「遠い存在だ」「自分とはちがう」。そう思われがちな、海外フリーランスという働き方。でも本当に、海外フリーランスは特別なのでしょうか?

海外フリーランサーが実際どんなふに仕事をしてどんなふうに生活しているのか、月一度のインタビューを通してお伝えしていきます。

第1回目のインタビューに応じてくださったのは、新卒フリーランスとしてドイツへ移住した26歳のwasabiさん。翻訳家として活躍するかたわら、現在は海外フリーランスを目指す人のためのコミュニティ作りにも注力しています。

同い年で同じくドイツ在住フリーランサーの雨宮が、wasabiさんの海外フリーランス生活について聞いてみました。

お話を伺った方:wasabiさん

1991年7月1日生まれ東京出身。(本名:藤沢祐子)2014年獨協大学卒業後、新卒でフリーランスの英日翻訳家/ライターとして2015年春にベルリンへ移住。翻訳家として国内外の複数のクライアントと契約するほか、2016年2月にはモチベーショナルスピーカーとして「TEDx Youth @ Kobe」への登壇も果たし、テクノロジーの発達した現代で「働き方」や「生き方」という概念をどう捉え直していくか、自身のオピニオンを展開。

――海外フリーランスになるためにどんな準備をしましたか?

とにかく、日本で就職していない人に会いました。そういう人たちに刺激をもらったことで、「就職するかどうかはささいなことなんだ」と自分の決断に自信を持てました。

翻訳のアルバイトをして、地道に翻訳家としての実績を作ったりもしましたね。

――移住先にドイツのベルリンという都市を選んだきっかけはなんでしたか?

イギリス留学中のベルリン旅行ですね。

「僕たちは独立国家を作ってるんだ」って、知らないおじさんに話しかけられたんです。気になっておじさんについて行ってみたら、小さい庭にいろんな旗が立ってるんですよ。

「君も国を作っていいよ」って言われたのでよくわからないまま旗を立てたら、国を作った証明書をもらいました(笑)

イギリスって、伝統を重んじるキチっとした国なんですね。それに対して、「ベルリンはなんて自由で意味がわからないんだろう」って衝撃を受けました。「こんな変な人も普通に暮らしてるの!?」「なにこれ!!」って。自由でカオスな雰囲気に圧倒された感じですね。

もともとベルリンのサブカルやアートカルチャーにも興味があったんですが、この一件でもっとベルリンを知りたいと思うようになりました。

ドイツは比較的ビザが取りやすいのもあって、「それならベルリンしかないだろう!」とベルリンへ移住しました。

海外フリーランスという働き方

――現在はどんなお仕事をしていますか?

お仕事の6割ぐらいが翻訳で、それをメインにしています。日本よりも現地クライアントの比率が高いんですけど、そのなかでもドイツよりほかのヨーロッパの国の方が多いです。

お仕事は、ブログ経由で連絡をいただいたり、友だちに紹介されたり、自分で営業したりして増えていきました。イベントに登壇することもあるので、そこに来てくださった方から声をかけていただくこともあります。

翻訳だけでなく、ライティングやwebサイトの制作ディレクション、ブログ・SNSを使ったマーケティングアドバイス、ドイツの移住サポートなども請け負っています。

――海外在住ならではのメリット、デメリットやありますか?

デメリットや困ったことって、正直ないんですよね。ネット環境があれば、海外でも不便や困ったことはありません。

良かった点を挙げるなら、即レスを求められないことくらい。日本だと、「早く返事をしてほしい」と言われることもあったんですが、海外だと時差があるから仕方ないと思っていただけます(笑)

チャレンジと失敗を繰り返したことも

wasabiさん

――順調にお仕事しているイメージですが、失敗談などはありますか?

「難民のためのデジタルノマドプロジェクト」かなぁ……。

語学学校で、難民としてドイツに来た人たちと知り合いました。そこでみんな「ドイツで仕事がない」って言っていたのが気になって。

「じゃあ仕事を作ってやろう」って思って、わたしが英語で書いたブログをアラビア語に翻訳してもらって報酬を払う、というプロジェクトをはじめました。

そういう人たちはノマドっていう働き方にピンときていないようだったので、そういう働きを知ってもらいたい、っていう気持ちもありました。デジタルノマドなら、母国に帰っても仕事ができますしね。

――カッコイイですね!実際やってみてどうでしたか?

シリアとの文化の違いを痛感しました。シリアの女性って、かんたんに家から出られないみたいなんです。だから打ち合わせのために、毎回相手の家に呼ばれました。

わたしは完全に「仕事」っていう認識だったんですけど、相手はちがいました。「まずは友だちになりましょう」という認識で、連絡はメールじゃなくて電話が主でした。

正直ここまでコミュニケーションコストがかかるとは思っていませんでしたね……。いつかまたやりたいとは思ってるんですけど、プロジェクトは一旦白紙にしました。

――ほかにもうまくいかなかったことはありましたか?

プログラミングをやってみたりデザインをやってみたりもしましたが、続きませんでした。やっぱりわたし、1人で黙々と作業っていうのがダメなんだと思います。人と一緒になにかをしたい、人と人をつなげたい、っていう気持ちがあって。

いろいろチャレンジしているので、失敗や結果につながらなかったものもたくさんあります。いまやっているのは、そのなかでたまたまうまくいったもの、という感じですね。

ノマドからドイツを拠点にすることを決意

――そういえばwasabiさん、ライプツィヒに住んでいたこともありましたよね?

もともとわたしは、ノマドという働き方をしていたんです。家はベルリンにあるけど、スペインやイギリス、チェコに行って旅をしながら働く……みたいな。

でもドイツ在住歴が長くなるにつれて、「ドイツ語もちゃんと勉強しなきゃ」って考えるようになりました。日本語か英語かのコミュニティにしか属してない状況に、違和感というか焦りが生まれたんです。

それで、国際的な都市のベルリンから、ライプツィヒに引越しました。1年ほどのライプツィヒ生活では、いつもドイツ語を使っていましたね。

その環境は良かったんですけど、ライプツィヒは正直、わたしには閉鎖的に映りました。外国人が少なくて友だちを作るのにも苦労しましたし。それでベルリンが恋しくなって、またベルリンに戻りました。

――戻って来てから、ベルリンへのイメージは変わりましたか?

ベルリンに戻ったとき、以前よりずいぶんドイツ語ができるようになっていました。スーパーでドイツ語で質問できたっていう些細なことがすごくうれしくて。「やっとドイツに馴染めた、ドイツに受け入れられた!」って思ったんです。

そこから、「ノマドもいいけどちゃんと根を下ろしてがんばっていきたいな」って考えに変わりました。拠点にするならやっぱりベルリンがいいな、とも。一度ベルリンから出たことで、自分がベルリンを本当に好きなことに改めて気づいた感じですね。

いまはベルリンでの生活に、100%満足しています。1番生きやすいし、1番自分に合っている場所です。

これから海外フリーランスとしてやっていきたいこと

――フリーランスをやめて就職する予定はありますか?

いまのところ、就職するつもりはありません。これからもフリーランスでがんばります。

わたしのなかで、いまは勉強したい時期なんです。いまのお仕事はキープしておいて、いろいろと知識を増やしたいですね。ドイツ語はもちろん、仮想通貨をはじめとしたお金のこととかもちゃんと学びたいです。いろんな入り口を作っておいて、そこで気に入ったものを深めていきたいな、と。

そういう選択を自分でできるのも、フリーランスの魅力のひとつですね。

――コミュニティサロンの運営について教えてください

海外移住、フリーランス志望の人に向けた「海外フリーランス養成スクール」というコミュニティサロンを運営しています。参加者は100人弱ですね。海外移住の準備やフリーランスとしての営業の方法など、いろいろなコンテンツを配信しています。

フリーランス、特に翻訳って、「どうはじめたらいいかわからない」っていう人が多いんです。だからサロン内のメンバーに仕事を振って、わたしがフィードバックして実績作りに協力したりもしています。運営も、コミュニティマネージメントに興味がある方にお仕事として手伝ってもらっています。

言ってしまえば、社長みたいなポジションですね(笑)

もともと「人と人をつなげたい」という気持ちがあったので、やりたかったことをやっている!って感じです。

メンバーの方がサロン内でプログラミング教室を開いたり、「メディアを作ろう」っていう動きがあったりして、盛り上がっていますよ。

――コミュニティをどのようにしていきたいですか?

いまのサロンメンバーは、20代の人が多いんです。わたしは20代に限定しているつもりはないんですけど……。

30代やそれ以上の年齢の方からお問い合わせをいただくこともあるので、フリーランスにとらわれないコミュニティも作りたいですね。

セミリタイアを考えている人や日本と海外で2拠点生活をしたい人、ロングステイを望む人など、海外移住といってもさまざまです。もっとオプションを広げて、海外を視野に入れている人の参考になるようなコミュニティもできたらいいな、と思っています。

――フリーランスとして、これからどうしていきたいですか?

わたしは日本で息苦しさを感じていたんですけど、ベルリンで海外在住フリーランスになって、その息苦しさがなくなりました。やっと居場所を見つけた!って思えたんです。

でも海外移住やフリーランスって、入り口がわかりづらいんですよね。わたしもそうだったんですけど、キッカケやイメージがつかみづらいというか。

そういう方のために、わたしのサロンが挑戦するキッカケになってくれたらうれしいと思っています。「世の中絶対こうじゃなきゃいけない」なんてことはなくて、「海外フリーランスはだれでもできることなんだ!」っていう可能性を示したいです。

サロンはだれでもいつでも入れますし、辞めるのも自由なので、絶賛メンバー募集中です(笑)

――ありがとうございました!

お話を伺った方:wasabiさん

        

取材・記事制作/雨宮 紫苑