前回の第7話ではフリーエージェント(高い専門性を持った個人事業主)として独立して長く働き続けるために、独立後3年先にどんな仕事をしていたいかを意識した「パーソナルブランディング」を行った筆者の体験をご紹介しました。

今回は私たちがパーソナルブランディングを行いながら、同時に仕事を獲得するための営業ツールとしてのソーシャルメディアの活用についてお話したいと思います。

独立して仕事の広がりに限界を感じている方や二次受けの業務委託から脱したいと考えている方のネットワーク拡大の参考になればと思います。

プッシュ型営業とプル型営業

仕事の獲得を目的とした営業を2つに分けるとプッシュ型とプル型に分けられます。プッシュ型は広告宣伝(DMや売り込みメール含む)にお金をかけたり、アポ取りをして提案書を持って積極的にソリューションを売り込んだりして仕事を獲得するタイプの営業です。

一方、プル型はこちらから積極的に営業をかけなくても、課題を感じた見込み客の方から問い合わせが来るように日ごろから種まきをして待つタイプの営業のことです。

筆者は、コンサルや業務委託という専門性が求められる職種にはプッシュ型は向いていないと考えていること、またプッシュ型というスタイルそのものが自分の性にも合わないこともあり、これまでブログを活用したプル型営業を中心に独自のネットワークの拡大と仕事の獲得をして来ました。

以下、筆者がその道のプロとして長年書き続けることの出来たブログとはどんなものか、ブログを書く時の工夫や心がけ、ブログのご利益についてご紹介しますので、ご参考にしていただければと思います。

プル型営業としてのブログの活用

筆者は独立して2年目にブログを始め、これまで10年以上に渡ってブログを書きつづけています。ブログを始めたきっかけは、当時、それまでの人脈だけでは仕事の開拓に限界があると感じ、インディペンデントコントラクター(IC)協会のフリーエージェント仲間に会社のホームページ立ち上げの相談をしたことでした。彼女はブログで手軽にホームページが作れることを薦めてくれ、ブログのしくみを使ったホームページの立ち上げを手伝ってくれました。彼女がブロガーであったこともあり、ブログそのものの可能性に興味を持った筆者はホームページとは別に自身でブログを立ち上げました。

参考:筆者が2005年に始めたブログ 「ファッション流通ブログde業界関心事」
 

フリーランスがブログを始めるにあたっての注意点

ブログは毎日書かなくても継続することが大切です。そのため、どうしたら自分の専門性を活かしながら続けることができるブログにするかを第一に考えました。

そして始めたのが、日々新聞や雑誌やネットで報道されるファッション流通業界のニュースで気になったものを選び、要点をまとめ、筆者の感想と報道記者の方には書けない専門家ならではの解説を加えるというシンプルなコンセプトのブログです。

ブログを始めるにあたって気を付けた点は次の通りです。

  • 丁寧な表現や生活者視点を心がける
  • 専門領域を関連させて、評論家ではなく実務家であることをアピールする
  • 業界ニュースを取り上げることで、ブログを書くトリガーを確保する

まず、そのニュースに取り上げられた企業やブランドやショップに興味がある方であればファッション業界の方でなくてもわかるよう丁寧な表現や生活者視点を心がけました。更に過去の実体験や現在の仕事の現場や身の回りで起こっている専門領域(筆者であれば在庫最適化や幹部人財育成)にも関連させ、ただの評論家ではない、現場に精通した実務家であることをアピールするようにしています。

また、業界ニュースを取り上げる理由は、メディアでは日々さまざまなニュースが報道されているため、ブログを書くためのきっかけ(トリガー)に事欠かないからです。また専門性を持った「専門家」「その道のプロ」を名乗るものであれば、業界でなぜそういうことが起こっているのかを記者の方以上にわかりやすくコメントできるはずだと考えました。

業界ニュースブログを始めてわかったこと。メジャー企業や業界関心事を積極的に取り上げる

業界ニュースを話題にしたブログを書いてみてわかったことは、そのニュースの真相を知るためにネット検索する方が非常にたくさんいるということ、また、勤務先の社名をネット検索する方が多いということです。

ニュースが取り上げる話題は、必然的に大手企業、新興注目企業、業界や消費者の関心事になります。ブログでそんなニュースの話題を取り上げていると、関係者ではないかと思われる方々がその検索キーワードでブログにたどり着かれることもわかります。これはブログのSEO対策と読者づくりにつながります。

ブログでは知識、専門性の出し惜しみをしない

ブログの記事で専門性を発揮する時、知識の出し惜しみや寸止めをしないのもポリシーです。読者の方が、自分もそう思っていたという「共感」、よく知っているな~この人、よくここまで調べたな、という「感心」、今度朝礼や取引先との世間話、読者自身のブログなどに使いたいという好意的な「引用」がされるくらいでないと本当のインパクトはないと思います。

以前、別のコンサルの方から「ちょっと書きすぎじゃないの?」とコンサルの飯のタネまで明かすようだと指摘されたこともありますが、そのくらいでなければ多くの方が忙しい時間を割いてブログを読んではくれないでしょう。

読者が筆者のための営業マンになる時

ブログはフリーエージェント(個人事業主)にとって、大企業並みの発信力を持った強力な武器です。なおかつ世界中に向けて24時間働き続ける営業マンといえます。これ以上コストパフォーマンスの高い営業ツールはなく、ローコストオペレーションであるフリーエージェントの我々が使わない手はありません。
そして、更にブログを書いているものにとって冥利に尽きることは、時として読者の方々が筆者のために実質的な営業マンになってくれることです。

ブログの内容に共感して下さった読者の方々が会いに来られ、新しいネットワークとなる、一緒に仕事をしないかという申し出や、知人の会社(潜在クライアント)の紹介等、これまで仕事につながることが数え切れないくらいあります。

また見込み客の紹介の際に、知人が「これを書いている人です」と紹介前にブログのURLを先方にメールしてくれる、そうすると実際お会いした時の話がスムーズになることは言うまでもありません。

更に、時折ネット検索をしてみると、お会いもしたことがないブログ読者の方々が好意的に筆者のブログ記事の内容を引用し、第三者に拡散してくれていることもあります。

ブログの更新頻度とSNSとの連携

2010年以降 ツイッターやフェイスブックの普及によりブログへのアクセス数はそれ以前と比べると減りました。しかし、専門性を丁寧に伝えることができること、それを通じてパーソナルブランディングがしやすいこと、更に検索エンジン対策の観点からも、ソーシャルメディアの中ではやはりブログが秀でています。筆者はツイッターやフェイスブックも併用していますが、あくまでもブログへの誘導目的と考え、ブログとその他の主従関係を明確にしてブログの価値向上に努めています。

とは言え仕事の成約には「出会い」と「ご縁」が必須

しかし、どんなに読者から信頼のあるブログになっても、実際それだけでは直接仕事にはつながらないものです。 成約には実際の「出会い」と「ご縁」が必要だと実感しています。実際、全くお会いしたことのない、ブログ読者の方からブログを読んだという理由だけで仕事の依頼を受けたことは一度もありません。

筆者が言う「出会い」「ご縁」とは例えば以下のようなケースです。

  • ブログで筆者が講師を務める大手IT企業主催のビジネスセミナーの告知を行ったところ、ブログ読者であった若手経営者の方が参加し、筆者の専門分野に関する具体的な内容を確認した上で仕事の依頼につながった。
  • 筆者の仕事ぶりをよく知る知人が紹介してくれた相手先幹部の方がたまたまブログ読者だったため、ご紹介後トントン拍子で仕事の依頼につながった。
  • ブログが出版のきっかけになり、その書籍を読まれた経営者の方から連絡があり面談が実現。その後、経営者自身が親しくされている方に筆者と会ったことを話されたところ、その方が偶然ブログ読者で、好意的なコメントをもらったことが経営者の確信になり、仕事の依頼につながった。

メディアの取材や記事の執筆などスポットの依頼はともかく、やはりクライアント企業さんとしばらく一緒にお仕事をする案件では、「出会い」や「ご縁」が重なって成約につながるものだということを実感しています。

ソーシャルメディアを活用してパーソナルブランディングのための発信を始めよう

筆者がこれまでフリーエージェント生活を続けることができたのはブログによるご利益のおかげと言っても過言ではありません。これから始めようとする方や少しやってみて上手く続かなかった方にとっては、ブログの内容に対する反応が不安でしょうし、どうすれば継続できるか自信がないと思われる方も少なくないと思います。しかし、筆者の体験から、独立して、先行きに行き詰まった時こそ、新しいことを始める、今までと違った形で始める、自分の気持ちをオープンにすることで、共感する方とのネットワークが広がり、縁や運が近づいてくるものだとブログを長年続けていてつくづく感じています。

さて次回はフリーエージェントが専門性を深め、専門領域の幅を広げるための筆者の日ごろの情報収集と整理術についてお話しします。

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表

ノマドジャーナル編集部
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