知られざるビジネスノマドの働き方。ファッション流通コンサルタント、インディペンデント・コントラクター(IC)協会の理事長も務める、ビジネスノマド歴12年の斉藤氏による独立キャリアについてのコラムです。

(第3回目の記事はこちら

前回の第3話では筆者の独立前、サラリーマン時代の20代、30代の仕事のしかたをご紹介しました。
今回の第4話では将来、独立を考えている方のために筆者やビジネスノマドの仲間たちが体験した独立時のリスクが少ない理想的なスタートアップのひとつをご紹介します。

筆者がアパレルチェーンに勤務して5年が経とうとしていたころの話です。
推進して来た3年がかりの業務改革に一区切りがつき、後任者に業務を引き継いだ後、達成感とともに、その会社の中での3年から5年後の自分の姿が想像できなくなっていました。ふと気が付いたらあと1年ほどで独立の目標としていた40歳になろうという時期でした。

筆者が20代のころに独立しようと思ったのは事業会社立ち上げをイメージしたものでした。
しかし、結果的には個人事業主(フリーエージェント)の立場で独立する道を選びます。

フリーランスから事業会社立上げまで。多様な「独立のしかた」

一言で「独立」と言っても独立のしかたはいろいろあります。
例えば、独立を支援する雑誌「アントレ」(リクルート社)によると、同志と共にあるいは個人で事業会社立ち上げる、フランチャイズチェーン(FC)の加盟店(FCオーナー)になる、個人事業主(フリーランス)になる、などの方法があることがわかります。

上記の3つの独立のしかたの中で、大企業、零細企業、中小企業で働いた筆者が、勤務先や取引先のさまざまな経営者と接して感じたことは、強烈なリーダーシップを持ったオーナー経営者を補佐するのは得意でも、会社経営のために時には清濁飲み見込み、ドライな判断を下す事業会社の経営者になることは自分には向いていないのではないか思ったことです。
次にFCオーナーについては、自分は仕事をマニュアル化するのは好きでも、マニュアル化された仕事をすることは好きではないと思いました。

最後にフリーランスというと、クリエーターやデザイナーなどクリエイティブ系の仕事のイメージが強い一方で、少しうがった見方かも知れませんが、企業の下請けというイメージも否めなかったため、筆者にはそういった独立のしかたも想像がつきませんでした。

それでは父のように個人経営の小さな小売店を立ち上げ、個人経営からスタートすべきなのか・・・。果たして自分はどんな形で独立すべきなのか?それとも独立には向いていないのか?という葛藤がありました。

インディペンデントコントラクターという働き方。カリフォルニアの老紳士に感じた未来の働き方

そんな葛藤の中で2004年2月、定期購読していた日経MJの1面に全面掲載された記事に衝撃を受け、「これこそ自分にピッタリな独立のしかただ!」と勇気づけられます。

記事では前年に立ち上げられた、「雇われない、雇わない生き方」 プロフェッショナルな働きかたをする個人を応援するNPO法人の「インディペンデントコントラクター(独立業務請負人)協会」の紹介と、その実例として、高度な専門性を持ち、複数の企業と同時に契約して報酬を得る独立業務請負人として働くプロたちの働きかたが紹介されており、その記事の内容に引き込まれて行きます。

この独立のしかたにピンと来て、強く共感できた理由は、ひとつは第1話でもご紹介したアパレル業界の自分の仕事のしかたに影響を与えて下さったロールモデルたち、心からリスペクトしていた業務委託のプロフェッショナルの方々の存在があります。

そして、もうひとつはアメリカ カリフォルニア州のベンチャー企業で働いていた時(1997-1998)に社長から紹介されたある老紳士との出会いがありました。

その老紳士は大手企業をリタイヤした後、複数の若手ベンチャー起業家の事業成長を支援している方でした。支援と言っても資金を援助するのではなく、大手企業で経理担当役員まで上り詰めた高度な専門性をパートタイムワーカーとして提供していたのです。彼は、なんと、カリフォルニア州最低時給で会社成長の重要なパートを支援しながら、一方で各企業からストックオプションをもらい、会社の将来の成長を楽しみに応援していたのでした。

5年ほど前に出会ったその老紳士の働きかたに未来の働きかたを感じたことを、その記事は時を経て思い出させてくれたのでした。

独立に最低限必要な資金と収入の確保:3年分の生活費を用意せよ。

筆者は独立にあたり2年分の生活費を蓄えていました。しかし、独立して12年が経った今振り返ると、独立を決意する方には3年分の生活費の用意をお勧めします。
なぜなら、石の上にも三年という言葉もありますが、何か新しいことを一(いち)から始めた時、種まきから開花、すなわち納得の行く収入を得て喰って行けるようになるには3年はかかると思うからです。
逆に世の中に本当に求められることを、信念をもって3年貫けば、応援者が広めてくれ、認めてもらえることも多いので、その間 生活に困らない資金が必要だということです。

筆者が非常に幸いだったのは、勤務先の経営者に退職と独立の意思を伝えた時に、「では、うちが最初のクライアントになってもいいか?」と言っていただけたことでした。

無収入から始めることを覚悟していた自分にとってはありがたい話、この上ありません。

お世話になった会社を去るという後ろめたさもあり、その場ではお返事できませんでしたが、その後、そのオファーを有り難くお受けしました。
そして、取引先に退社の挨拶周りに伺った際に興味を持っていただいた経営者さんのうち1社から実際お仕事を頂くことができました。非常にありがたいことです。

ちなみに、退職前に独立したら仕事をお願いすると言って頂けた取引先は3社ありましたが、退職後、実際に契約をしていただけたのは1社でした。会社の看板がある時と無くなった時の現実も知ることができました。

勤務先とそのお取引先1社、計2社からの業務委託料を頂いたおかげで、それまでの年収の約6割にはなりましたが、収入が確保でき、独立のために蓄えていた2年分の生活費は取り崩さずに済んだのです。 

勤務先が最初のクライアントになってくれるのは、もっとも理想的な独立のしかた

この独立する際に勤務先が最初のクライアントになってくれるというパターンはもっとも理想的な独立のしかたのひとつだと思っています。

実際に周りの独立業務請負人の仲間を見渡しても、尊敬する先輩のひとりで社労士の資格を持つT氏は上場企業の社員ながら、独立の意思を伝えた勤務先の上司から業務委託契約のオファーを受けて円満な独立を果しました。
他にも外資系企業に勤めていたO氏は週2回の出勤で後任者とチームの人材育成を担う業務委託契約を結んで独立しました。

これらは勤務先との関係が良好であり、本人の実力を評価していたこと、そして、その専門性や今後のポテンシャルが勤務先から認められたことに他なりません。


いずれは前職との契約は終了する可能性はありますが、独立にあたり、勤務先との円満な関係、種まきを始める上で生活に困らない収入の確保はその後長続きする独立の秘訣だと思います。

さて、次回は、果たして自分は独立できる専門性を持っているのか?独立する前に整理しておかねばならない、他社でも求められる自分の専門性の棚卸についてお話しします。

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表
ノマドジャーナル編集部
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