働き方改革とは文字通り労働に関する改革です。そこには日本経済の再生というはっきりとした目的があります。しかし、日本の今後の経済が危ぶまれているのはなぜでしょうか。その根幹にあるのは、人口減少つまり働き手が足りないという単純な要因でした。ではどのように労働力人口を確保すればよいでしょうか。

最大の目的は日本経済の再生

長期にわたる景気の低迷

1991年に日本では地価が下がり始め、バブル経済が崩壊を迎えました。それから何年もの間、大手企業が新卒採用を控え、金融機関の不正が明るみになり、企業倒産が相次ぐという不景気を経験しました。

現在も景気が良くなっていると実感できている人は一部ですが、バブル崩壊の頃と比べれば落ち着いている状態といえます。雇用問題を例にとれば、今は求職より求人の方が多いという時代になっています。

現状を突破するための働き方改革

しかしこれは新たな問題である、働く人がとても少ない時代を象徴しています。個人で考えるなら、希望の就職先に入る可能性が高くなったのは良いことです。ですが全体でみると、働き手が少ないことは経済的に非常に重い問題です。では政府が推し進める働き方改革はこの点に対し、どのように貢献しているでしょうか。

労働力人口の確保が必要

労働力人口は減少している

これまで何年もの間言われ続けてきたことがあります。それは少子高齢化です。内閣府が公表している資料を見ると、少子高齢化による生産年齢、つまり労働力人口の減少が明らかになります。

総人口の推計を見ると、100年後に日本の人口は3分の1の4,286万人まで減少すると予想されています。その間も平均寿命は延びていきますので、労働力人口は本当に少なくなってしまいます。ただし、これは出生率が現在と同様に推移した場合の想定なので、子育てに対する支援策などが充実し出生率が変化した場合は、労働力人口にも変化が起こることでしょう。

他にも労働力人口の増加を阻害する要因は色々あります。例えば長時間労働を是とし、転職を非とする考え方です。正規の労働者には長時間労働が当然、と定義されると、介護に追われている人や加齢によってハードな仕事に耐えられない人は就業の機会を奪われることになります。就職のハードルが高くなることで、結果的に労働力人口の減少に一役買っているわけです。

また転職に対するネガティブなイメージが強くなると、一度何らかの事情で離職した人は再び自分の能力を発揮できるような職種を得ることができにくい状況が形成されてしまいます。

労働参加率を高める方法

では労働参加率を高めるにはどのようにすればよいでしょうか。まず思いつくのが、今のところ労働市場に参加していない専業主婦や高齢者を、どのようにこの市場に取り込むことができるのか、という命題です。それに対する回答はシンプルです。多様な働き方を認めればよいのです。

多様な働き方と言われると、様々なポストを用意する、シフトを細かく組む、職務を細分化する、などが考えられますが、それだけでは不十分です。重要なのはその多様な働き方を公平に評価することです。

正社員とパート労働者とで明らかな待遇の差があった場合、事情があって長い時間仕事ができない求職者はその会社に応募するでしょうか。雇用形態によってその人の働きや会社への貢献度が左右されることのない、しっかりした評価制度を確立することは非常に重要です。

残業時間の管理はどのようにするか

労働力人口を確保するためには、評価の公平性に加えて残業時間の管理も不可欠です。上述のように、事情があって残業できない人々がいます。しかし企業にとっては、緊急に残業が必要になることもあるというのが現実です。

多様な働き方の推進により、短時間労働者が就職できるようになったことで、従来のフルタイムで働く人々が追いやられてしまうわけではありません。残業に対応できる人材もある程度確保しつつ、残業のルールを明確にし、正当な対価を払い休暇を付与することで、トラブルを避けることができます。

これとは別に取り組まなければならないのは、業務の属人化・ブラックボックス化を避け、チームとして業務に当たらせることです。これには本格的な労務管理や組織の再構築が必要になりますが、長い目で見るなら企業が生き残るために重要なステップです。

イノベーションが外国に後れをとっている

生産性を高めるイノベーションの欠如

日本の経済再生のために、労働力人口を増やす以外にもできることがあります。例えば同じ人口で今より高い生産性を実現できる方法があるなら、それも再生の起爆剤になるでしょう。

少し話は外れますが、私たちの生活を大きく変える発明品の一部は米国にその端を発しています。そのようなアイテムが生まれた背景には、米国では多くのベンチャー企業が資金面で投資を受け、もちろん生き残れる会社は一握りですが、そのわずかな企業の中から素晴らしいアイデアが生まれてきたことがあります。

日本ではそのような革新的な技術への投資は躊躇される風潮があり、それが原因でイノベーションが生まれず、結果生産性を高めるための種々のデバイスとして海外企業の製品に頼らなければならないことも多いのです。

転職に対する否定的な見方を変える

なぜそのようなイノベーションが米国に比べて起こりにくいのでしょうか。その一つには転職の難しさがあるかもしれません。

前途有望な企業に優秀な人材が集まるなら、そこでイノベーションが生まれる可能性が高くなります。ところが現実は逆で、大企業にいる優秀な人材はほとんど表舞台に出ず、その企業の製品を作り続けることに職業人生を費やしてしまうのではないでしょうか。これはとても非効率的なことです。

付加価値の高い職種や業界への転職が容易になれば、個々の労働生産性は最大限に高められます。そのためには、転職が本人のキャリアにとって不利とならないよう、企業慣行を変化させなければなりません。

大手の転職サイトに勤務するコンサルタントからは有益なアドバイスをもらうことができますし、現在の日本でも生産性の向上につながる転職をすることは可能ですが、あくまでも個人レベルの話で終わっています。

ですから全国的にそのような転職しやすい雰囲気が広がるよう、政府主導で民間とも協力しつつ取り組んでいく必要があります。それが経済再生という国の目的に達するためのステップとなります。

一億総活躍社会の実現

労働参加率を高めるために何が必要か

上記のように、多様な働き方を認め短い時間でも働けるようになり、労働生産性の高い分野を求めて転職が自由にできるとなれば、これまで労働市場に参加していなかった人々の参加が見込まれます。それを叶えるための職場環境づくりを働き方改革は担っています。

ライフステージにより変化する働き方

人生はいつ何が起こるか分かりません。自分自身の病気やケガ、家族の介護や看護、そしてすべての人が体験する加齢。もちろんこれらには、ある程度の社会保障が準備されています。

しかしもし自分や家族が病気や加齢に直面しても、何らかの形で労働できるとすればいかがでしょうか。本人にとってはその後の人生における選択の幅が広がるという恩恵がありますし、日本全体の経済にもプラスに影響するでしょう。そのメリットを世の中が認識したとき、働き方改革は実現に向けて進んでいくことでしょう。

まとめ

政府が提唱する「一億総活躍社会」とは、「若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会」と定義されています。

目的は経済の再生なのかもしれません。ですが、もしどんな立場になってもいろんな人々とかかわりあっていけるなら、それはとても喜ばしい人生の送り方ではないでしょうか。もちろんひたすらいつまでも働かせる、という無情なものであってはなりませんが、公的扶助で支えていく範囲と自らの分を果たしていく範囲とをそれぞれ定めることは重要です。

それによってどんなライフステージにあっても、自分は精いっぱいやっているという実感を持ち、人生に張り合いを感じることができるからです。本来の目的である日本経済の再生を目指しつつ、マネーに換算できない喜びも生み出すことができるなら、働き方改革は大変有意義な政策となるでしょう。

執筆者:木本 こかげ

社会保険労務士。翻訳家。専門知識を背景に社会保険・労働保険・助成金・年金に関する記事を多数執筆。「日本語力」を生かして就業規則・契約書・医学論文・機械取扱説明書・オンラインゲームシナリオの英文和訳を多数手がける。