(国籍/業種)米国/自動車メーカー
(キーワード)コネクテッドカー、自動運転、持続可能なエネルギー、オープンソース、エコシステムの継承

前回は、テスラのビジネスモデルの概要についてご説明しましたが、今回はテスラの事業戦略および構想について触れてみることにしましょう。

オープンイノベーション



(オープンイノベーション)

テスラの事業戦略の1つに、オープンイノベーションの推進にあります。

オープンイノベーションは、ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ氏によって提唱された新しいビジネスモデルのパターンとその概念です。

これは、イノベーションを起こすために、社内資源のみに頼るのではなく、サードパーティの組織の積極的な活用を推進していくことを指します。

オープンイノベーションが有効な手段として幅広く認識されるようになった背景には、競争環境の激化、イノベーションの不確実性、R&Dコストの高騰などが挙げられているようです。一方で、自前主義症候群(NIH: Not Invented Here)、つまりクローズドイノベーションに固執している企業も数多く存在しているのも事実です。オープンイノベーションを積極的に推進している企業の1つとして、P&Gによる「コネクト&デベロップ」プログラムが有名です。

オープンイノベーションには、さらに「アウトサイドイン」と「インサイドアウト」の2つのパターンに分類されます。アウトサイドインは、外部のアイディア、技術、知的財産を自社のプロダクトやプロセスに持ち込むことを意味します。インサイドアウトは、自社の技術や知的財産を外部にライセンス供与したり、売却したりすることを意味します。

テスラの場合、この2つのパターンの双方を積極的に取り入れています。前回ご説明しましたが、テスラは中核となる自動車のアセンブリは自社を中心に行っていますが、150以上の世界中のサプライヤーやパートナーから多くの新しい技術(光学電子ディスプレイ、ナビゲーションシステム、アースマップオーバーレイ、グラフィックプロセッサーなど)を採用しています。

一方で、テスラは特許をもつ独自の技術を秘匿するのではなく、積極的に他社に開放しています。具体的には、EV(電気自動車)の心臓部であるバッテリーパック技術を他の自動車メーカーにライセンス供与しています。これは、現時点ではニッチであるEV市場に対する参入障壁を低くし、市場を拡大させる狙いがあるようです。

テスラがもつこれらの独自技術は、もう1つの巨大な市場、エネルギー分野にも向けられています。次に、イーロン・マスク氏が狙うエネルギー事業に関する次なる構想を見ていくことにしましょう。

テスラのエネルギー事業構想



(3つのエネルギー事業)

イーロン・マスク氏は、「テスラは、自動車メーカーであるだけでなく、エネルギー企業でもある。」と述べています。また、自動車メーカーとして「持続可能な輸送手段の普及」、エネルギー企業として「世界中のエネルギー利用方法を根本的に変えると同時に、エネルギーインフラを完全に変えること」をビジョンに掲げています。エネルギー企業としての3つの大きな事業の柱として、「パワーウォール」、「パワーパック」、「ギガファクトリー」が挙げられます。

1つ目のパワーウォールは、太陽光発電を利用した家庭用蓄電池です。2つ目のパワーパックは、工場、発電所、公共施設向けの蓄電池です。パワーウォールおよびパワーパックとも、停電などの緊急時のバックアップとしても活用できるものです。

最後のギガファクトリーは、ネバダ州に建設中のリチウムイオンバッテリー工場であり、テスラにリチウムイオンバッテリーを提供しているパートナーであるパナソニックとの共同出資による事業です。現時点において、ギガファクトリーは2年後の2017年に稼働し、2020年にはフル生産体制になると言われています。

テスラのビジネスモデルの特徴

2回にわたり、テスラのビジネスモデルについて触れてきました。テスラのビジネスモデルの大きな特徴として、「モノを通じたサービスの提供」、「オープンイノベーションの推進」、「コア技術を通じた他市場への展開」が挙げられると思います。

自動運転システム「オートパイロット」の本格展開、量販モデルである「モデルS」の市場投入、リチウムイオンバッテリー工場「ギガファクトリー」の建設と、大きな事業が目白押しです。イーロン・マスク氏は、テスラだけでなく、宇宙船開発のスペースX のCEOも兼任し、太陽光発電システムのソーラーシティの会長として経営に参画しています。

イーロン・マスク氏の巨大な構想が大成功を収めるかどうかは現時点では分かりませんが、多くのメーカーが将来のビジネスモデルを検討していく上での良きサンプルとなるでしょう。

専門家:白井和康
ビジネスイノベーションハブ株式会社
/代表取締役 兼 株式会社サーキュレーション/主任研究員。IT業界において20年以上にわたり、営業、事業企画、マーケティング、コンサルティングと幅広い役割に従事。2013年1月から2014年5月まで、ビズジェネ(翔泳社)に「イノベーションを可視/加速化するビジネスアーキテクチャー集中講義」というタイトルで、長期連載を寄稿。2014年9月、「ビジネスモデルフェスティバル2014」の講師を担当。2014年11月にビジネスイノベーションハブ株式会社を設立、代表取締役に就任。

ノマドジャーナル編集部
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