副島雄一氏は、スマートフォンゲームのアプリ開発会社、キャラクタービジネスの会社など、7社で取締役を務める。

「マーケティング」「開発」といった一本路線ではなく、経営企画、事業戦略、イラスト制作、国内外での拠点開発新事業立ち上げなど、副島氏は、2つだけでなく、かなり様々な職種のスキルを統合することで独自の強みや方法論を形成している。そのような新しい働き方を実践する副島氏が実際にどのように仕事をしてきたかを具体的な事例として伺いました。

株式会社DLE デジタルコンテンツ部〜

 

外部の協力会社から事業部の立ち上げスタッフへ

Q:「鷹の爪団」で有名な株式会社DLEでの実績についてお伺いしたいと思います。

副島雄一さん(以下副島):

株式会社DLEがマザーズに上場したあと、社内に自社内でゲームアプリの開発やディレクション体制をつくりたいという要望が起きたものの、開発のノウハウがない。そこで、これまで外部で協力会社としてDLEとよくコラボタイトルの開発をしていた私に声がかかり、SP(セールスマーケティング)部の宮崎部長とデジタルコンテンツ部を立ち上げました。

もっとも難しかったのがエンジニアの採用です。DLEと言えばアニメーション制作やキャラクタービジネスのイメージが強いせいか、エンジニアの応募がほとんどありませんでした。結局、元同僚を引っ張って来て補強することに(笑)

自社/他社IPでのスマートフォンアプリやwebプラットフォームでのゲーム開発、LINEスタンプで「パンパカパンツ」が6カ国で売上ランキング1位を取るなどし、立ち上げ初年度の売上目標を無事達成しました。

Q:無事に当初の目標を達成されたんですね。その後はどういった案件に関与されましたか?

副島:

結果が出てくると、DLE社内で様々な相談がくるようになりました。例えば、今度TVアニメをつくるから制作員会組成のタイミングからアプリ開発を検討したい。その場合には、アプリを収入源と見るのか、あくまでアニメのプロモーションになるのかなどケースに合わせて相談していきます。

私の場合、PJや職種、特定の何かをすることを目的とした契約はせず、組織や事業部を作り出す/伸ばすために必要なことを全部やる立場で入ります。。
「予算をくれたら組織を伸ばします」ではなく、「こうするためこれだけ予算が必要です」と言うのをゼロベースで考えます。

先ほど話した採用でも、媒体で採用出来ないなら予算を増やして〜ではなく、知人を直接採用したり、場合によってはイベントなどで見かけて良いなと思った人に直接アタックし口説いたりするなど、手段を選ばず解決を目指します。

DLEのケースでは私の部下や元同僚を集め、DLEと私が一緒に出資する形で開発子会社を立ち上げました。自分の身近に会社を作りたいという声があったこと、彼らがDLEの求める人物・スキルセットと相性が良かったこと、DLEという上場企業からの資本注入によって安定した案件を獲得メリットがあることなど、双方にメリットがあると判断しこの形をとりました。また、開発力を手に入れることが目的なので、手段としては必ずしも社員として採用するだけが手段ではないと考えたためです。

自分がいなくても事業が回るようにするところまでが立ち上げ

Q:同社では実際どの程度働かれたのでしょうか?

副島:

こうして様々な手立てでDLEデジタルコン部の事業推進を行っていますが、同どう事業部の契約における稼働時間としては出社は週1〜2回、月間の稼働時間は30時間、繁忙期でも40時間程度でしょうか。

私の場合、自分がいなくても事業が回るようにするところまでが立ち上げで、フルコミットのメンバーを増やし少しずつ自分の作業を渡していきます。

結果、私がいなくても事業が周り、利益目標を達成するようになることで初めて「事業が立ち上げに成功した」と言えると考えています。

Q:デジタルコンテンツ部の後に、「東京ガールズコレクション」など、別のプロジェクトに関われています。

副島:

デジタルコンテンツ部が立ち上がり少し手が離れつつあるタイミングで、新たに社長室付けのプロデューサーとして始まったのが「東京ガールズコレクション」と「e-Sports」のプロジェクトです。

トーキョーガールズコレクションの商標をDLEが買収し、 100%子会社として株式会社トーキョーガールズコレクションを設立(以下、TGC)。私は親会社のDLE社長室のスタッフとしてサポートに参加。9月末に買収後初の大型イベントに成功し、今後様々な仕掛けを行なっていく予定です。私はファッションセンスが皆無で華もないので、デジタル面中心でイベントには基本関わりません(笑)

Q: E-sportsとはどういったものでしょうか?

副島:

E-sportsとは、コンピューターゲームで行なわれる競技(プロスポーツ)のことです。海外ではサッカーやバスケットボールなどのプロスポーツと同様、スポンサー企業のついたe-sportsプレイヤーたちが戦い、それを観戦するカルチャーが根付いています。

TOHOシネマズさんと協業体制をとり、映画館でゲーム大会を開く、e-sportsを視聴する事業を模索しています。大げさな事を言わせていただけるなら、2020年にオリンピックとあわせてデジタルスポーツの祭典を開きたいなと。

社内的な事業相乗効果も考えています。例えば、TGCがイベントを行う際には代々木体育館など大きな箱で、パリコレなどを手がけるデザイナーや照明、演出家が設備設計に参加します。TGCの翌日に会場設備や様々な資材、人員を流用するしてe-sportsのイベントを行う事もあり得ると考えています。一流の演出や設計を安価に使わせてもらいたいな・・・と(笑)

ラグビーも日本が勝利することで一挙に盛りあがりましたが、e-sportsも様々なゲームタイトル、団体が台頭してきており、数年のスパンで大きく盛り上がるきっかけを作りたいと考えています。

Q:事業、ビジネスメイキングにはどういうスキルが必要なのなんでしょうか?

副島:

単純に「営業力!」ということではなく、どうしたら目標を達成できるか、という問題を手持ちのコマで成立させるパズルに近いなと思います。

売上・利益を継続的に、一定の確度で持ってきつつ、情報と人の流れを握っておく。
気になったジャンルの門はとにかく叩いて開けてみる。気になったらとにかく会ったり接点を作って、インプットしておく。そこでは見返りを求めない。それを積み重ねていくと、ふっとした時にビジネスにつながっていきます。

また、例えば採用で、「デザイン部のマネージャーで良い人がいたが、採用予定ポジンションとはスキルがマッチしないのでA社では不採用になった」ということが起こります。でもここで経営・ビジネスメイキングの土壌があると、「この人はここにはマッチしないけど、こういう人やビジネスと組み合わせると新しく事業ができそう。だから予定外だけど採用しよう」ということができたり。

こういう形で、私が関わっている何かと何かがつながり、次の会社や事業が生まれていく流れも多いですね。

独立と継続の違い

Q:独立したい人に向けて、何かメッセージはありますか?

副島:

スタートアップ=独立を手段とするためには4パターンのどれかが望ましいと思います。

  1. 子会社や仕事付きの独立:大きな資本注入や、継続的取引の契約や約束が事前にある
  2. 契約:個人事業主で取引額が増大など、法人でないと契約できない状況
  3. 節税:法人化することで節税ができ、実質的な所得アップになることが確定している
  4. 存在(目的)の提示:既存市場がない、自身の理念(ビジネスモデルややりたいこと)を掲げる際などの意思表示手段として用いる

1〜3は独立前から当面の収支が読めるけど、問題となるのは4のパターンです。

独立する際に忘れられがちなのが、経営者は2種に分けられ、「独立(始めることが)出来る人」と「経営を続けられる人」が違う人種、異なるスキルであると言うことです。

ダメなら借金する前に解散すればいい〜なんて人がいますが、人を抱えると畳めなくなることも多く、CFは真っ赤で借入頼りのジリ貧チキンレースになった日には悲惨の一言です。でも小さな可能性にすがりつき、スタッフに責任を感じ、契約に縛られて鬱になる経営者を何人も見てきました。

事前に周りの経営者に相談し、「独立出来る/始められる人材」と、「経営を続けられる人材」をよく見極める。出来るのであれば、この2つは別の人でパートナーとして複数人で立ち上げられると尚良いです。

Q:独立できるスキルと、経営を続けられるスキルは別なので、その穴を埋めるために副島さんが支援で入る形ですね。

副島:

さきほど述べたこういう背景もあり、開発系の独立は「独立できる人やチームがいるが、経営経験者はいない。」という所から始まることが多く、経営を続けるための役どころ(役員/出資者)として副島が参加することが多いです。後者はフルコミットじゃなくてもいいし、業種が変わってもベースとなるところは変わらないので、他業種に渡っても「経営者」としては全く問題ない。(※ここがなかなか理解を得られない。)

そして、DLEのように経営母体があり、続ける環境がある場合は、経営の多角化や事業拡大のために始める人が必要になる。そういう場合はプレイヤーとして立ち上げ参加し、続けられる体制を作ったらアサインやコミットを薄くしていきます。

経営者としての適正や能力を「現場」だけで見て独立すると痛い目をみるか、個人事業主の延長で終わっちゃうことが多いです。そういう視点で私が色々サポートすることも多いですし、起業する方には留意してもらえたら、と思います。

取材・記事作成/林 智彦

【専門家】副島雄一氏
1980年愛知県生まれ。3DCGデザイナーとしてWEB3D表示技術の特許開発に関わったのをきっかけに、新規事業に傾倒。株式会社モンスターラボ統括事業部長、株式会社アプリカ新規事業部長などを歴任。スマートフォンの隆盛に合わせゲーム開発を目的とした株式会社イルカアップス設立、取締役就任。株式会社DLEの社長室プロデューサーも兼任し、同社オリジナルアニメやコンテンツを用いたデジタルコンテンツ事業、東京ガールズコレクションなどの新規事業に関わる。複数社の役員として新規事業、ゲーム/システム開発を得意分野としマルチに活動中。

ノマドジャーナル編集部
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