前回の第10話では複数の企業と並行して仕事をする個人事業主の料金設定のお話しをさせていただきました。

今回の第11話と次回の第12話ではではフリーで長く働き続けているとわかる仕事の周期にまつわるお話しをしたいと思います。

独立してようやく軌道に乗って来た方や長年フリーで働いているものの仕事が途切れがちな方へのヒントになれば幸いです。

仕事には3年ごとの周期がある

フリーエージェントとして独立して、12年が経ちました。 

その間を振り返ってみると1社のクライアント企業さんと取り組むひとつのプロジェクトのサイクルは平均おおよそ3年だったと感じています。

この仕事の「3年周期説」は筆者が理事長を務めるIC協会(インディペンデントコントラクター=独立業務請負人という働きかたの普及をめざすNPO法人;2003年設立、会員約130名)に属する独立後10年超の会員さんたちとディスカッションした時に多くの方々が共感していたことのひとつでした。

当コラムの第7話 では、独立後3年目をいかに乗り越えられるかが、その後もフリーで長く働きつづけることができるかどうかの分かれ目であることをお話ししました。 

実はそれは独立3年目に限らず、次の3年(6年目)、そしてその次の3年(9年目)にもやはり同じようなことが言えるのです。

取り組み(プロジェクト)にもライフサイクルがある

この3年周期はマーケティングでおなじみのライフサイクル理論(導入期、成長期、成熟期、衰退期)に当てはめて考えるとわかりやすいかと思います。

プロジェクトを立ち上げて形にするためにがむしゃらに走る「導入期」、工夫を加えて精度を高める「成長期」、軌道に乗ってご利益が得られる「成熟期」、同じ人がそのまま同じことをやっていたら業務がマンネリ化する「衰退期」となりますでしょうか。 これを筆者がよく取り組む業務パターンとともにご説明しましょう。

1年目の「導入期」は、まずは最初の数か月でクライアント先の現状を理解しながら課題を抽出し、改善目標プランを提案した上でスタートします。現場ですぐに実行出来て短期的に成果が表れることを試しながら、半年先に向けて中期的な成果を出すための準備をすることが並行しているイメージです。

クライアント先のプロジェクトメンバーの方は現業以外に今までやったことのないことに取り組むために忙しくなりますし、筆者もクライアント側の期待やメンバーの方々との最適な間合いを確認するために、ムダになるかも知れないことも含めて150%の時間と労力を使って活動します。

お互い忙しい時期の中で新鮮な発見も多く、将来の成果に期待が膨らむ時期です。

2年目の「成長期」は精度を高める時期です。1年目に始めた中期プランの実行の成果が表れ始めますので、結果を検証して、良いことは続け、うまく行かなかったことは反省した上で修正を加えます。結果について考えながら工夫をして精度を高めるというプロセスでメンバー全員が成長している時期です。

3年目は新しい業務も軌道に乗り、これまでの成果がもっとも享受できる「成熟期」です。業務はかなりルーティン化、マニュアル化され、自らすすんで実行できる人が増えるのはもちろんのこと、中にはルール通りに行うだけでなく、教えることができる人も現れます。このような現場の運用が見届けられれば、ここで外部の支援スタッフである筆者としては任務完了(mission completed)というわけです。

 

実は、ここで任務完了、契約終了としておけばよかったものの、その後、惰性で4年目に突入したプロジェクトがいくつかありました。決まったルーティンの中での定例ミーティングはお互いマンネリを感じてしまい、実際には筆者がいなくてもできる状態になっている訳ですから、案の定、そのほとんどがその後、半年も続かず契約終了となっています。 

このマンネリ化は、ある意味、プロジェクトとしては「衰退期」です。惰性で続けているより、お互い次の成長のために新しい取り組みに時間を費やす方が生産的でしょう。

特に二桁成長を続けている成長企業においては、3年も経つと会社の規模も倍くらいになっていて、経営課題の中心は変わります。自分で出来るようになることはもちろん、教えることができる人が育ちます(それが筆者の人財育成ポリシーでもあります)。 また、そのクライアント先の企業の規模の拡大と業界内での知名度の高まりによって、次のステージを経験した大手企業からの中途採用者が入って来るなど、環境が変化します。

この取り組みの「3年周期説」から業務委託契約者たる私たちがわきまえるべきことは、取り組みにはライフサイクルがあり、顧客はいずれ「卒業」される。 その際、外部コンサルや業務委託者はその仕事に「しがみつかず」、「引き際」を考えなければならないということです。 

そして、もし、同じクライアント先と引き続きお取引を継続したいのであれば、次のステージに必要な新しい取り組みの提案が必要であるということを感じています。

筆者の場合、企業の成長ステージとそこで必要な専門性をある程度絞っていることもあり、振り返ってみると、これまでおつきあいさせて頂いたクライアント先との平均契約年数は「3年周期説」よろしく3年というパターンが多かったです。しかしながら、6年間続いた先も3社ほどあります。取り組んでいる時は意識していませんでしたが、いずれも3年がかりのプロジェクトを2テーマ回していたことになっていました。

実現したいことを具体的に書き出すことで仕事はつながる

仕事には3年の周期があることをわきまえ、常に今取り組んでいるプロジェクトにベストを尽くしながら、3年後どんな仕事にかかわっていたいかを考える毎日。 

そんな私たちにとって、毎年、新しい決算期の始まりに今年度はどんな1年にしたいのか? 3年後にはどんな仕事をしていたいのか?その目標設定を実際に書き出してみる、数字で表す、それらを頻繁に見直すことが大切です。そうすることにより目標実現意欲が高まり、運と縁を引き寄せて、目標が実現することを体感しているのもIC協会独立10年選手の方々と共感した法則のひとつです。 

ある独立10年超選手のITコンサルの仲間は毎年取り組みたいプロジェクトの内容を書き出し、実際に取り組みたい潜在クライアント名や数字(件数や報酬額)で表し、少なくとも3ヵ月に1回はそのプランを見直すことで、実際に同様の仕事が舞い込み、報酬目標も達成するという現象をここ数年間続けています。

筆者の場合、複数の企業と並行して仕事をしていますので、現在継続中のプロジェクト、今年節目を迎えるプロジェクトなどをライフサイクル別に簡単な管理表のようなものに表して可視化しています。それと同時に今年実現したいことと、3年以内に実現したいことを書き出し、そのために今から何を準備すべきかを書き出します。

必ず行うことは、実際に取り組みをしたい企業名を常に具体的にリストアップしておき、それらの会社の情報収集を行ったり、店舗を頻繁に見に行ったり、それらの企業について業界仲間と話題にすることです。すると、数年内にその中の一社との取引が実際に始まることを何度も経験しています。

また、5年前のことですが「3年以内に英語を公用語とする国際プロジェクトに参加する」という目標を立て、仕事の合間にベルリッツ英会話教室個人レッスンに通い始めました。レッスンの内容はすべて自らカスタマイズしたもので、筆者の専門性を英語でプレゼンテーションし、複数の国籍の講師に違った角度で質問をしてもらったり、修正をしてもらったり、ネイティブならではのボキャブラリ―を教えてもらうというプログラムを続けました。

その結果、レッスン開始後3年が近づいた頃、ある外資大手投資ファンドから海外ブランドの日本法人の再生プロジェクトに流通専門家として招聘され、期間中は英語でのミーティングに参加してなんとか自分の役割を果たすことができたという経験を持っています。

やりたい仕事を書き出し、それを実現したいと切に意識することで、実際に行動が変わり、強い思いが縁を引き寄せる。 これは多くの仲間と共感している信念のひとつです。

 
 

次回 第12話は 「独立後10年を振り返ってわかること」の後編です。3年周期より大きな波が押し寄せる10年目の転機や独立したプロフェッショナル同志がコラボすることによって大きなプロジェクトに取り組めることの可能性についてお話ししたいと思います。

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。
大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表

ノマドジャーナル編集部
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