「遠い存在だ」「自分とはちがう」。そう思われがちな、海外フリーランスという働き方。でも本当に、海外フリーランスは特別なのでしょうか?
海外フリーランサーが実際どんなふうに仕事をしてどんなふうに生活しているのか、月一度のインタビューを通してお伝えしていきます。
第3回目のインタビューに応じてくださったのは、欧州スタートアップインタビュー企画のために各地を飛びまわり、クラウドファンディングに挑戦中のAkiさんです。
お話をうかがった方:Akihiro Yasuiさん
ドイツ、キール在住フリーランサー。都内の大学を卒業後東京で2年間会社員を勤め、2015年ドイツに渡りフリーランス活動を始める。「欧州の有益な情報は日本へ、日本のいいアイデアは世界へ発信」をモットーに、環境プロジェクトやスタートアップ、難民支援活動のプロモーション映像製作やインタビュー、記事の執筆などを行っている。
――大学を卒業して、就職したんですよね。やはり「環境」や「食」に関するお仕事ですか?
いえ、全然関係ない職種で、自動車会社の海外営業をしていました。
大学生のころから、日本の自殺率の高さと日本人の働き方が関係していることに関心があったんです。「典型的な日本の働き方」を一度経験するために、就職することにしました。
「自分にその働き方が合っているならそのまま会社員をやってもいいかな」という気持ちだったんですが、ドイツに留学したい気持ちが強くなり、2年後の2015年の3月、退職しました。
――ほかの国ではなく、なぜドイツだったんですか?
学生時代ホテルでバイトをしていたときに、仕事として毎日たくさんの食品廃棄をしていたんです。見栄えをよくするためにたくさん料理を作って、捨てる。それに違和感があって、食品廃棄を減らすボランティアに参加するようになりました。
社会人になってからも海外の大学の授業をオンラインで受講して、自分なりに勉強を続けていたんですけど、本格的に勉強したくなってきたんです。
ドイツの大学なら文系の僕でも環境政策が学べるし、学費は無料だし、生活費も安く済む。それで、ドイツに決めました。
僕は震災後の石巻でボランティア活動をしていたので、「脱原発を決めたドイツがどう変わるのか知りたい」というのも、理由のひとつです。
――現在映像製作のお仕事をしていますが、それも昔から興味があったんですか?
(ベルリン初「賞味期限切れのものだけを販売するストア」のイベントで制作映像の公開)
いえ、それは本当にまったくの偶然でした。
カウチサーフィンって知ってますか? 旅人を無料で家に泊めるサービス。いろんな人に出会えるし、英語の練習にもなるから、大学生時代はよく使っていたんです。
「仕事を辞めたし、ドイツに行くまで久しぶりにだれか泊めてもいいかな」と思って、たまたまリクエストがあったアメリカ人を泊めることにしました。
そこで、僕の人生が大きく変わりましたね。
――カウチサーフィンを通じて出会ったアメリカ人。どんな人だったんですか?
同年代で日本が大好きなヤツで、日本にスタントマンとしての仕事を探しに来ていました。
彼は、旅行中に撮影した映像をyoutubeで公開していたんです。世界中に彼のファンがいて、世界中の人が彼の映像にコメントする。僕にとっては新しい世界で、すごく刺激を受けました。
彼を見ていたらSNSを使って発信することに可能性を感じたし、自分の生き方を見つめ直すきっかけにもなりました。かなり影響を受けましたね。
それで彼がおすすめしたカメラを買って、自分が好きなものを撮って映像として編集するようになったんです。
――そしてドイツの大学に入学、フリーランス活動開始……という感じですか?
(ベルリン初「賞味期限切れのものだけを販売するストア」の共同創業者の3人)
そうですね。2015年8月にドイツの大学に入学しました。キール大学の「Sustainability, Society and the Environment」というマスター(修士)プログラムです。
これもまた偶然なんですけど、通訳の仕事でベルリンに行ったとき、ヨーロッパ各地の宿の壁に絵を描いて生活している韓国の女の子に出会ったんです。
同年代のアジア出身の人がヨーロッパで仕事を見つけて活動している姿を「かっこいい!」と思って、絵を描いているときの様子を撮影させてもらいました。
そんなとき、ドイツのサスティナビリティ系スタートアップの情報を発信しているウェブマガジンが、カメラマンを探していることを知りました。
その韓国のアーティストの子を撮った映像と、盛岡の伝統の毛織物職人さんに撮影させてもらった映像と写真を提出したら、採用してもらえたんです。好きでやっていたことが仕事に繋がった瞬間でした。
フリーランスっていう働き方を意識していたわけではなくて、気付いたらフリーランスになっていた感じですね。
――ほかにはドイツでどんな活動をしているんですか?
ベルリンの「賞味期限切れの食品だけを売るストア」のオフィシャルプロモーション映像を制作したり、日本の企業向けに欧州のインタビューをコーディネイトをしたり、いろいろです。
僕がドイツに来た2015年は、ヨーロッパで難民危機が起こった年でした。「自分も何か力になりたい」と思って、難民の子どもたちに音楽教育をしているThe Hutto Projectに参加したこともあります。
そういった活動が評価されて、ドイツの緑の党財団の奨学生に選ばれました。環境や社会問題に貢献している学生を支援する奨学金です。
この奨学金があったから、あまり収入を気にせずに、気になった人に会いに行っておもしろい活動を取材して日本に発信する、という活動ができました。
――フリーランスのメリットやデメリットを感じたことはありますか?
(左:B-Lab ヨーロッパ本社代表のNathan Gilbert氏)
どんな生き方、働き方でも、メリットやデメリット、リスクはあると思います。フリーランスなので、金銭的な面でやっぱり将来への不安はあります。
でも会社員としてどこかに所属して働いていたら、これほど自由に映像を作ったり、記事にしたり、一緒に仕事をしたい人たちと仕事をすることはできないと思います。
自分が気になることも自由に質問はできないだろうし、映像の撮り方も編集の仕方も自分で全部は決められない。発信の方法も限られる。フリーランスなら自分が会いたい人に会って、聞きたいことを聞いて、撮りたいように撮れる。
そういう意味では、「フリーランスでよかったな」と思います。
あと、フリーランスだといろんな人と繋がりやすいっていうメリットもありますね。人を紹介してもらいやすいし、会いに行きやすい。どこかの企業に属していたら、こうはいかないと思います。僕は、人との繋がりを大事にしたいので。
――現在、クラウドファンディングで資金を募りながら、ヨーロッパのスタートアップを取材してまわっていますよね。
(ベルリン初「賞味期限切れのものだけを販売するストア」の共同創業者とのインタビュー)
はい。それでいま、実はストックホルムにいます(笑)
僕が興味をもっている食品廃棄や環境問題、オーガニックや菜食って、日本だと「堅苦しい」「おしゃれじゃない」っていうイメージが強いと思うんです。それに、馴染みが薄いですよね。
でもヨーロッパには、一流シェフが廃棄食品だけを使って料理を提供するおいしいレストランがあるし、雨水から作ったビールをおしゃれなデザインで販売しているスタートアップがあります。
経済的に自立した活動をするために営利活動はするけど、必要以上の利益は追求しない。いろんな人を巻き込んで、みんなで社会問題に取り組んでいく。もちろん、自分自身が楽しみながら。
社会問題に取り組むビジネスのアイデアを日本にもどんどん伝えていきたいし、そんなブームが起こったら絶対おもしろいと思う。僕は、そのきっかけになりたいんです。
現在ヨーロッパのそういったスタートアップを取材していて、クラウドファンディングで活動費の支援を募っています。
これまでの活動をまとめた動画もアップしているので、多くの人に見ていただけたらうれしいですね。
――これから、フリーランサーとしてどんな活動をしていきたいですか?
(ベルリン初「賞味期限切れのものだけを販売するストア」のメンバーと共に)
ヨーロッパに住み続けたいっていう気持ちはあるんですけど、僕のなかには「日本が好き」っていう気持ちもあるんです。
だからこそ日本に貢献したいし、日本の食品廃棄の問題もどうにかしたい。日本の社会がみんなにとってもっと住みやすく、おもしろくなったらいい。
そう思ってるから、日本を拠点にしてフリーランスとして活動するのもいいし、起業してもいいかなって思っています。
起業するなら、廃棄される果物や野菜を使ったオシャレなスムージーショップを原宿のど真ん中にオープンさせたいですね! 使い捨てカップやナプキンは使わずに、なるべくごみを出さないコンセプトで。
将来住む場所や働き方は決めていませんが、映像や写真、記事などを通して、いろいろな世代の人に「食」や「環境」についての情報を届けたいというのは変わりません。
とりあえず今は、欧州ツアーのインタビュー撮影を続けて、クラウドファンディングを成功させることが目標ですね!
――ありがとうございました!
取材・記事制作/雨宮 紫苑