいと思います。まずは「レジリエンス」という言葉をビジネス領域でもよく見かけるようになった理由を、企業と個人の両方の観点からご紹介します。

企業の観点:不確実性の高い環境下での経営が求められる

テクノロジーの進化やグローバル化の進展に伴い、世の中の変化が激しくなってきています。

先進国の高齢化・新興国の人口増加といった労働人口分布の変化。通信手段の発達・低コスト化に伴い、知識や人の移動の障壁が下がり、仕事やビジネスモデルも変化していく。

そうした不確実性の高い環境の中で企業が生き残っていくためには、社内だけでなく社外の力を活用するオープンイノベーションに取り組むなど、組織として困難な状況にも適応していく力が求められています。

なお、このように現代の不安定さを、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字をとってVUCAと表現します。

個人の観点:働き方の多様化に伴い、組織に所属せずに生きる人の増加

上記の企業の観点でも「不確実性の高い環境」と書きましたが、終身雇用制度の崩壊により企業が一生涯守ってくれる、大企業に勤めていれば安心、という考えは過去のものとなりつつあります。今まで培ってきたスキルが陳腐化してしまうこともあり得ます。そうした状況にも負けず、粘り強く生き抜いていく力が求められています。

また、新しい働き方として組織に属さずに生きていく人も増えています。ストレス社会ともいわれる現代社会の中で、いかにストレスから回復し、モチベーション高く活動していくことができる力も求められています。

「レジリエンス」の要素

では「レジリエンス」とは、具体的にどのような要素から成り立っているのでしょうか?

STRONGER「超一流のメンタル」を手に入れる』という書籍を引用、要約して解説してみようと思います。こちらの書籍では「レジリエンス」は以下の5つの要素から成り立っているとしています。

①能動的な楽観主義

楽観的な人は、未来に希望を持つことができ、物事を簡単には諦めません。目の前のやるべきことに集中し、成功に向けて努力できます。ただし、楽観的にも2種類あります。受動的か、能動的か、です。

受動的な楽観主義者は、物事がよくなることを願い、そうなることを信じます。ただ願ったり信じたりするだけの人は、状況をコントロールするのをあきらめ、成り行きに任せています。

能動的な楽観主義者は、自分の力で状況を改善するために行動を起こします。自分には物事をいい方向に変える力があると信じているからです。逆境の中にチャンスを見つけ、問題を効果的に解決していきます。

②決断力と行動力

人は困難に直面すると、たいてい気分が落ち込み、無力感にさいなまれてしまいます。こうした感情が長引くと、行動を起こせなくなり立ち直る力が失われてしまいます。これ以上ショックを受けないように心理的な防護壁をつくり、心が何も感じなくなっていきます。問題は心が何も感じなくなることにより、心の回復が阻害されてしまうことです。

逆に、すばやく決断し行動することは、ストレスを軽減して立ち直る力にもなります。逆境から自分を救い出す最も効果的な方法は、心が何も感じなくなるのを阻止することです。

③道徳的な指針

上記で決断力に触れましたが、困難に見舞われている時は、正しい決断を下すことが難しくなります。道徳的な指針があれば、失意のどん底にある時や悪の誘惑を受けた時でも、正しい行動を選ぶことができます。そして正しい行動を選べば、後で自分を恥じることがなく、立ち直りも早くなります。

「レジリエンス」には、「正直さ」「高潔さ」「誠実さ」「倫理的な態度」という4つの関係する道徳的な指針があります。道徳的な指針のある人は、周りから信頼され、多くの責任を任されるようになり、サポートを得られることにもつながります。

④粘り強さ

これは言葉の通りです。粘り強さとは、挫折や逆境を経験してもあきらめず、強い目的意識を持って行動を続けることです。書籍内でもトーマス・A・エジソンの言葉を引用しています。

人生における失敗の多くは、成功に近づいていることに気づかずにあきらめてしまうことだ。

⑤周囲のサポート

逆境や挫折から立ち直る時の「レジリエンス」は周囲のサポートから生まれます。結束力があって協力的な集団は、そうでない集団よりも力があり、レジリエンスも高いといわれています。

「レジリエンス」の鍛え方

ここまで「レジリエンス」とはどういう能力なのか?について解説してきました。次に「じゃあどうやってレジリエンスを身につければいいの?」という部分について、『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視!「レジリエンス」の鍛え方』という書籍を引用・要約して触れていきたいと思います。

①ネガティブ感情の悪循環から脱出する

失敗や困難な体験でネガティブな感情が生まれたら、無視も抑圧もせずに、まずは感じ取ることを大切にします。感情を適切に感じ取れれば、ネガティブな感情が繰り返される前に対処できます。ネガティブな感情を繰り返させないために「運動・音楽・呼吸・筆記」という、自分にあった気晴らしを行うことをおすすめします。

②役に立たない「思いこみ」をてなずける

私たちは、想定外のネガティブな出来事が起きると、ほぼ自動的にネガティブな反応をします。なぜこのようなことが起きたのかを自分自身に説明をする思考プロセスがあり、それは過去の経験によって形成されます。このプロセスは一般的な言葉で「思いこみ」と言われます。感情と思いこみの関係性を理解すると、今まで“自動的に”物事に反応していた自分が、より合理的・意識的に、困難な出来事に対処できるようになります。

③「やればできる!」という自信を科学的に身につける

自信を持つことが大切で、科学的に高めることができる自信のことを、心理学では「自己効力感」と言います。自己効力感を高める方法として、「お手本に見習う」があります。うまくいっている他人の行動を観察することで、「あの人にできたのだから、自分も大丈夫だ」と不安が解消されるというものです。

④自分の「強み」を活かす

自分ならではの強みを見いだし、それを活かすことで、高い充実感が得られます。「レジリエンス」のある人は、次の特徴があります。

  • 自分の強みは何かを把握している
  • 自分の強みを平時から磨いている
  • 自分の強みを有事に活かすことができる

⑤こころの支えとなる「サポーター」をつくる

逆境を経験し、再起して成長した人のほとんどが「自分1人の力では立ち直れなかった」と回想していることからも、修羅場で必要になってくるのが、家族・友人・同僚などのサポートです。そのため自分が苦しい時、精神的に支えてくれる人を5人選び、彼らと普段からギブ・アンド・テイクの関係を築いてくことが大切です。

⑥「感謝」のポジティブ感情を高める

「感謝」の感情は、幸福度が高まるだけでなく、ストレスを低減し、抑うつや不安の徴候が下がることから、逆境を体験したつらい時期の立ち直りの方法として有効です。感謝の念を高める方法のひとつとして、以下のような「感謝日記」があります。

  • 1 日の終わりに感謝したことを思い出す
  • その出来事を日記形式で書き出す
  • 「なぜこの良い出来事が起きたのか」についてじっくりと考えてみる
  • 「ありがたいなあ」という気持ちを胸の内で感じながら、日記を閉じる

⑦痛い体験から意味を学ぶ

つらい体験から意味を学ぶことで自己成長を促します。そのために、過去の逆境体験から一歩離れて俯瞰(ふかん)する振り返りの作業が有効です。自分史を紙に描き、作成した自分だけのストーリーを語りながら、これらの体験にはどのような意味があったのか、自分に対してのどんなメッセージが隠されているのかを高い位置から探求します。この作業を行うと、新たな意味が見いだせる可能性があります。

レジリエンスのおすすめの本

ここまで「レジリエンス」の要素や鍛え方について解説してきましたが、「もっと深く勉強したい!」という方のために、参考書籍をご紹介します。書籍によっては個人、企業と観点が異なるため、読み比べてみるのもおすすめです。

<個人>『リーダーのための「レジリエンス」入門』

ポジティブサイコロジースクールの代表を務める久世浩司氏の著作。「カリスマリーダー」ではなく「打たれ強いリーダー」の重要性を説き、事例とともに打たれ強いリーダーに必要な要素を解説しています。入門編ということもあり、「レジリエンスとは何か?」から内容がスタートしています。

<個人>『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視!「レジリエンス」の鍛え方』

先にご紹介した「レジリエンス入門」の久世浩司氏の著書です。こちらの書籍ではレジリエンスの鍛え方について重点をおいて書かれています。本稿でも引用した、7つの技術によるレジリエンスの鍛え方が詳細に書かれています。

<個人>『STRONGER「超一流のメンタル」を手に入れる』

現代のストレスマネジメント生みの親の1 人であるジョージ・S・エヴァリーJr.博士。ウェクスリー・コンサルティング人材開発社パートナーであるダグラス・A・ストラウス博士。国防総省(陸軍)で心理学アドバイザーを務めるデニス・K・マコーマック博士という、各分野での専門家による共著です。

本稿でも引用しましたが、「レジリエンス」を構成する5つの要素について記載されています。

<個人>『何があっても打たれ強い自分をつくる 逆境力の秘密50』

『How to Get a Job You Love』など、職業選択や能力開発について多く執筆しているジョン・リーズ氏の著作。逆境に直面した時、ある人は挫折し、ある人はうまく切り抜けて力強く成長する。そうした両者の違いが何であるかを比較しています。逆境を切り抜けていくために必要な要素(=レジリエンス)について記載されています。

<企業>『未来企業 ─ レジリエンスの経営とリーダーシップ』

『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 』などの書籍で知られるリンダ・グラットン氏の著書です。これまで紹介した書籍と異なり、こちらの書籍では、企業の視点から見た「レジリエンス」について書かれています。テクノロジーの発展やグローバル化により、変化の加速する世界で企業が身につけるべき能力として「レジリエンス」をあげており、以下の3つの領域で「レジリエンス」を高める必要があると述べています。

  • 内なるレジリエンス(自己蘇生力)を高める
  • 社内と社外の垣根を取り払う
  • グローバルな問題に立ち向かう

『未来企業』は新しい働き方の文脈で、「『新しい働き方』入門ガイド2017〜深く学べる本から企業の導入事例、業界プレーヤー特集まで〜」でも紹介されています。

まとめ

レジリエンスのサマリ

いかがでしたでしょうか?

不確実の高い世の中、人生100年時代。企業であれ、個人であれ、常に順風満帆でいられる可能性は高くないと考えています。逆境に陥ったとき、それをどう乗り越え成長していけるか。企業も個人も「レジリエンス」という能力がますます重要となってくるのではないでしょうか?