トヨタ自動車の生産管理をはじめ、大手からスタートアップまでさまざまな製造・物流の現場に携わってきた川越貴博氏(以下:川越)。40歳という若さながら、現場から経営に至るまで幅広い実働経験を持つことを強みとして、数多くの企業を支援してきました。今回ジョインした村野隆一社長率いる協和物産が持っていた課題は、新設した倉庫のオペレーション負荷が高かったこと。採用も投資もせず、2年かけて川越さんがどのように業務効率化を図ったのか、注目です。

配送業務の仕組み化に課題感を持つ食品卸企業が求めた、現場目線で物流改善を実施してくれる人材

協和物産株式会社 村野隆一社長協和物産株式会社 村野隆一社長

60億円規模の中堅企業でありながら自社物流にこだわり、配送&営業のタッグで顧客満足を追求

村野社長:当社は創業50年弱、従業員はアルバイトも含め130名ほどの総合食品材料卸商社です。顧客のほとんどがレストランや居酒屋、ホテルといった外食産業の企業なので、プロ向けも含め常温、冷蔵、冷凍、超冷凍といった温度帯の食品、そのほか飲料や洗剤・キッチンペーパーなどの消耗品まで取り扱っています。年商は現在60億円を突破し、外食産業向けの卸企業としては中堅に位置しています。

事業で重きを置いているのが配送です。一般的にこの業界は一定以上の事業規模まで成長するとコストを考えて物流だけはアウトソースする企業が多いのですが、当社は自社物流にこだわっています。自社で配送することでお客様の日々のお困りごとは配送担当が細やかに汲み取り、本部決裁が必要だったりキーマンが存在するような店舗に対しては営業がしっかりフォローする。配送担当と営業担当がタッグを組んだ1店舗2名体制が、他社にはない協和物産ならではの強みです。

新規で立ち上げた配送センターでの業務が非効率的で属人的になってしまい危機感を覚えた

村野社長:自社の強みを活かして日々お客様とコミュニケーションを取り続けた結果、当社はお客様のご紹介だけで2500件もの取引獲得に成功し、売上も右肩上がりの成長を記録していました。

これまで拠点は東雲の配送センターだけだったのですが、事業拡大に伴い2017年2月に新たに設立したのが塩浜の倉庫です。初めての新拠点立ち上げで何から手をつけたらいいのかわからない状態だったのですが、5ヶ月ほどはマンパワーを駆使してなんとか業務を回していました。

ところが、かなり属人的な運用になってしまったために、一旦状況が落ち着くと課題が噴出してしまって。コストはもちろんオペレーション負荷もかなりかかってしまっていたので、倉庫の運用をもっと効率化し、生産性を上げる必要があると思いました。

普通のコンサルタント会社とは違い、現役世代の人材がサポートしてくれるのが魅力的だった

村野社長:悩みや課題は抱えていたものの、正直コンサルティング会社を使うのは抵抗感がありました。もちろんコンサルタントとマッチすれば良い効果が出るのでしょうが、そうでなかったときに余計に状態が悪化しないだろうかと懸念していたんです。

その頃知り合いの顧問の方から紹介してもらったのがプロシェアリング会社のサーキュレーションさんです。以前からサービス内容は知っていましたが詳しい特徴は理解していませんでした。顧問の方から、よくある顧問派遣サービスとは違い現場の仕事も理解している方が本質的なサポートをしてくれるのがサーキュレーションだと伺い、「当社とマッチしない人がくるのでは?」という懸念が解消され、まずは話を伺うことにしました。

サーキュレーションさんが紹介してくれたプロ人材の川越さんにお願いすることにしたのは第一印象とやはり経歴ですね。トヨタで生産管理を経験した後に食品会社の工場長やベンチャー企業の役員など、とにかく現場から経営まで非常に幅広い知見をお持ちでしたし、対面で話してみると「この人なら現場目線で支援をしてくれそうだ」と強く感じました。年齢は40歳で、私や幹部と年代が近いのもポイントでしたね。感覚的にも合いそうでしたし、川越さんしかいないとご依頼を決めました。

従業員になった気持ちで企業にジョインし、現場から経営者まで全ての人の目線に立ってコミュニケーションする

プロ人材 川越 貴博氏プロ人材 川越 貴博氏

川越:私がプロ人材として一番意識しているのは、自分が従業員になったつもりで当事者意識を持つことです。売上を伸ばすということだけではなく、どうしたら従業員の皆様が働きやすい環境にできるのかを常に考えています。携わっている企業も多いので、そこで得たノウハウや情報を惜しみなく共有しながらベストミックスを目指しています。

あとは、相手の目線に立つことも大切にしていますね。村野社長と話すときは経営者目線ですし、部長クラスならマネージャー目線、現場なら作業員目線で会話することを心がけています。

協和物産さんからご依頼をいただいた当初は、正直に言えば「食品に対しては詳しくても物流やフルフィルメントに関しては成長の伸び代があるな」と思いました。物流が全く仕組み化されていなかったんです。

にもかかわらず、60億円規模にまで売上を伸ばしているのは逆にすごいことです。少なくとも私が関わったことのある卸業者ではありえない状態でした。強いマンパワーがあり、社長も含めメンバー全員がポジティブに「何とかしよう」という気概を持っているんですよね。そこが私が協和物産さんに惚れ込んだ部分です。

従業員に対する物流の基礎教育に加え、配送・受発注処理・倉庫レイアウトの3方向からメスを入れた

川越さんの判断で、依頼内容には無かった物流の基礎教育を継続的に実施。自走できるようになるための土台づくりに注力した

川越:支援は月1回、3~4時間ほどです。訪問の際に例えば「倉庫に住所をつけて管理してください」といった課題を出して、それを次の訪問時に現場で確認し、さらにブラッシュアップするといったやり方をしていました。自分たちが現場を変えたことを体感して力にしていけるよう、PDCAサイクルを回したような感じですね。

訪問時以外は随時進捗資料が送られてくるので、その方向性が間違っていたり抜け漏れがあったりする場合はリモートでアドバイスをしました。

村野社長:課題は課長クラスが中心になって取り組んでいました。周囲に影響が出ることですから、随時状況は共有していましたし私が見ることもありましたが、基本的に進行はメンバーに任せていましたね。何か取り組みを実施する際に私がノーと言うことはまずありません。

川越:支援内容は大きく「トラックドライバーのルート可視化」「受発注業務の効率化」「倉庫のレイアウト再構築」の3つに分かれます。ただ、その前に土台作りとして並行して行なったのが現場の従業員やマネジメント層に対する物流とフルフィルメントの基礎教育です。最初のご依頼には無かった内容なのですが、教育は必ず必要になると考え、社長に無理を言ってスタートしました。支援から2年経過した今も重きを置いて継続しています。

例えばこの先3つ目の倉庫を抱えたり、倉庫を1つにして大きくするといった話が出てくるかもしれません。そのときにメンバーがきちんとした土台を持っていれば、レイアウトやロケーションを設定したり、オペレーターに負荷のない環境づくりができます。最終的には私がいなくても自走できる会社になることをゴールに据えていたからこそ実施した支援です。

これまではドライバーの経験値のみで行なっていた配送。ルートを洗い出し、 データをもとに平準化を進めた

川越:その上で最初に取り組んだ課題がトラックドライバーのルート可視化です。倉庫が2つに分かれたことで配送ルートが複合的になっていましたし、ドライバーの力量による速さのばらつきもありました。どのルートを通ってどのお客さんに商品を配送するのかが、これまでは個人の頭の中にある状態だったんです。

村野社長:経験値でしかなかったんですよね。もちろん出荷部分にも問題があることはわかっていたのですが、まずは配送時間を短縮するのが簡単だと思い、最初にお願いしました。

川越:当時の業務オペレーションはドライバーにとって負荷の高い内容でした。ドライバー自身が倉庫から必要な商品をピッキングして積み込んでいたんです。これは自社配送だからできるオペレーションだとも言えるのですが、他社ではあまり見ない体制でしたね。そういう意味では、確かに一番効果が出やすい部分だったと思います。

ただ改善しようにも何のデータも蓄積されていなかったので、手順としてはまず地図を広げてみなさんにどんなルートパターンがあるのかを直接書き込んでもらい、各ルートでかかる配送時間を計測しました。

村野社長:ドライバーの1日の工数がかなり多かったので、配送以外にもさまざまなデータを3ヶ月分取りました。伝票発行、ピッキング、伝票修正に何分かかっているのかも洗い出しましたね。無駄な工程や熟練度による差異も分析し、平準化のために何が必要なのかをみんなで考えていきました。

川越:配送についてはIoTシステムを導入しないとなかなか平準化はできませんでした。ベンダーさんを探したりGoogleマップの使い方をレクチャーする必要があったりと、要件定義には1年ほどかかりましたね。

村野社長:どういうシステムを使えばいいのか、支援の当初から川越さんにアドバイスを受けながら最終的に決定しました。

ドライバーの負荷となっていた「紙の伝票処理」を低コストでシステム化

川越:受発注処理の効率化については、ペーパーレスを実施しました。というのも、受発注7~8割がFAXで行われていたんです。紙の受注票がどんどん溜まっていくのですが、その中からドライバーが自分の担当の受注票を探して持っていくという流れだったので、非常に無駄な作業になっていました。

私は以前スタートアップベンチャーでEC事業を手掛けていたのですが、このときFAXや電話で来た注文はコピー機を使ってPDF化していました。無駄な紙がなくなるだけでなくPC上で発注書を検索する仕組みも作れるとわかっていたので、この経験をそのまま提案しました。

最終的に社内でエンジニアリングスキルを持った人材がいたのでその方とシステム開発をスタートし、3ヶ月ほどで実装することができました。開発コストはアウトソースする場合と比べて10分の1ほどで済みましたね。

倉庫のレイアウトを見直し、階層・色・数字の3つで徹底的にマッピング。新入社員でも迷わず作業できる倉庫に生まれ変わった

川越:最後に実施したのが倉庫のレイアウト再構築なのですが、そもそも住所がなかったんですよね。倉庫のどの棚に何が入っているのかということすら従業員の頭に入っていたんです。1階から4階まであるので、どういう棚の配置にすれば効率的に作業ができるかを構築した上で、何丁目何番地何号に何があるのかをしっかり決めました。具体的にはまず階層でセグメントを分け、列ごとに色分けし、最後に棚の段数を数字で設定するシンプルな表示にしました。担当メンバーは4名ほどで、1階層の住所を決めるのに2ヶ月ほどかかりましたね。

トータル8ヶ月の作業でしたが、これで新入社員でも迷わず棚入れやピッキングができるようになりますし、棚卸しも楽になります。

物流改善のPDCAを回しペーパーレス化したことで年間250万以上のコスト削減などの定量成果だけでなく、人材教育によってマネジメント層の視座や提案力まで向上

2年間の地道な業務改善と工数削減により、ペーパーレスにより年間250万以上のコスト削減などの数値的成果を出した

川越:3つの取り組みによって、それぞれ時間短縮およびコスト削減の数値的成果が出ています。まずトラックドライバーのルート可視化により、配送1回あたりの時間は18分短縮。受発注処理の効率化によりペーパーレスを達成したので、紙を探す工程はそもそも撤廃することができました。コストで言えば年間で約80万円分、資料の保管スペースは坪換算で約150万円分の削減です。倉庫のレイアウト再構築では、ピッキングにかかる時間として平均40秒を達成しています。

もともとモチベーションの高かったメンバーにロジカルシンキングが身につくという成長も大きな変化

川越:これまで協和物産のみなさんは、前向きに行動しても空振りしてしまったり、運用を定着させる部分に悩みが多かった印象です。客観的なロジックに基づいて企画・提案する力をつければせっかくのやる気を上手く発揮できると感じました。

ですから私は、今回の支援を通して課長クラスの方々に「理論に基づいてゴールを設定し、物事を進めていく」というフレームワークやその手法もお教えしました。実際にフローチャートを作ったりどんな風に業務を棚卸しすれば良いのかを指導したことで今は以前と比べて視座が上がり、物事の説明の仕方もかなり変化してきたと思います。

村野社長:ロジカルに思考するようになってきたというのは私も感じています。何のためにやるのか、どんな効果が期待できるのかといったことをきちんと明確にした上で物事を進められるようになってきました。

これまではそういう尺度が無いまま進めていたので、何をどこまでやればいいのかわからなかったんです。何か提案があると勢いよくやる気を持って取り組むのですが、その後のPDCAを回し継続していく部分が課題でした。

川越:そういった面を、これまではある程度マンパワーで乗り越えてしまっていたんですよね。ただ、売上60億円という規模になるとどうしても至らない点も出てきます。そういう現状を素直に受け入れていただけたのが、今回の支援が長く続いている要因かなと思いますよ。

自分たちだけでは気がつけない課題まで発見し、誠実にフォローしてくれる取り組み方に感謝

村野社長:川越さんは私たちが気づいていない課題や問題まで発見して指摘してくれるので、そこに普通のコンサルティングとの違いを感じますね。足りないことを単純に埋めるのではなく、企業が自走できるようにはどうしたらいいのかという視点で支援してくれました。

もちろんプロシェアリングがなければそもそも川越さんとの出会いもありませんでしたから、とても感謝しています。当社は人とのつながりを大切にしている会社なのですが、そういった風土はサーキュレーションさんにも感じました。

川越:今後も良いことも悪いことも正直に言い合える関係性で支援させていただきたいですね。一番は協和物産さんが繁栄することを望んでいますが、私の支援のスタンスどおり、売上だけでなく働き手の心が豊かになり、協和物産で働いていて良かったと思えるような会社になるお手伝いができればと思っています。

サーキュレーションさんの存在がそもそも私の独立のきっかけになっているのですが、やはり事業を通して得た日本中の企業のデータベースを持っているのは強みですよね。今後は企業同士が新たにつながれる場所を提供する取り組みにも期待しています。

物流の仕組み化がされていない中でも、従業員のやる気で乗り越えてきた協和物産さん。そこに川越さんというブレインが入ったことで、各自のノウハウの仕組み化が促進され、より強い組織に成長された印象を受けました。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

左:サーキュレーションコンサルタント
中央:協和物産株式会社 村野隆一社長
右:プロ人材 川越 貴博氏

企画編集:新井みゆ

写真撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)

取材協力:協和物産株式会社

※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。