前回の第11話では「独立後10年を振り返ってわかること」の前編として、ひとつの仕事にはおおよそ3年周期があることにまつわるお話しをしました。 今回は3年周期とともに感じた10年目の大きな節目についてお話ししたいと思います。

3年周期とは別に訪れる、独立後10年の大きな節目

前話では長年、独立業務請負人を続けている方々の多くが実感している仕事の3年周期説についてお話しましたが、独立してから12年が経過した筆者には「10年の節目」もあったと実感しています。 それは「周期」というより 「転機」や「新しい視界」に近いものだったかも知れません。

「10年の節目」の要因はいくつか考えられますが、まずはプロとして長く働き続けたことによる専門性の厚みと広がりでしょう。

その時々に取り組むプロジェクトにベストを尽くし、3年後にやりたい仕事の種まきをしながら、自分なりにそれらを実現していると、3年ごとに既存の専門性がブラッシュアップされ、そこにまた新たに体系化された専門性が身につきます。そして複数になった専門性を合わせ技で提供することも可能になります。

次に専門性を持ったプロとして実績を重ねるごとに加速する知名度の向上です。 

過去にご支援したクライアント企業が成長され、業界注目企業となれば、業界の中での自分の実績としてキャリアに箔がつきます。筆者は自らそれを公言することはしませんが、筆者のことをよく知っている方々はそれを知っていて、筆者を潜在クライント先に紹介して下さる際にはそれらをキーワードとして使っていただけます。

「ユニクロ対ZARA」出版の絶大な効果。書籍化で広がる客層

知名度と言えば、これまでに業務を通じて体系化したノウハウをまとめた2冊の書籍の出版は、筆者の専門性や独自のアプローチを広く世に知って頂く上で絶大な役割を果たしてくれました。

 

1冊目の「人気店はバーゲンセールに頼らない-勝ち組ファッション企業の新常識(中央公論新社)」は独立9年目にIC(独立業務請負人)協会の仲間である出版実現コンサルタント天田幸宏氏にご協力を頂き、持ち込み企画が編集者に採用されて出版に至ったものです。 こちらは、筆者が長年蓄積したファッション流通業界におけるチェーンストア運営ノウハウを有名企業の事例を用いて解説したものでした。

翌年出版した2冊目の「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」は1冊目の内容を評価頂いた出版社側からご指名で執筆依頼を頂いたものです。

転機は、このグローバルに成長を続ける大手メジャー企業のビジネスモデルを対比した「ユニクロ対ZARA」(日本経済新聞出版社)の出版以降に訪れます。その転機とは、出版以前は中規模の新興企業をメインクライアントにしていた筆者でしたが、出版後は東証一部上場企業を中心に大手企業からのアプローチが増え、そして、実際に何件もの契約に至ったことです。

インディペンデントコントラクターが対応するべき市場環境の変化と世代交代

「10年の節目」で訪れる変化については内部要因だけでなく、外部要因もあります。

まず、10年も経てば、市場環境も大きく変わります。

例えば、筆者が働くファッション流通業界では、独立当初の2004年ごろは、ショッピングセンター(SC)開発ラッシュがありました。 当時はSCへの出店で多店舗化させ、増えた店舗間の在庫をいかに最適化させるか(店頭在庫コントロール)が成長企業の課題でした。

しかし10年経った2014年は成長セクターがインターネット通販(EC)に変わり、オムニチャネルリテイリングというキーワードの下、ECの売上拡大と店舗とECを融合させた在庫コントロールの必要性が問われています。自分の専門性を時代とともに、市場環境の変化にあわせてアップデートしていかなければ話にならないことは言うまでもありません。

更に10年も経てば世代交代も始まります。かつての教え子さんたちも含め次世代が40歳近くになり、近い将来競合しそうな方々の台頭も感じています。 いくら過去に実績があっても、自分たちがこれまでと同じことだけをやっていたら、時代の変化とともに彼ら彼女らの新しい発想には敵いません。 最近露出が高まって来た次世代の若手との棲み分けやコラボレーション、競合よりもむしろ育成と引継(バトンタッチ)も考える今日この頃です。

大きなプロジェクトにはフリーエージェントどうしのコラボで対応

長年仕事をしていると蓄積されるのは専門性や仕事の獲得の多様化だけではありません。プロジェクトを共に遂行できるプロの独立業務請負人の方々とのネットワークの広がりもかけがえのない財産です。 

フリーエージェントとしてひとりでやっていると何から何まで自分でやらなければならない面倒なことも多く、またひとりではやり切れない案件の相談を持ち込まれることもあります。

そんな時考えるのは人を雇うのではなく、筆者と同じように独立業務請負人として専門性を発揮して活動しているプロの方々との協業です。 
長年フリーで働いていると、クライアント先でたまたま一緒に働いたことがあったり、時折、知人から紹介されたりするフリーのプロのネットワークが広がります。 彼ら、彼女らとなら、雇ったり、雇われたりする雇用関係ではない、期間限定で集まってプロジェクトに取り組み、終了したら解散するプロ同志の割り切ったコラボレーションが可能です。

これまで実際にコラボをして来た事例を紹介しましょう。

  • 急成長を続ける新興企業の短期間の販売管理システム入れ替えプロジェクトにシステムコンサルの方と物流コンサルの方とチームを組んで役割分担をして対応した。
  • 大手企業向けの提案書プレゼン準備に営業プレゼンテーション資料づくりのプロの方に資料
    作成の協力を頂き、社長様、役員の方々から高い評価を得て受注した。
  • 短期でまとめなければならない大手企業の中核事業に対する業務評価と改善提案レポート
    プロジェクトに独立準備中のかつての教え子さんをアシスタントに巻き込んで対応した。
  • 大手企業の子会社の業務評価と改善提案プロジェクトの提案後、長年コラボをしたいと思って
    いた別の専門性を持った独立業務請負人を紹介して実務支援を引き継いだ。


いずれも自分ひとりではやり切れなかった案件だったと思います。

協業パートナーは個人ながら、プロフェッショナル。ミーティングは頻繁に行いますが、マネジメントをする必要はありません。理解度は期待以上で、リスクマネジメントに長け、仕事は速く、クオリティも高く、期限厳守なため、安心して仕事が進められます。

10数年の間に培われた専門性、仕事の受注販路の広がり、プロ同士の協業ネットワーク・・・

ひとつひとつが長年続けて来たからこそ享受できるご利益だと思っています。

さて、次回はいよいよ最終話です。これまでの12話を振り返りながら、フリーエージェントとして働くこととライフワークバランスについてお話したいと思います。

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。
大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表

ノマドジャーナル編集部
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