知られざるビジネスノマドの働き方。ファッション流通コンサルタント、インディペンデント・コントラクター(IC)協会の理事長も務める、ビジネスノマド歴12年の斉藤氏による独立キャリアについてのコラムです。

(第2回目の記事はこちら

前回の第2話では、よりエキサイティングな仕事人生を送るために、独立するか?キャリア転職するか?会社に留まるか?にかかわらず、40歳までに自らの専門性を体系化して新しいステージを迎えることの意義をお話ししました。

今回の第3話では、40歳で独立する目標を立てて38歳に実現した筆者が20代、30代にはどんなことを心がけて仕事に取り組んでいたのかをご紹介しながら、将来自立して働くためのサラリーマン時代の仕事のしかたや仕事への心構えについてお話ししたいと思います。

ビジネスノマドが実践する「どこに行っても通用する仕事のしかた」

「どこに行っても通用する仕事のしかた」として、多くの読者の方々で共通すると思われるのは、礼儀正しさ、時間を守る、相手の話にしっかり耳を傾けるといった基本動作や、周りの人に感謝をする、環境や他人のせいにしない、自分は運がいいと思うといった前向き姿勢、そして出来るだけ数字で伝える、自分の給与の3倍以上の粗利を稼ぐ、などのビジネスセンスや採算感覚でしょう。

 

これらは基本中の基本として、今回は筆者の専門性を高める仕事のインプット術、仕事を体系化していつでも引き継げるアウトプット術、そして、意思決定のガイドラインの3つをご紹介しましょう。

 

仕事の専門性を高め、成長のためのアドバイスをもらう社内外の相談者ネットワークをつくる

新卒で最初に勤務した商社で営業部門に配属された筆者は、直属の上司・先輩だけでなく、その道の専門知識を持ち、自分の成長のためのキーパーソンになると思われる諸先輩方を社内外問わず見つけては、リスペクトしながら自ら懐に飛び込み、教えを乞う機会を大切にしていました。

 

社内であれば、特定の商品に最も詳しいと評判の他部署の先輩方や、仕事のしくみや手続きに明るく業務全体の流れを俯瞰できる商品管理部門や物流のベテランの方々。社外では業務委託先の専門職の方々(プランナーやパタンナー)、お取引先の品質管理部や技術担当の方々など、小さなことでも疑問に感じるたびに「お忙しいところ恐縮ですが、ひとつ教えて頂けますか?」と頭を下げては、それらの方々からの専門知識の高速吸収に努めていました。

 

礼儀正しく、頭を下げて、教えて下さいと申し出る学ぶ姿勢のある後輩をむげに扱う方はなく、忙しい中、ご丁寧に教えていただいた上に、多くの場面で困った時に味方になっていただけた方々には本当に感謝しています。「そのくらいはやっている」と思われる方も多いかもしれませんが、これらを意識的に実行していくことで、人一倍、いや人三倍できるようになります。

 

外部にリスペクトできる良きアドバイザーをみつけて教えを乞う姿勢は今でも自分の学ぶ力、成長のためのインプット力のひとつだと思っています。

 

誰かに引き継ぐことを前提に仕事をする

ふたつ目は、誰かに引き継ぐことを前提に仕事をすることです。

 

すなわち、前任者から仕事を引き継いだり、新しい仕事を始めたりする時にその仕事を誰でもできるように定型化、マニュアル化することです。

 

こうしたことをしていた理由は2つあります、ひとつは仕事を個人に依存的な形にしないため、つまり自分が怪我や病気で出勤できなくなった時に仕事が回らなくなったらお取引先や会社に迷惑がかかることを避けるため、もうひとつは、自分のスムーズなスキルアップのため、同じ仕事をずっとやっているとマンネリ化してつまらなくなるので、早く誰かに渡して、自分は次の新しい仕事にいつでも取り組める状態でいたいという思いからでした。

 

商社に入社して3年目に新規に立ち上げた事業会社への出向を命ぜられました。そうしたときに短期で後任者にわかりやすいと感謝される「完全マニュアル」レベルの引き継ぎ書類が作成できたのも、日ごろから誰かに引き継ぐことを前提に仕事を定型化していたからだと思います。その後も出向先から戻る時、退職時、転職先での異動の際など引き継ぎ書類を作成する機会が何度もありましたが毎度同じことの繰り返しです。

 

読者の方々も何度か異動を経験したとこがあると思いますが、突然言い渡される異動で、準備ができていない状態での短時間で作成される引き継ぎ書類は面倒で正直やっつけに行われることも少なくないようです。筆者にとっての引き継ぎ書類はそれまでの仕事の集大成、いつも楽しく取り組んだものです。

引き継ぎ書類に限らず、日常業務においても、常に仕事を渡す(伝える)相手がどうしたらその後の仕事がしやすくなるか?を考えて仕事をすることを心がけていました。

こちらは独立後のコンサルティングや人材育成業務に取り組む上でのアウトプット力にも活きていると思います。

迷ったときは経営者視点と顧客(エンドユーザー)最適で決める

三つ目は意思決定のガイドラインです。 職場で何か新しいやり方を決めたり、業務を見直したりする場面が多々あると思います。その際、いくつかの選択肢や代案が出されますが、議論の中で迷ったら、最終的には経営者ならどれを望むか?そして、どの選択肢が顧客(エンドユーザー)最適かを考えて結論を出すことにしていました。

アパレルチェーンの本社勤務時、会社にいればオーナー経営者が近くにいましたし、店舗に行けば、顧客である消費者も身近な存在でした。

社内で何かを決める時、関係部署が集まって打ち合わせをする場面がありますが、部署や個人の利害が議論されることが少なくありません。ある部署の仕事が増えるからそれはできない、そちらはいつも楽をしている、こうした方がコストは安くなる、などなど。時には、顧客不在の議論が進み、最悪なケースでは関係部署が妥協して納得した利害の折衷案に決まることも見受けられます。そのような結論で、顧客が喜ぶ訳がありません。

迷った時は2つしかないと思っています。トップ(経営者)なら企業の利益と顧客からの信用の観点からどちらを望むか? そして、どちらが顧客最適な選択か?を考え結論を出すことです。自分たちが楽になるかどうかなど二の次でしょう。

どんな業界でどんな仕事をしていようが、すべての仕事が最終的には消費者(エンドユーザー)につながっていることは言うまでもありません。それは技術の先端の技術を売っている業界だろうが、法人を相手にしている製造業だったとしても、です。顧客最適の発想は最も説得力があり、関係者の誰もが納得して同じ方向を向いてもらえる唯一のガイドラインだと思っています。そんな結論を出す意思決定力こそがどこに行っても通用するビジネスセンスだと思っています。

クライアント企業のファッション専門店の若手幹部へのコーチングでは、競合対策でもなく、社内を丸く収める折衷案でもなく、彼ら彼女らが常に店頭で顧客最適な結論は何か?の答えを出せるようにアドバイスをしています。

さて、次回は独立の目標を持ち、サラリーマン時代にそのような姿勢で仕事と向き合っていた筆者が実際にどのように独立を果したのか?これから独立を考えていらっしゃる方々に、筆者や同じ独立業務請負人の仲間の事例から独立スタートアップのアドバイスをさせて頂きたいと思います。

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表
ノマドジャーナル編集部
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