企業の契約に関わる業務を最適化する、日本で唯一の契約マネジメントシステム「Holmes(ホームズ)」を提供している株式会社Holmes。契約と言っても単純な電子署名や文書管理を行うのではなく、事業に関わるあらゆる契約を包括的にマネジメントするプロダクトです。

そんな組織の最大の特徴は、東京に本社を置く一方で開発拠点は長野県上田市にある点です。

エンジニア組織が長野県にいる理由とは?また、どのようにプロダクト開発を進めているのかなど、今回はHolmesのCEOの笹原健太さんとCTOの花井亮平さんの対談インタビュー形式でお伺いしました。

サービス立ち上げの経緯や東京と長野という遠隔地での働き方、開発の強み、そして長野におけるエンジニア採用戦略まで、CEOとCTOがHolmesについて語ります。

2年の時を経て、委託先の会社から自社のCTOとしてスカウト

ーープロダクト立ち上げや花井さんのCTO参画にはどのようなエピソードがあったのでしょうか?

笹原 健太さん(以下、笹原):当初、Holmesの原型となる契約システムのプロダクトを開発会社に依頼して製作していたのですが、上手くいかず頓挫してしまいました。その後、プロダクトの構想を弁護士事務所の顧問先に話したところ、共同で開発してみようということになったのです。その顧問先の子会社の代表で、プロダクトの技術開発担当になったのが花井でした。2社の共同出資によるプロジェクトとして開発がスタートしたのですが、そのうち顧問先が手を引くことになり、最終的に私が花井の会社に委託する形になりました。

花井の手腕を見るうちにHolmesのCTOになってもらいたいと思い、根気よく誘い続けた結果、2018年の10月にようやく入社が実現しました。開発スタートから延べ2年ほど経過してからですね。花井がいなければ、今のHolmesはなかったと断言できます。

Holmes社笹原 健太
株式会社Holmes 代表取締役CEO 笹原 健太 氏
司法試験合格後、弁護士として法律事務所に勤務。2013年に弁護士法人 PRESIDENTを設立。「世の中から紛争裁判をなくす」という志を実現すべく、17年に株式会社リグシー(現・株式会社Holmes)を設立。現在は弁護士登録を抹消し、CEOとして同社の提供する「契約マネジメントシステムHolmes」の成長に向けて力を注いでいる。

リモートだからこそ同じ時間を共有する働き方を重視

ーー東京と長野という離れた拠点で、どのように開発を進めているのでしょうか。

笹原:まず組織としては全体が50名ほど。エンジニアは東京が3名、長野は10月から入社するメンバーも含めると10名ほどの構成です。花井とリードエンジニアは長野に常駐しています。

開発の初期段階においては、私と花井、そしてリードエンジニアが電話で密にやりとりをして開発イメージを共有したり、どの機能を優先して実装するかなどを決めていきました。

現在は毎週金曜日の10時に花井とテックリードが東京まで来て、開発陣とビジネスサイドによる開発会議を1時間ほど行います。あとは四半期に一度、やはり1時間ほどミーティングをする程度ですね。内容は主に機能追加や開発リソースの割り当てについてです。
バグが発生したり顧客から技術的な質問をされた場合は、まず東京のサポートメンバーと開発のオペレーションチームがやりとりをして、必要時にオペレーションチームが長野に連絡をする形にしています。

花井 亮平さん(以下、花井):エンジニア組織自体は長野も東京も1つのチームとして、スクラム体制で開発を進めています。日々の業務は朝のデイリー・スクラムで割り振りますが、課題が蓄積していたらデイリーが終わったあとに問題解決のためのミーティングを開くこともありますね。
勃発的にトラブルが起きたら対応できるメンバーがテレビ会議などで集まり、解決にあたります。

エンジニア組織について
flexyメディア 花井氏CTOインタビュー

Holmes取締役CTO 花井 亮平
株式会社Holmes 取締役CTO 花井 亮平 氏
愛知県名古屋市出身。結婚を機に長野県上田市に移り住む。地元のベンチャー企業にエンジニアとして勤めた後、独立して開発会社を起業。代表取締役として受託業務を行う。笹原氏との出会いを経て2018年10月にHolmesのCTOに就任。

笹原:Slackでのやりとりも行いますが、当社は対面でのやりとりを重視しています。テキストベースではなくできるだけオンラインMTGを通して、同じ時間を共有する。金曜日に花井とテックリードが東京に来て一緒に会議を行うのも、距離が離れているからこそ意図的に顔を合わせる機会を作るためなのです。

労働時間は基本的に全員9:00~18:00なのですが、これも極力同じ時間に働いてもらいたいという理由からです。エンジニアはフレックス制という会社が多いと思うのですが、それではタイムリーに連絡が取れず、疑問を抱えたまま仕事をする場面が出てきてしまう。そういった状況が起きないようにしたいと思っています。

ーープロダクト開発やエンジニア組織の運用において、そのほかに工夫していることはありますか?

笹原:新しいプロダクトに関してはまず私がイメージを考案し、花井に共有します。魔法使いのようで、無茶な要望も花井がなんとか実現してくれるんです。

花井:共同プロダクトオーナー制のような形ですね。笹原にビジョンを描いてもらい、私はそれを具現化する役割を担っています。

笹原:開発組織の運用については、通常であればエンジニアリングという専門性がブラックボックスになってしまい、「わからないからあとはよろしく」という流れになりがちです。その点、当社は花井が開発組織のベロシティを見える化してくれているため、ビジネスサイドも開発に関する議論に参加できています。

例えばスタートアップはエンジニアをどんどん増やす傾向にあると思いますが、ベロシティを定点観測していると、人が増えてもかえって開発リソースが下がってしまうことがあるという事実も見えてきます。その数値に対して、Holmesの仕様書を作ろうとか、こんな研修をしてみようといったように、メンバーを素早く戦力化するための工夫を考えて実践できるのは非常に大きいですね。

技術力も対応力も高いSIerが多い、長野のエンジニア事情

ーー長野のエンジニアには、何か地域的な特徴はあるのでしょうか?

花井:長野は自社でサービス開発を行っている企業が少なく、SIerが多い印象です。さまざまな案件で受託開発を行っているため、多様な言語に触れていたり、要件に対してプロジェクトの変化に柔軟な対応ができたりと、器用で真面目なエンジニアが多い傾向です。
学校を卒業したら一度東京に出てしまうケースも多く、何年か経って帰郷した方を当社で採用するパターンもありますね。

花井CTO

ーー受託開発の企業が多い中、長野で自社プロダクトを持つメリットは何でしょうか?

花井:エンジニアにとってプロダクトを自社開発する魅力は、何よりやり甲斐を感じる点にあると思います。もちろん受託開発でも、案件を多く扱う中で多様な技術に触れられるなどの利点はありますし、素晴らしいことではありますが。世の中の役に立つサービスを自分たちで考え、直接届け、フィードバックを得てカイゼンし続けることで、プロダクトと共に自身も成長できる。その様な経験ができるのは自社開発のフィールドならではだと思います。
実際、当社のエンジニアは自社開発ができることに喜びを感じている気がします。

笹原:長野の工科短大やシステム情報系の学科の就職説明会に出ると、学生の反応も非常に良いんですよ。地方創生というと大げさですが、新卒採用も行っているので長野の学生には今後もどんどんアプローチをかけていきたいと思っています。

明確な解が無い、柔軟性の高いプロダクトを作り上げる面白さ

ーー採用戦略について、他社との差別化はどうお考えですか?

笹原:やはり東京のエンジニア採用は競争が激しいですし、エンジニアもRubyやGoなど、新しい言語・技術を習得したいという傾向が強い。そういった市場で他社とまともに戦うよりは、地方で戦わずに勝つ方が良いと考えています。地方のエンジニアは絶対数こそ少ないかもしれませんが、東京よりも採用しやすいのは間違いないと感じています。

長野で採用を行うもう一つの強みは、優秀な人材の流出を防げる点です。現在転職はポジティブな意味合いが強いものになっていますが、企業経営的な視点からすれば、やはりすぐに転職されるよりも、じっくり腰を落ち着けてもらった方が教育にも投資しやすいですよね。その点、長野の人は全く辞めません。まだ転職に対するネガティブな印象が強いんです。その一方でスタートアップや自社プロダクトを持つ企業への憧れや需要は確かに存在しているので、上手く合間を縫って採用を行い、定着してもらう形を狙いたいですね。

笹原さん

ーー御社のプロダクトの魅力について教えてください。

笹原:Holmesのプロダクトにおける一番の価値は、「契約マネジメント」という概念にあります。契約とは、単なる1通の契約書を効率化することで最適化されるものではありません。契約は、複雑に絡み合う3つの要素で構成されるため、それら全てをしっかりマネジメントする必要があるのです。

まず、契約には、「ライフサイクル」があります。締結「前」には当事者間の交渉や申込、必要書類の提出等を要しますし、締結「後」も契約内容の更新・変更などがあり、契約は終了するまでずっと続いていくのです。

更に、契約は「相互に関連しあう」要素をもちます。パソコンを売る事業一つ取ってみても、部品工場との契約・下請け業者との契約・配送業者との契約などがあるように、事業には複数の契約が存在し、それらは相互に影響し合いながら進んでいきます。

最後に、契約には、様々な「関連業務」も伴います。契約の交渉は営業、審査は法務、売上管理は経理…といったように、契約に関する業務には様々な関係者とタスクのやりとりが発生します。

このような複雑性を踏まえた上で、事業に関連する全ての契約を点ではなく線として捉え、しっかりとマネジメントすることで企業の最適な権利と義務の実現を目指そうというのがHolmesのプロダクトの考え方です。

Holmes社

笹原:当然事業によって必要な契約は異なりますから、プロダクトには柔軟性が求められます。ですからHolmesは、さまざまなオブジェクトをカスタマイズすることで柔軟性を生み出すという設計思想を採り入れて開発しています。

花井:すでに決められた仕様があり、それをただ開発すれば良いというものではないという点では、エンジニアが考えるべき領域は非常に広く、量も多大です。そこがHolmesというプロダクトの楽しい部分でもありますし、解が無いものを一緒に作り上げていくことに魅力を感じる人に集まってもらえたらと思います。