2015年に話題となった、グーグルで人事担当責任者を務めるラズロ・ボック氏が書いた「WORK RULES!」。世界で最も働きがいのある会社といわれるグーグルの人事や文化についての考え方がわかりやすく記載されています。本書を読んで、「未来の働き方」について考察する機会になった方も多いのではないでしょうか?
筆者は、グーグルの人事制度やその膨大な事例を掲載したWORK RULES!を読んでいた時、数カ月前の途上国旅行の経験をふと思い出します。そこから見えてきた本書のテーマにも通じる「大切なもの」とは一体なんだったのでしょうか?
警戒と交渉と。海外旅行の疲れ
途上国を旅行した経験者は次のようなことを感じたことがあるかもしれません。
途上国では、「誰も信頼するな」と誰もが言うような所があります。そこでは、とにかく注意をしていないと、自分が損をします。タクシーに乗るにも交渉をして適正な価格にしなくてはならないし、何かを買うとき商人が言っていることが本当かどうかを見極めなくてはいけ
ません。ある意味途上国旅行の醍醐味でもありますが、そこには常に一定の緊張感と警戒があります。
交渉を有利にするために、あえて非友好的な態度と友好的な態度を入れ替えてみたりするのは、楽しく刺激的かもしれませんが、気付けば旅行の多くの時間がそのようなことを考えるのに使われていることもあります。「今度またあの人がふっかけてきたら、返り討ちにしてやろう」こんなことを思うようになり、いつしか誰も信頼することがなくなっています。そのように、「交渉」や「政治活動」は、自分の思考を奪い、いつしか「疲れ」が出てきます。
いかに「政治活動」を排除するか。信頼のある環境とは
グーグルは、「政治活動」を排除し、「信頼」しあえる環境をつくりあげようとしていると著者は言います。著者は、「政治活動」は社内で権力闘争することに注力してしまい、重要な業務に支障をきたすから悪であると述べています。私は、それに加えて、そのよう
な行為は「幸福」を減らすと上記の旅行から思いました。旅行の目的はたくさんあったのに、いつしか狭隘な目的に自分の時間と体力を使っていました。
では、グーグルはどのようにして「政治活動」がなく、自由でフラットな環境を作っているのでしょうか。もちろん、これらの制度は真摯な検証と評価を経て制度化されています。キーワードは、「公正」「透明性」「権力委譲」です。
キーワードは、公正、透明性、権力委譲
「公正」、「透明性」、「権力委譲」、と叫ぶだけでは当然組織は変わりません。これらの目的を達成するための手段があるはずです。グーグルはどのような手段を講じたのでしょうか。
「公正」に関して、これは社員の評価や調査方法だけでなく些細(と思われるよう)な物事に対しても徹底されているようです。次のエピソードが僕は面白かったです。
ある日、無料のカフェテリアに「フリー・チベット・ゴジチョコレート・クリームパイのチョコレート・マカダミア・ココナッツ・デーツ・クラスト添え」といったメニューが登場。これ(「フリー・チベット」という記載)に対して、賛同的な意見があるなか、いくつかのグ
ループは「ある価値観に加担するのは公正なのか」と問題を提起したそうです。たかがデザートのメニューですが、公正こだわるグーグルでは数百通のスレッドによる議論に発展したようです。激しい議論は結論に残念ながら達することはなかったようですが、グーグルの文化を表すひとつのエピソードだと思います。
「透明性」に関して、グーグルは社員に多くの情報を公開しています。例えば、新人エンジニアでさえも、自分が担当している製品だけでなく、ほぼ全ての製品、新規事業などのコードベースにアクセスすることができるようです。また、誰かに関する悪意のあるメー
ルを送信した際、その当人がスレッドに加えられるのです。そうすることで、「政治活動」や「裏切り」を排除し、「言った覚えはない」や「そのような意味で言ったわけではない」といった言い訳が通用しないようにしているのだそうです。
「権力委譲」は権力を持っている側からすれば不満の出る作業だと思います。グーグルでは、役員に特別な福利厚生を用意せず、マネージャーは独断では社員の採用や昇給・昇進をできない仕組みがあるそうです。またグーグルでは肩書を自分で選べるようになっており、必ずしも肩書とリーダーシップは一致しない。そして、このような制度を作ってきたのは、「マネージャーの鶴の一声」ではなく、公正な検証とそれに基づいたデータです。グーグルの基本方針は「政治活動をするな。データを使え」であるそうです。このような仕組みなしでは、マネージャーは当然権力を持ち続け、「フラットな環境を作ろう」と言っても、実現するはずがないですよね。
「公正」、「透明性」、「権力委譲」の代償
「公正」、「透明性」、「権力委譲」。とても響きがいい言葉ですが、リスク無しに語ることはできないのも事実だと思います。
グーグルでもある仕様書が社外に漏洩することがあったそうです。漏洩した者は特定され、漏洩が偶然であっても必ず解雇される。しかし、当時のエリック・シュミットは、この仕様書が世間に知られる前に、社員全員に公開しました。漏洩があっても、社員を信じ続けたのです。「私達全員が機密情報を守ると信じていています」、彼は高らかに宣言しました。
グーグルでは、人を信じることが前提に、9割のことはそれでうまくいく
まず、信頼を基礎にできあがった組織や職場環境はそのメンバーの幸福に影響があるだけでなく、「重要なこと」にエネルギーを注ぐことができるようになる意味で、有益です。
元ゴールドマン・サックス副社長のキャリー・ローレノは次のように述べたそうです。「グーグルに来てから、まず人を信じることが前提になりました。9割のことはそれでうまくいきます。」このような環境を作るには、「公正」、「透明性」、「権力委譲」という要素が必要だと思います。これらの要素を達成するために、あらゆる実験を行い、それぞれの組織に適応する施策や制度を設計していかなければいけません。また、できあがった制度も、常に再評価され、改善を加えられていく必要があるでしょう。
「当たり前」のことですが、どれだけの精度、正確性でやるかがカギなのではないでしょうか。
横浜国立大学 教育人間科学部所属、株式会社サーキュレーション2016年度新卒1期生。2015年10月よりビジネスノマドジャーナルにジョイン。大学3年時に、米国ジョージア大学に交換留学をしたのをきっかけに、海外や異なる文化に関心を持つ。趣味は、お酒、お笑いと映画鑑賞。
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