2015年に話題となった、グーグルで人事担当責任者を務めるラズロ・ボック氏が書いた「WORK RULES!」。世界で最も働きがいのある会社といわれるグーグルの人事や文化についての考え方がわかりやすく記載されています。

本書を読んで、「未来の働き方」について考察する機会になった方も多いのではないでしょうか?今回は、グーグルの人事制
度や福利制度の背景にある「ナッジ」という考え方について書いてみました。

ナッジとは?行動経済学から出てきた用語

ナッジとは英語で「人をひじで軽く押したりつついたりすること」を意味します。行動経済学と呼ばれる研究分野から出てきた用語で、選択肢をうまく設計したり、初期設定(デフォルト・ポイント)を変えたりすることで、人々に特定の(望ましい)選択を促すという意味合いがあります。

(出典:http://mba.kobe-u.ac.jp/square/bookreview/fujiwara2013.htm)。

ナッジをもとにした制度とは

グーグルは基本的に、従業員を信頼していて、それをもとに人事制度が設計されている傾向があります(前記事)。しかし、一方で人間の持つ合理性をグーグルは疑っています。

つまり、「人間は必ずしも合理的に行動するとは限らず、自分自身ことをよく理解していると思いがちである。そしてそれが、その人にとって良くないことが多い」そこで、ナッジの考え方を元に、従業員の選択をより望ましいものにしているのです。

本著にある事例としては、カフェテリアの食品の配置があります。グーグルのカフェテリアにはフルーツのように健康的なスナックと、アイスクリームのような少し不健康なスナックがあります。社員の健康のことを考えれば、アイスクリームを廃止すればいいと思うかもしれませんが、選択の自由を謳歌するグーグル従業員にとって、それは許しがたき行為です。そんな時、グーグルではフルーツをよりとりやすいところに、アイスクリームをよりとりにくいところに配置したそうです。これがナッジです。

この実験は当然検証され、フルーツを食べる従業員が多くなったことが確認されました。その後、このような配膳が確立したそうです。

やる気にさせる制度。金銭以外の報酬

成果を出した人に報酬を出すことは一般的に従業員のやる気を上げると言われています。

報酬はしばしば、金銭的なものであることが多いのですが、グーグルはこれについて懐疑的です。グーグルでも、アワード制度を作ったがほぼ全ての従業員に不満を抱かせることになってしまったようです。その原因について、著者は報酬の金額を褒め称えてしまったことだと述べています。並外れた業績を出した人に、並外れた報酬を出すことは当然だが、金額を誇示しすぎたようです。その結果、「夢を見た」社員が予想より低かった報酬に不満を持ち、評価の過程が正当なのか疑念が生じてしまいました。

そこで、報酬の内容を金銭的なものから、経験的なものや品物に変えたそうです。金銭的なものを受け取ると、その価値を計算することに意識が向いてしまい、忘れられてしまうからというロジックです。実際、この考察は学術的な研究から得られたものだそうです。

(出典:http://www.bbc.com/future/story/20120509-is-it-all-about-the-money

皆が望むのは、現金。では、受け取って満足度が高いものは?

大変興味深いグーグルの調査があります、報酬として望むものは「現金」が多いにもかかわらず、実際受け取っての満足度が高いのは現金ではない、という結果です。

例えば、報酬の候補者に対して、受け取る予定だった金銭もしくは、金額に相当する旅行や品物を渡すということを比較すると、これはグーグル社員も現金を望む傾向が多かったようです。

しかし、実際には従業員は現金を望む傾向はあるのにも関わらず、経験的なものや品物の報酬をもらったほうが、より長く満足度が続くということがグーグルの調査の結果わかったそうです。

これもナッジの一つの例なのかもしれません。案外、自分のことを自分は理解していないのかもしれません。外的な動機付けではなく、内的な動機付けをしていくことが重要なのだと著者は述べています。

ナッジの有効活用。幸福度が最大になる報酬とは

従業員を信頼しつつも、人は自分のことをよくわかっていないという原則に則っているナッジ。意思決定に影響を受けると考えると、恐ろしく感じる人もいると思いますが、これは従業員のために行われているのです。

僕も報酬は金銭的なものの方がやる気は出ると考えています。おそらく、仕事に対する意気込みも上がるかもしれません。ただ、生活をトータルで考えた時、経験的な報酬や品物は僕の幸福度を上げることは間違いないかもしれません。大きなプロジェクトを成し遂げた報酬として、頑張ったメンバーとハワイに旅行に行くという幸福感は金銭では代替できないのかもしれません。

サーキュレーションインターン生:高橋崚真(タカハシ リョウマ)

横浜国立大学 教育人間科学部所属、株式会社サーキュレーション2016年度新卒1期生。2015年10月よりビジネスノマドジャーナルにジョイン。大学3年時に、米国ジョージア大学に交換留学をしたのをきっかけに、海外や異なる文化に関心を持つ。趣味は、お酒、お笑いと映画鑑賞。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。