これまで12回に渡って筆者の事例を中心に、まわりの仲間にも共通する「雇われない、雇わない、フリーエージェントの働きかた」をご紹介してきました。
連載の最終話となる今回は、フリーエージェントのワークライフバランスのお話をして結びとさせていただきたいと思います。

フリーエージェントにとってのワークライフバランスとは、勤務時間はしっかり働き、休む時は休むというように仕事と生活にメリハリをつけるという話ではなく、その境目は「自分で決める」ということを意味します。
ワークライフバランスには短期的な日ごろの仕事のしかたと、長期的な人生設計がありますが、まずは日ごろのワークスタイルについてお話ししましょう。

結果にコミットしながら働く時間は自己管理する

短期的なワークライフバランスとは、日々の働く時間を誰が決めるのかという話です。
会社員であれば、会社の規定で出勤日や就業時間が決まっており、多少の残業はあっても、基本的には誰もが会社で決められた時間の中で成果を出すことが求められます。
仕事がなくても定時出社をしなければなりませんし、プライベートな用事でイレギュラーな勤務時間になるのであれば、上司への申請や許可が必要です。

一方、私たちフリーエージェントは、業務を委託して下さったクライアント企業さんとアポイントベースで打ち合わせをしながら、期待される成果を納期通りにアウトプットすることになりますが、そのプロセスを問われたり、細かく管理をされたりすることはありません。
すなわち多くの正社員のように平日定時などと働く時間を拘束されているのではなく、平日・週末や昼夜時間帯を問わず、いつ働くか?どれだけ働くか?を自分で決め、仕事の依頼主に対しては結果だけをコミットすることが求められているのです。

そのため、打ち合わせやプレゼンなどのアポイントがない時は、午前中は仕事とは全く関係のないプライベートな用を足し、午後から働き始めたり、逆に午後早い時間に切り上げて会食やプライベートなイベントへ出向いたりすることもあります。また、平日休んだりすることもあれば、逆に複数のプロジェクトが重なる多忙な時期は、それぞれ納得のゆく成果を出すために、自らの判断で週末も働いたり、時には徹夜をしたりすることもあります。徹夜が予想される仕事の後はあえてアポイントを入れずに、十分な睡眠時間を取るようなことも調整可能です。

1週間の労働時間と内訳は?(=拘束時間と自己管理時間の割合)

筆者が実際に1週間のうちどれくらい働いているのかを計算してみたところ、次のような結果になりました。


労働時間からすると、一般的な正社員の法定労働時間である週40時間に対して1.5倍も働いていることになります。

ただ、クライアント企業の都合に合わせている、いわば拘束時間は正社員の方々の半分。それに対して、残りの大多数の時間は誰からも干渉を受けず、働く時間帯や場所を自分自身で任意に決めて取り組むことができるため、自由度が高いのが特徴です。

自分が最も集中できる場所や時間を選び、誰にも邪魔をされずに集中的に仕事ができること。
その場所は自分の個人事務所であったり、自宅の書斎であったり、近隣のカフェであったり、朝晩の移動中の電車の中であったり・・・その間は誰かに拘束されているわけでもなく、仕事を遮られることもなく、周りの目を気にする必要もありません。その間、効率を上げるために休憩を取ってリフレッシュすることや、一旦プライベートな用を足して、その後、集中力を高めて仕事に取り組むことも自由です。

周りには、逆に働く日数を制限して集中的に仕事をしている方もいらっしゃいます。あるITコンサルであるフリーエージェントの先輩は地方に暮らし、長年週休3日制を貫いています。彼は、火曜日から金曜日は朝から晩まで、時には深夜までしっかり働きますが、土曜日・日曜日・月曜日は家族と過ごす時間と定めて、働かないと決めているのです。

このように期限と結果をコミットし、いつどこでどれだけ時間をかけて仕事に取り組むかを「自分で決める」働きかたは、自分なりの完成度にこだわって専門の仕事を極めたい人にとっては理想的な働きかたのひとつです。
とても自由で、素敵に聞こえるかもしれませんが、一方で、仕事と時間のマネジメントに関しては自己管理能力が必要です。半年先の収入が保証されているわけではない私たちにとっては、自由と自律は表裏の関係であることも忘れてはなりません。

長期的な仕事人生設計=何歳まで働くか?も自分で決める

続いては、人生設計に関わる長期的なワークライフバランスについてです。
学校を卒業して新卒採用で就職し、1つの会社あるいは転職を経て60歳まで勤め上げて定年退職するという働きかたは、言ってしまえば自分の意思にかかわらず社会制度や勤務先のルールに従った仕事人生になります。
独立してフリーエージェントとして働くことは、その枠組みに囚われないため、定年制度もありません。何歳まで働くかも「自分で決める」働きかたなのです。

あるインディペンデント・コントラクター(独立業務請負人)の仲間は、60歳になったら現職はリタイヤし、その後は投資活動によって生計を立てようと準備をしています。また別の仲間は、65歳時点でその後悠々自適に暮らせるだけの蓄えが貯まるように蓄財をしつつ、その後も体力が続くまで働き続けようと考えています。
筆者の場合は、55歳をセミリタイヤのマイルストーンに設定し、2年ほど再学習期間を含め視野を広げる活動をしながら、その後の働きかたを決めようと考えています。

実際には高い独立のハードル

コラム第2話で仕事人生の成長期から成熟期にさしかかる40歳が独立の適齢期である話をしました。しかしながら、それまでに独立の最低条件である、どこに行っても通用する実力をつけていたとしても、本人の踏ん切りだけでなく、家庭環境によって独立のハードルが高いのもわかっています。

実際、独立した仲間を見渡してみると、独身の方、子供がいない共働きでどちらかの収入が減っても生活水準を落とさずに生活できる方、パートナーの収入が高く、日ごろの生活費も子供の教育費も十分賄える方は比較的独立のハードルは低いものです。 
しかし、既婚でなおかつ住宅ローンも子供の教育費も自身の収入で支えなければならない方には収入が不安定になる独立は、自身の踏ん切りだけではなく、家族の反対という極めて高いハードルがあるものです。
ひとりの仲間は、上場企業勤務ながら、多くの企業で求められる国家資格を持っていたことと、勤務先が最初のクライアント先になってくれそうなメドがたっていたため、奥様には反対されましたが、奥様のお父さんが味方になって応援してくれたことによって独立を果しました。

筆者の場合、独立を決心した当時にも家族はいましたが、二人の子供を持つシングルファーザーという立場でした。最も反対するであろう配偶者がいなかったため、自分ひとりで決心したものです。子供たちは以前よりも一緒にいることが多くなったため、喜ぶことはあっても、不満を言うことはありませんでした。

住宅ローンは残った状態での収入減の覚悟はありましたが、むしろ子育てが大変になる時期だったので、仕事と子育てが両立できたことは安心材料でした。朝は子供を見送り、お迎えは地元自治体のサポートを活用する。平日に行われる子供たちの学校行事日程に配慮しながら、それ以外の時間にアポを入れたり、PCでできる仕事は場所と時間を選ばずに取り組んでいたりしたものです。 昨今、育休などの制度を取り入れる企業も増えて来ましたが、それほど柔軟ではないし、職場には妬む人も少なくないため、周りの目も気になるものです。

生活環境の変化、多様化にも対応した働きかた

また、子育てが終わった後、年齢を重ねていくと、親の介護という問題も発生します。筆者は、9年前に他界した父の介護にも参加しましたし、その後も平日は自治体のサービスをフル活用しながら、近くに住む母の介護と仕事を両立している日々です。

介護と言っても卑屈になることはなく、自治体のサービスは充実していますし、週末に遠くに住む妹に時折来てもらったり、成人になった息子に手伝ってもらいながら、海外出張に出かけたり、年に一度、10日間くらいの休暇をエンジョイしたりもできています。
今のご時世、男女問わずいろいろな境遇や家庭環境があろうかと思います。そんな環境に直面しても、好きな仕事に携わっているプロであれば、自分を犠牲にすることなく、やりがいのある仕事に情熱を燃やし続けていたいはずです。
フリーエージェントとしての働きかたは、さまざまな生き方や環境の変化に際しても柔軟な選択肢を提供してくれる働きかたのひとつだと確信しています。

コラムの終わりに

13回に渡って連載させて頂いた「ビジネスノマドの働きかた」をお読みいただきありがとうございました。
当コラムを通じ、独立志向の方だけでなく、会社に勤めていても、自らのキャリアを考えるプロフェッショナルな働きかたをしたい方には参考になる内容になるよう努めたつもりです。
経済的、物質的には申し分なく豊かになった日本で、次に私たちが享受すべき豊かさのひとつが働きかたの多様性や選択肢ではないかと思っています。

なお、当コラムでご紹介した話は筆者および仲間の事例を中心としたほんの一例に過ぎませんが、少しでも多くの方にビジネスノマドの働きかたや考え方を知って頂き、そんな働きかたに共感して独立される方、そんな個人を活用する企業の輪がますます広まって行けばと幸いです。

筆者が理事長を務める「NPO法人インディペンデントコントラクター(IC)協会」ではフリーエージェントの「雇われない、雇わない働きかた」を応援しています。そんな働きかたにご興味のある方は是非ホームページをご覧いただき、コンタクトを頂ければ幸いです。
https://www.npo-ic.org/

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。
大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表

ノマドジャーナル編集部
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