複数の企業と業務委託契約を結んだり、スポットの短期プロジェクトを請け負ったりするビジネスノマドの生命線は仕事の獲得(営業活動)と料金設定でしょう。

仕事の獲得事例については第8話でお話ししましたが、今回の第10話では料金設定=報酬をいくら頂くかという誰にとっても最も大事なことながら、なかなか話題にできないテーマに踏み込みましょう。

商談中のお相手から、「それではどれくらいの費用でやってもらえるのか?」「見積書を頂けますか?」と言われた時にどのように考えたらよいか?筆者の長年の経験やまわりの仲間が日ごろ考えている料金設定に関する考え方をご紹介したいと思います。

1.自分の単価はいくらなのか? 

個々の案件への対応を考える前にはっきりさせておきたいことは、いったい自分はいくら稼ぎたいのか?を具体的に年収や月収で設定しておくことです。

更に、稼ぎたい収入は1社から頂くのではなく、自分の時間を切り売りして、複数社から頂くわけですから、年収や月収といったザックリした金額ではなく、もっと細かい自分の単価を決めておく必要があります。 それは自分の時間あたりの単価です。

 

読者の皆さんは自分の単価=時給がいくらであるか計算したことはあるでしょうか? 一度、ご自身の収入を1ヵ月あたりの法定労働時間(いろいろな計算方法があると思いますが、一日8時間労働、週休2日とすると約173時間になります)で割ってみて下さい。 昨年700万円の年収を得た方であれば、約3371円、1000万円の年収であれば約4816円になります。

ここで出た自分の時給を高いと思うか、低いと思うかは人それぞれだと思いますが、サラリーマンであれば、必要経費や社会保険は会社が負担してくれていたので、独立すると、経費を含めた分も稼がねばならないのは言うまでもありません。毎月の活動経費として考えなければならないのは、自宅とクライアント先以外に仕事場を持つのなら事務所家賃、その他、通信費、交通費、事務用消耗品、図書研究費、交際費、各種保険、積立金など数十万円になります。理屈だけを説明するために計算をすると次の通りとなります。

たとえば年収1000万円の収入を手にしたいと思い、月当たりの経費が20万円かかるとしたら、週1日伺って終日ご支援するクライアント先に対しては
単純計算8時間x4816円x月5回+20万円÷5=約24万円(月額見積金額)ということになります。

更に、第6話でもお話ししましたが、そのお取引先とのご契約が半永久的な雇用を保証されているわけではないので、自分の活動時間の3/4(25%)は将来の仕事の獲得のための種まきの時間に確保をしておかねばなりません。
そのため、24万円÷0.75=32万円が目標収入に対しての必要額となるわけです。 この場合、時間単価は32万円÷40時間=8000円、一日あたり64,000円となります。

2.もちろん同業者の相場やクライアント先の事情や予算もある

当然のことながら、自分の主張だけが通る世の中ではありません。同じようなスタイルで働いている人も世の中にはたくさんいますし、アウトソーシング先に仕事を依頼したり、派遣社員を活用しりした経験がある企業も多いので、アウトソーシングになれている企業であれば同業者の相場というものを知っている方も少なくありません。

高い専門性を持った個人のコンサルや業務委託契約者の事例で言うと、駆け出しで1日5万円(時給6250円)、平均は同10万円(同12500円)、かなり実績のある人で同20万円(同25000円)超でしょうか。

相場に関わらず、相手先に事情や予算がある場合もあります。

筆者の場合、経営者様など決定権を持っている方からの依頼であれば、先方の期待値を知りたいので、こちらから金額は一切言わずに、お相手に言ってもらうことにしています。

この場合、ほぼこちらが希望している金額か、それ以上なので、即決することがほとんどです(お相手が経営者様なので、稟議待ちの必要もありません)

一方、大手企業のように担当者が窓口(依頼主)だった場合は、社内で了解を取るために、ほぼ見積書を要求されます。上記のロジック(設定単価x所要時間)で見積もりを出しますが、ひとつだけ気をつけていることは、今後、一緒にお仕事をする紹介者や先方の担当者が受け取っているだろう月額や月給よりも高くならないよう配慮をすることにしています。それはフルタイムではないにもかかわらず、短期で雇用が保証されていないとは言え、そういった方よりもたくさんもらうわけにはいかないからです。そのため、関与時間数を調整することもあります。

3.その仕事を受けるか受けないかの基本はやりたい仕事かどうか

当然のことながら、こちらが希望する報酬が提示されないこともあります。その時は時間調整をしたり、先方に代わりにやっていただくことを決め、条件をのんでいただくこともあります。

また、そもそも受託する仕事には大きくわけて次の3つがあると思っていますので、分類別に対応も変えています。

  1. 自ら構築済みのノウハウを提供するだけの仕事(研修、講演など) 
  2. 自分の専門性に更に磨きがかかる仕事(コンサル、業務委託など)
  3. 現時点で業界にそういった専門家が少なく、取り組むことによって確実に自分の新しいノウハウ蓄積につながる仕事(アドバイザー、業務委託など)


1、2は実際に正当な報酬を頂き、3は極論、無償でもやりたいので、安くても先方の言い値で受けるというスタンスです。 基本は、やりたくない仕事や肌に合わない方々との仕事はいくら高報酬でも受けません。上記3つのタイプの仕事のバランスが取れている時は充実している時だと思っています(現在もその状況です)。

筆者は取り組みたい依頼案件に関して、報酬に折り合いがつかず、交渉決裂した経験はいままでにほとんどあまりありませんが(これまでのクライアント企業さんには正当にご評価いただいたことを大変感謝しています)、お互い折り合いがつかなかった場合の、あるフリーランス仲間の対応例をご紹介したいと思います。

彼はその場合、「最初の3ヵ月は言い値でベストをつくすので、仕事ぶりや、成果に納得いかなかったらその時点で契約終了で構いません。但し 4か月目以降継続するならこちらが提示した価格で契約更新して下さい」と申し出て、先方が了承する場合はご契約をすることにしているそうです。その結果は100%契約更新。さすがプロ中のプロだと思います。

4.契約更新やリピートこそ最大の評価

ご契約を結んだら、報酬が高い低いにかかわらず、ベストを尽くすのが本当のプロです。

筆者も上述の彼のような駆け引きはしたことはありませんが、単価に関わらず、どんなクライアント先でもその時考えうる、出来る限りのことをし尽くすことをポリシーにしています。

中にはちょっと低めのご報酬でも納得してスタートした相手先でも、契約満了時期が近づいた時、「これまで少ない報酬で申し訳なかった」と更新時報酬を上げて下さった事例も何回か経験しています。

契約更新や時期をおいてでも構わないのでリピートがあることこそ自分の仕事に対する最大の評価だと思っています。

独立してひとりでやる時のリスクヘッジは何か?と聞かれることがありますが、それは常に出し惜しみせず、各回ベストを尽くすことに尽きると思っています。

5.長年やっていても思うように年収を伸ばせない場合

常に仕事はある、ベストを尽くしているのにもかかわらず年収を伸ばせない方がいらっしゃいます。その場合はそもそも単価設定が安い場合がありますので、見直しをお勧めします。 常にベストを尽くすプロであれば、得たい収入から計算して、新しい仕事から単価を上げてみることを是非ご検討してみて下さい。既存の相手先ではなかなか単価を上げることが難しい場合、自分が設定する単価に合わないのであれば、むしろ義理で繋げよう、繋げようとして自分からは追いかけないというのも考え方のひとつだと思います。 

私もそんな発想の転換から収入にも変化があることを経験したひとりです。自分の体はひとつ、切り売りできる時間は限られていますので、自分が満足行く生産性を上げることを考えたいですね。


さて、次回は個人の事業主として独立して10年以上続けて来た筆者や仲間たちが共通して感じている仕事の周期や法則、また個人として働きながら従業員を雇わずに仲間との協業をすることについてのお話しをしたいと思います。

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表

ノマドジャーナル編集部
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