知られざるビジネスノマドの働き方。ファッション流通コンサルタント、インディペンデント・コントラクター(IC)協会の理事長も務める、ビジネスノマド歴12年の斉藤氏による独立キャリアについてのコラムです。
(第5回目の記事はこちら

これまで当連載コラムでは、仕事人生の長期プランを立てて未来から逆算すること(第1話)、その途中に節目とする年齢=マイルストーンを置くこと(第2話)、会社に勤務している間はどこに行っても通用する仕事のしかたをすること(第3話)、勤務先にも貢献して認められる良好な関係を保つことが理想的な独立スタートアップにつながること(第4話)、自分の専門性を整理してそれを求める市場性を確かめること(第5話)をお話して来ました。

第6話の今回からは独立をしたら、どんなことを考えながら活動することになるのかについてお話しさせていただきます。

独立したら、自立・自律して自ら仕事と収入を確保すると覚悟はしていても、実際に独立してみると、常に不安や危機感を抱え続けることになります。それは独立して軌道に乗るまでのしばらくの間はもちろんのこと、独立してから10年以上が経った今でも変わりません。

筆者の場合、クライアント先とは6か月契約または1年契約を結びます。契約期間が違う複数のクライアント先と同時に契約を結ぶことが多いため、契約期間の違いから、いつも2-3ヵ月先の収入は確実に見えていても、6か月以上先の収入は確定していないのが現実です。

そのため、
現在契約中のクライアント先で契約更新をしてもらうためにベストを尽くすことはもちろん、終了する契約の次の仕事を探し続けているのが現実
です。

これだけ聞くと「独立」に対して極度の不安定感を抱く方もいらっしゃるかも知れませんが、経験を重ねて行くと、継続的な自己研鑽の努力と緊張感の維持と共に、自信と度胸がついて楽観的にもなり、危機を乗り越えるテクニックも覚えるものです(笑)

独立したころに期間限定契約をたくさん抱えて仕事をしている先輩から頂いたアドバイスのひとつに「今の仕事に自分の時間の100%を使い切ってはいけない、常に25%くらいは営業のために時間を空けておき、次の仕事の獲得の種まきをしろ」というものがありました。筆者が今でも守り続けている掟のひとつです。

新規の仕事の獲得には次のようなものが考えられます。

  • 自分の仕事ぶりを知る知人からの紹介
  • 研修講師などに多い研修会社への講師登録
  • ビジネスマッチング会社(サイト)への登録
    飛び込み営業
  • 飛び込み営業

よっぽど営業力に長けている方は別にして、新しい仕事の獲得のほとんどは自分を信頼してくれている方からの「紹介」によるものがほとんどだということを知っておいて欲しいと思います。

価の高くないB to C(個人向け)の相談、専門誌への執筆、セミナー講師のようなスポット(単発)の仕事は別にして、比較的単価が高く、企業が専門的なスキルを求める案件であれば、クライアント先も自分自身も信頼できる方の「紹介」がきっかけにならないと話はとんとん拍子には進まないものです。それはあなたが本当の意味で何者なのか?信頼ができるのかどうかがわからないからです。

「どう紹介してもらえるか」がカギ

紹介者に上手く紹介してもらうためには、自分はいったい誰なのか?自分はどんなことで貢献できるのか?自分は誰と仕事をしたいのか?自分はどんな仕事をしたいのか?常に自問自答しながら整理して、それが自分以外の人にわかりやすく活動をする必要があります。

これはサラリーマン時代には考えることのなかったことでしょう。なぜなら、勤務先の知名度や役職が自分の「看板」として、それを代弁していてくれたからです。

そう、サラリーマン時代は何だかんだ言っても会社の看板を借りて仕事をして来たのです。そして独立してからは自分自身の看板を作らなければならないのです。

自分はどうやって紹介されるのか?自身で行ったSWOTとのギャップを調整し、自分の看板づくりのキーワードを見つけていく必要があります。

独立後、勤務先の看板が外れた「信用」のないあなたを信頼する紹介者はあなたをどう紹介するでしょうか?

それは好むと好まざるとにかかわらず、やはり前職の社名や前職での実績が中心になるのが現実です。元○○社社員、あの会社で○○をした人、一緒に仕事をした方であれば、何が出来る人、何をした人と、より具体的なスキルを挙げてくれるかも知れません。それが紹介者のあなたに対する過去の評価=現在の強みなのです。 独立して最初の3年くらいはこの「過去」の実績や評価をベースに仕事を獲得することになります。

前話で自分のキャリアの強みの棚卸=SWOTをすべき話をしましたが、自分が整理した強みを果たして紹介者も使って紹介してくれるのか?を確認するとよいでしょう。

独立まもなく、事業会社を起業してご苦労の末 軌道に乗せていた先輩に挨拶に伺った時に頂いたアドバイスに「自分は何ができるかをいろんな人に投げかけてみるといい。返って来た言葉の中に自分が気づいていない、わかりやすいキーワードのヒントがある」というものがありました。この金言も筆者が今でも新しいことを始める時に今でも活用しているテクニックのひとつです。

例えば、ある方に「商社で海外生産を、外資系ブランド企業立ち上げで卸しを、アパレル専門店で小売りを、業界の業務を一通り経験しました」 と伝えたところ、「それは貴重なキャリアですね、今業界で進んでいる 『SPA(アパレル製造小売業)化』 に貢献できそうですね」と言って下さった方がいらっしゃいました。

また、別の方には 「成長中の小売業のしくみづくりや業務改革の経験があります」と伝えたところ、「なるほど、斉藤さんの仕事は業界の『人材育成』につながる話なんですね。」 と返ってきました。 自分が伝えた長ったらしいフレーズ、堅い言葉よりも、もっとわかりやすい、そして自分の強みを的確に表したキーワードを返して頂いたことに今でも感謝しています。 独立まもない筆者の名刺の表に 「ファッション流通 SPA化時代の人材育成支援」のキャッチフレーズをつけることによって、名刺交換の際にそのキーワードに基づいて話が弾んだことを覚えています。

自分の一方的な思い込みが相手に伝わるとは限りません。むしろ第三者がこちらの言わんとすることを理解して簡潔に返して来た言葉の中に一般的に伝わるキーワードがある=客観視の大切さを知りました。

自分の強みを整理して、どう伝えるか?「何によって覚えられたいか」を考え始めた時から始まるパーソナルブランディング。

今回、そして次回以降の話は知識労働者の台頭を提唱したドラッカーの有名な言葉である「何によって覚えられたいか?」の実践例です。 この自分は「何によって覚えらえたいか?」=どんなキーワードで紹介されたいか?を考え始めた時から自身のパーソナルブランディングが始まると言えます。

まずは過去の実績をベースにした「何によって覚えられたいか?」=自分は誰か?何によって貢献できるのか?今の自分をブランディングし、獲得した現在の仕事にベストを尽くしながら、並行して 未来に「何によって覚えらえたいか?」=誰とどんな仕事がしたいのか?=未来のブランディング を行う。

筆者自身や周りの仲間を振りかえってみても、過去の実績や成功体験のノウハウの吐き出しだけを売り物にしたら、その賞味期限はせいぜい3年間です。その強みを時代にあわせて付加価値をつけながらアップデートしているかどうか? おそらく、独立して、3年以上 続く人とそうでない人の違いは、運やツキもあるかも知れませんが、そこにあると思います。

これはビジネスノマド、インディペンデントコントラクター(独立業務請負人)として独立するものにとってだけでなく、転職をする方、社内で昇進を狙う方、あるいは事業会社を運営する企業にも同じことが言えるのではないでしょうか?

社会はそのくらいのスピードで移り変わっているのです。

次回以降、ビジネスノマドのパーソナルブランディングについてより具体的に話を進めて行きます。

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表

ノマドジャーナル編集部
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