2016年年初に実施された、サーキュレーション、三幸エステート共催の新春セミナー「2016年の経済予測」は大盛況のうちに幕を閉じました。

今回は、その中でも元エン・ジャパン経営企画室長で今は独立してビジネスノマドとして多くの企業のアドバイザーとして動かれている竹居氏による「2016年の人材マーケット予測」についての講演の内容を掲載します。

人材市場の変動について

まず、人材マーケットには原油相場や株式市場のような日々の変動はありません。しかし、確実に景気の変動の影響を受けます。景気が悪化すると、企業にとっては良い人材を採用できる上、社内の良い人材が抜けていくリスクが下がります。逆に、景気がいいと、人材マーケットの競争は激しくなります。

年初から株式市場をはじめとする大きな景気変動がみられた2016年は、どのような人材マーケットが予想されるのでしょうか?

人材マーケットのパラダイムシフト

直近の短期的な景気の変動の影響の他にも、中長期的にみても人材マーケットは大きなパラダイムシフトを迎えています。

まず、ここ25年間の人材マーケットに関するデータをみてみましょう。大きく上がっているトレンドと下がっているトレンドが見て取れます。

大きく下がっているトレンドをみていくと、今後さらに下がる見込みなのが、15-64歳の生産年齢人口です。特に転職経験が少なく企業が欲しがる25歳–34歳の若手が減ります。正規雇用者の数はずっとダウントレンドでしたが、今はパートや契約社員を正社員にして人材を安定確保する動きも広がっています。

一方で、女性就業率、シニアのプロフェッショナル層、外国人労働者、非正規労働者の数は、急激に伸びていきます。

これら長期的なトレンドとして観察されている現象は、今後も続くでしょう。今後の人材マーケット重要なトピックとして、次の4つを見てまいりましょう。

  • 売り手市場による採用難
  • 女性と高齢者の活用
  • グローバル化
  • ロボット、AI技術の台頭


これらの4つについてそれぞれ述べていきます。

売り手市場による採用難

有効求人倍率、大卒の有効求人倍率、転職内定社数はアベノミクスによる好景気のおかけで上昇しました。これは、求職者にとっては良い事ですが、人材担当者にとっては採用が難しくなるので、必ずしも良いことではありません。また、分野によっては、さらに採用が難しくなっていくでしょう。

たとえば、エンジニア人材などは現時点でも採用が非常に困難になっています。人材紹介会社は、採用が決定した際の年収の25%くらいを成功報酬として、企業から受け取っていますが、エンジニアなどの人材の場合は内定者の年収の100%を報酬として受け取っていることもあるほどです。

ポイントは売り手市場では採用がより難しくなるということ。そのため、より精緻な採用戦略が求められます。

女性と高齢者の活用

昨年女性活躍推進法が成立し、更に女性が活躍する社会へ向けて国のバックアップも動き出しました。(厚生労働省

私の感触ですが、昔から中小企業は大企業に比べて女性が活躍していましたが、経営幹部や重要な役割を担ってくることは少なかったと思います。この法律は強制力がないため、まだまだ改善は必要であるものの、女性管理職増加のトレンドは今後強力に進むと思います。

余談ですが、最近は女性と男性の役割自体も変わってきているような気がします。たとえば、小学校の応援団ってありますよね?最近では、応援団における女子の割合が非常に高くなっており、応援団長を務めるのは女子の方が多い印象をうけます。また、大学生のサークル等でもリーダー役を担う女性が非常に多くなってきているように感じます。会社では仮に役職が与えられていなくても、リーダーシップを発揮する女性が実感値として多くなっています。今後の人材マーケットでもリーダーシップをとる女性がどんどん増えていくのではないかと思っています。女性の活躍・活用というのは自然で不可逆的流れですね。

また、昨今では専門的な知見を持ったシニア層を活用する動きも活発ですよね。高齢者(65−69歳)の労働率は40%超に達しました。

昨年ホンダが定年を65歳まで延長する方針を打ち出しています。(東洋経済オンライン「ホンダが定年延長でシニアを戦力化した理由」

今までも、定年後に「働く」選択肢はありましたが、たいていは給与が半減するなど大きく下がり、重要な役職は与えられず、活躍の機会が限定されていました。ホンダの定年延長では、60歳を超えても給与が大きく下がることはなく、経験や知見を生かしてこれまで通り重要な役割を担ってもらおうというものです。

ただ、この動きは片側だけを見るわけにはいきません。定年延長で負担が増す人件費はどこから充当するのでしょうか。企業としては、シニア層への給与増加分を確保するため、出張手当のような細かな経費の削減をしたり、若手と中堅に対しては成果連動型の評価体系を導入するなど年功的な報酬体系を変更して固定費を抑制することになります。シニア活用についてはこのような若い世代の給与形態、両者間の配分などもふまえて総合的に考えていかなくてはいけないということです。

現在、人材は売り手市場ですので、採用が難しくなっています。さらに、生産年齢人口の低下などの長期的なトレンドも組み合わさり、このような女性やシニア層の活用はより増加していくことでしょう。

グローバル化

グローバル化という言葉自体は、随分前から使われていますが、これまで本質的な意味で人材がグローバル化してきたかというと疑問が残るところでした。今後の人材マーケットでは、掛け声だけでなく、より本格的にグローバル化が進んで行くでしょう。今日はこの動きを「人の移動」、「制度の変更」、「企業の海外進出」という側面で考えていきたいと思います。

・「人の移動」

まず、日本で働く外国人の労働者が増えているという長期的なトレンドがあり、国内にいても外国人と仕事をする機会が増えています。加えて外国人が日本企業の重要なポストを担うケースが増えています。

トヨタでは歴代初の外国人副社長が現れましたが、それはほんの一例です。

日本リアルタイム「トヨタ初の外国人副社長ルロワ氏、言葉は心配無用」

・「制度の変更」

このような人の移動が増えるということは、制度もそれにあわせて変更していかなくてはいけません。デンソーがグローバル共通の人事制度を設計したことは記憶に新しいでしょう。(デンソー「デンソー、全世界でのリーダー育成・登用加速を狙い グローバル共通人事制度を導入」

このような取り組みは日立などにも広がっており、まだまだ主流とはいえませんが、今後必ず増えていく変化といえるでしょう。

グローバルで統一された制度が求められているのは、海外現地法人に勤務する従業員のモチベーション改善が目的でもあります。

今までは、海外現地法人に勤務する従業員と日本から出向する従業員の待遇やキャリアパスに隔たりがありました。同じ仕事をしても、海外現地法人の従業員の給与は日本人と比べ低く抑えられ、昇進などのキャリアパスにも「ガラスの天井」がありました。これでは、現地社員のモチベーションにも影響してしまいます。この状況を改善し、世界中から優秀な人材を登用するために、グローバルで統一した評価基準や制度を設計していくという流れになってきています。

・「企業の海外進出」

最後に企業の海外進出です。2015年の日本企業による海外企業のM&Aは10兆円を超え過去最高となりました。

特に内需系企業の海外M&Aが話題になったと思います。日本郵政グループのオーストラリア進出(The Huffington Post「日本郵政、オーストラリア物流大手を買収 「世界5位に食い込む」」)を筆頭にJT(産経ニュース「JT イランたばこ5位を買収 国内縮小で海外事業強化」)や保険・損保業界(日経ビジネスオンライン「大型買収合戦繰り広げる損保大手 本当の不安の種はどこにあるのか」)といった内需系の企業のM&Aが目立ちました。人口が減って国内市場が縮小していく以上、当然の動きです。

またTPPもこの動きに拍車をかけると思います。今までは、海外進出というとメーカーなどの限られた業界だけだった印象がありますが、今後は内需系の企業もどんどん海外に進出していくことになるでしょう。

海外M&Aや海外進出などにより、更に多くの日本人が海外で働き、国内にいても海外に関わる仕事をする人が増えていくはずです。

ロボット、AI技術の台頭

2015年はソフトバンクのペッパーが話題になりましたが、今後ロボットやAI技術がどれだけ進歩するか注目していかなくてはいけません。「ロボットやAIが人の仕事を奪う」、これは最近は特によく聞く話です。ただし、「奪われる仕事」のイメージは、単純労働者を想像している方が多いと思います。

野村総合研究所の調べでは非常にショッキングな結果が示されています、それは、日本では20年後までに49%の仕事がロボットやAI技術に代替されてしまう、というものです。(野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」

その中には、会計士や税理士といった士業も含まれており、単純労働者のみならず多くの職種でロボットに代替されてしまうことを示しています。

この背景には、ロボットを活用して人件費を下げたいというコスト削減ニーズだけでなく、労働人口減少などによる採用難も影響しています。採用は今後さらに難しくなっていく時代ですから、人を採用できるのを待つより文句を言わないロボットをさっさと導入する方が合理的だというふうに考えるようになるかもしれません。

大切なのは、このような技術の流れに対抗するのではなく、代替された人達がどこにいくのかを考えることだと思います。

ロボット技術導入によって仕事を失った人たちを政府が養うわけにはいきません。

人間の仕事のステージを一段高められるかという戦いでもあります。

日本は一人あたりのGDPが低いといわれています。それは、効率の悪い仕事をしている人が多いということでもあります。ロボットやAIを活用しながら人の仕事の生産性を高めつつ、それぞれの会社において人が何を担っていくべきか、人材の活用法なども今後議論していかなくてはいけないでしょう。

今後の人材マーケットのトレンドについてお話しいただきました。後編では2016年の人材マーケットについて掲載します。

記事作成/サーキュレーションインターン生 高橋崚真(タカハシ リョウマ)
撮影/加藤 静

専門家:竹居淳一(株式会社SUSUME代表取締役
) 


1994年一橋大学社会学部卒業後、新日本製鐵㈱(現新日鉄住金)に入社
1998年デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に転職。戦略コンサルタントとして大手企業やベンチャー企業向けの戦略立案、市場調査、経営管理、業務改善などのコンサルティングに携わる
2001年映像ITベンチャー「㈱キャドセンター」に転職。経営企画室長として経営戦略、新規事業立上げ、上場準備、資金調達、業務改善など多岐に亘る業務をマネジメントし、会社の成長期を支える
2004年人材サービスのエン・ジャパン㈱に転職。経営企画室長として、多数のM&A、新規事業立上げ、子会社管理、経営計画、IR、業務改善などを推進。
2011年から中国上海の人材紹介会社でCOO更にCEOとして事業を拡大
2015年に帰国後、株式会社SUSUMEを設立。
これまでのビジネス経験と人材紹介コンサルタントの経験をもとに、経営コンサルティング、ビジネストレーニング、キャリアコーチなどを行っている
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japan キャリアカウンセラー
中国政府公認中国語試験HSK6級
キャリアブログ連載中:http://susume.co.jp/blog/

ノマドジャーナル編集部
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