バックアップソフトを提供している株式会社アール・アイは、データを取り巻く新たな文化や常識を提案・啓蒙すべく、データの仮想化によるセキュリティ領域に参入。販路の新規開拓に向けてプロ人材を探していました。同社が最終的に出会ったのが、ベリタスソフトウェアやシマンテックなどの社長を務めた経験を持つ木村 裕之さんです。新たに販路を100社切り拓き業界参入を支援した内容について、小川敦代表取締役(以下:小川)と木村さん(以下:木村)の両名に伺いました。
事業の次なる柱として仮想化サービスの販路を模索していたIT企業が「この人しかいない」と惚れ込んだ、木村さんの経歴と人徳
バックアップ、仮想化、AI…データに関連したあらゆるビジネスを通して世の中に新たな常識を創造したい
小川:アール・アイは2005年創業の独立系ソフトウェアメーカーです。もともとはバックアップソフトの提供をメイン事業としてスタートしており、事業の二本目の柱として2016年頃にファイル仮想化サービスの「Shadow Desktop」を発売しました。現在はさらに三本目の柱もスタートしようとしています。近年は数多くの技術が日進月歩で、常識もどんどん変化しています。その中で掲げている当社の企業理念は、ただ良い製品を作って売るということではありません。ソフトウェアを提供することは一つのきっかけであり、ソフトウェアを通して世の中に新しい常識を創造していくことを目指しています。
例えば、パソコンを購入したらウイルス対策ソフトを入れるのはすでに当たり前の常識になっています。同様にデータプロテクション、つまりバックアップなど何らかの形でデータを保護するのも当然のことで、私たちはその常識を作っていくことをコンセプトにしているのです。もちろん今まで世の中に無かった新しいものを作ると啓蒙期間が長い分苦労もするのですが、形になれば強固です。
データの価値は今後高まり続ける一方ですから、上記のコンセプトのもと、データにまつわるビジネスを今後も進めていきたいと思っています。
新しい顧客セグメントに対するアプローチが課題・・・。焦らずじっくりとニーズに合致するプロ人材を求めた結果、ベリタスソフトウェア、シマンテックの元トップとマッチング
小川:バックアップソフトのターゲットは中小企業でして、販売パートナーはそこを顧客としている事務機器販売会社が大半で300社ほどの代理店と繋がりがありました。一方仮想化サービスに関してはターゲットは中堅〜上場企業で販売パートナーも必然的にSIerが中心になってくるので、既存の代理店網とは少し異なるレイヤーへのアプローチが必要でした。既存製品の販売パートナーであるMFPベンダーは社内のキーマンが号令をかければ営業部隊もベクトルを合わせてくれるのですが、SIerのキーマンは全く人脈が無い状態でしたし、トップダウンで営業組織を動かしてもらうには役員クラス以上との繋がりが必要だったので、まずは販路を切り開くことが課題でしたね。
そこで外部顧問の方を探すにあたり、プロシェアリングサービス以外にもコンサルティングファームからの紹介も受けていました。ただ、自分たちが求める顧問の人物像に合致する人物にはなかなか出会うことができなかったんです。最初にプロシェアリングサービスで紹介いただいた方も途中でニーズが合致していないと感じ、3ヶ月のみの稼働に留まりました。有名企業のエグゼクティブクラスのプロ人材だったので決して悪かったわけではないのですが、自分たちには合わなかったという判断です。一度採用してみて相性を確認できるのは、ある意味プロシェアリングのメリットですね。
時間がかかっても構わないのでニーズに合う人がいたら教えてほしいと担当の方に要望を出したところ、半年ほど経過してからご紹介いただいたのが木村さんでした。木村さんはベリタスソフトウェアやシマンテックといったバックアップやセキュリティ領域で1、2を争う大手外資系企業の代表取締役、そして仮想化のプロダクトで世界的なシェアを誇るシトリックスの副社長を務めた方です。経歴を見て驚きましたし、「この人しかいない」と思いました。
もちろんどんなに素晴らしい経歴があっても人柄が合わないということもあるのですが、木村さんは非常に人徳のある人格者でした。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということわざがありますが、実りすぎというほどの低姿勢で、合わないどころか学ぶところが多かったです。
日本では稀有な総合データプロテクションメーカーの挑戦に感銘を受け支援を決意
木村:私は現在、企業の営業・マーケティング・経営顧問などを行なっております。大切にしているのは、営業戦略を作って終わるのではなく、実際に一緒に営業回りをしながら営業組織を作っていくというスタンスですね。独自性のないプロダクトやサービスをただ私の「人脈を活用して強引に新規顧客を開拓してほしい」という企業の依頼は受けません。
今回アール・アイさんを支援させていただこうと思ったのは、日本の企業としては非常に珍しいバックアップ・仮想化・AIなどのソリューションを独自開発して販売していこうという特徴を持っていたからです。アール・アイさんは私が所属していた外資系企業とコンセプトを同じくしているのですが、それを日本発のメーカーが掲げているという点がまず素晴らしいですね。しかも単なるバックアップではなく、仮想化、AIといったようにどんどん領域を広げようとしている点にも感銘を受けました。データにまつわる安心・安全を担保する総合データプロテクション企業として成長していこうというミッションを持っている企業は、日本には皆無です。大手SIerもそこまでの活動はしていません。微力ながらぜひご協力できればと思いました。
名だたる競合と一線を画した商品の提案が可能になり、順調に販路を拡大
大手SIerを中心に積極的に企業の社長を紹介し、営業にも同行して着実にコネクションを広げていった
小川:支援は月2回の打ち合わせがベースだったのですが、やりとりはフランクでした。弊社のもう1名の役員が木村さんとは密にやり取りをしていて、2日に1回はお電話していたと思います。要望としては月に1、2社ほど企業を紹介してもらいたいとお伝えしていましたね。
木村さんの人脈は非常にハイレイヤーで超大手SIerの社長さんなどへの営業が多かったため、木村さんも同行のもとで基本的に私と役員が対応しました。もちろんトップダウンのような形になるので営業としては最高の形でしたし、想定よりもはるかに多い企業を紹介してもらえたのもとても嬉しかったです。
木村:最初にヒアリングした段階でわかっていたのは、アール・アイさんは市場規模が小さいバックアップソフトの売れ行きが好調であること、そして今回はそこからもう少し大きな市場の製品を売り出したかったということです。一回り大きな規模感のSIerやクラウドベンダーが必要だということだったので、代表的なSIerや大手商社系エレクトロニクスさんなどを中心にご紹介し、販売に協力していただける体制を作ることにしました。皆さんが一度は聞いたことがあるような大手通信キャリアさんや大手電気機器専門商社さん、大手総合ITベンダーさん、大手メーカーさんなどにも営業に行きましたよ。
小川:代理店は自社のクラウドサービスのメニューに入れてくれたり、見込みになりそうな顧客にご案内してくれましたね。コンタクトできなかったお客様にも幅広くご紹介頂けるようになりました。
相手の求めていることを想像して提案するソリューションを打ち分ける、柔軟性のある営業へとシフトできた
木村:アール・アイさんの仮想化サービスは、他社の既存のプロダクトとはレンジが異なっていました。そこが差別化できる部分であり、製品をアピールする上でも重要なポイントになると感じました。その上で、企業ブランディングについてもいくつかアドバイスはさせていただきましたね。
小川:特に商品の見せ方については、アドバイスいただいたことで大きな発見がありました。新規性のある商品をどのような位置付けで売り出すのかによって、買い手が受ける印象は全く違います。例えば木村さんが以前所属していたシトリックス・システムズも仮想化の世界的企業ですが、そういった大手外資系企業が提供する数億単位の製品の廉価版として見せるのか、それとも働き方改革に対する新しいソリューションとして打ち出すのかといったことです。現在ホームページでは後者の視点で売り出しています。ただ、それが絶対の正解というわけではなく、相手の状況によって刺さる見せ方は千差万別です。お渡しするチラシや提案書を相手によって打ち分けるといった施策も、木村さんに支援に入っていただいたことでようやく実行できるようになりました。
木村:相手の状況を知らなければ営業活動はできません。「これは仮想化によるデータプロテクションで、全社のデータを守ります」と言われてもなかなかイメージは湧かないでしょう。営業先の企業が社員の離脱率を課題として抱えているのであれば働き方改革のソリューションとして提案すべきですし、データ漏洩の問題を抱えているのであればそこにコミットする内容を見せる必要があります。何か一点に絞るよりも、いろいろな引き出しを持っていた方が良いと思いますね。
会社の顔であるホームページも、トップメッセージを強く打ち出す形に改修
小川:見せ方の点で言えば、ホームページも改修しました。木村さんにつないでもらった企業の社長さんたちは、「あの木村さんから紹介してもらったのだから」という目で当社のホームページを見ることになるのですが、当時はデザインが古かったんです。木村さんからなんとかしたほうが良いと言われました。
木村:製品の説明が多かったですね。それでは外資系の企業と変わりませんから、非常にもったいないと思いました。もっと小川さんが顔を出して、トップメッセージも含めて会社について語れる形が良いと思い、アドバイスしました。
これは営業会議に参加させていただいた時のことです。営業メンバーは若く未経験の方も多いのですが、皆さんとても勉強熱心で、小川社長を前に意見を活発に交していました。こういったトップと現場の雰囲気が良いのも小川社長の人柄ゆえですから、魅力的な社長が前に出て行くのは良いことですよね。
戦略的パートナーもエンドユーザーとなり、商品発売から数年で累計100社の販路を獲得
木村さんのアドバイスをきっかけに説明型企業から提案型企業へと大きく成長
小川:相手が求めていることを想像した商品の見せ方をできるようになったことは当社として何より大きな変化でしたね。パートナーがどんな会社で何を生業にしていて、どんなことに興味を持っているのかといったことを分析する専用シートも作成しました。
メーカーの悪い癖でもあるのですが、今まで私たちは製品の優れたところをアピールして、「御社のビジネスのどこに当てはまりますか?」と問うようなスタンスでした。良い製品を作ったからあとは好きにしてください、ということです。それではダメだと、木村さんからのアドバイスで気付きました。製品の説明をするだけの悪く言えば押し売り営業から、ソリューション営業に変われたのは支援を通して得た資産と言えます。
新商品発売から数年を経て売上は1.5倍に。数多の上場企業にも認められる製品として市場に影響を与えた
小川:数字面で言えば、木村さんに入っていただいてから売上は元の数字の1.5倍になりました。販路を切り拓きたいという目標も達成し、100社に導入いただいています。木村さんから紹介いただいたのは代理店というよりは戦略的なパートナーが多かったのですが、結果としてはそこからエンドユーザーも生まれています。導入先の半分以上は上場企業ということもあって、発売から2~3年でかなり影響力も出てきたと思います。
最新領域を経験豊富なプロ人材の知見とどう組み合わせるのかが今後の日本の行く末を左右する
日本で唯一無二のプロダクトを提供する企業として、今後も邁進してほしい
木村:アール・アイさんはクラウドやAIといった先進的で注目度の高い領域を手掛けながらも、認知度を高めるために泥臭い地道な営業を徹底的にこなしています。そこは日本では唯一とも言えるプロダクトを提供していく企業として素晴らしい点です。競合他社が大手の外資系企業ばかりという市場ではありますが、これからも頑張ってほしいと思います。
小川:今回は支援に入っていただいて感謝しています。木村さんはプライベートでは剣道の審判をやりに海外に行かれることも多いそうですが、とにかく体には気をつけてほしいですね。
現場を熟知したプロ人材と企業が繋がっていくことで、新たな市場に参入する準備ができる
小川:「プロシェアリング」という言葉は顧問という呼び方よりも良いなと思っています。当社は今後AIで企業の課題解決のコンサルティングを行おうとしていますが、その開発は天才的なエンジニアが居るだけでは不可能です。精度の高いモデルを作り上げるには、会社の本質的な課題や因果関係を想像しながら膨大なデータを取捨選別しなければいけないのですが、それは現場のプロにしかできないことだからです。
実際、単純にデータを打ち込むだけでは全く成果が出せなかった案件があったのですが、現場のプロの経験値をもとに開発し直したところ、非常に高精度な予測モデルが出来上がりました。プロの知見がなければ、AIはただの箱でしかないのです。
このようなAI開発のシチュエーションにおいては、例えば大手メーカーの工場で15年間工場長を務めたような人材に大きな価値が生まれます。ですからエグゼクティブな経歴を持つ人だけではなく、すごくニッチな領域や現場のプロの方の経験知見を循環させて行く上でプロシェアリングはすごく有効な手段だと思います。
木村:私もAIやIoTの分野で重要なのは、データをどう組み合わせて生かすのかという視点だと思いますし、今後の日本が目指すべき道だと思います。小川さんがおっしゃったような現場のプロ人材と企業が出会う機会はなかなかありませんから、プロシェアリングは素晴らしい可能性を秘めているのではないでしょうか。
大手外資系企業の元トップという肩書きに驕ることなく、本気で成長企業を支援する木村さんの人柄と、プロ人材からのアドバイスを真摯に受け止めて着実に実施してきたアール・アイさんの姿勢があってこそ、今回の成果につながったのだと感じました。
本日はお忙しい中、ありがとうございました!
企画編集:新井みゆ
写真撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)
取材企業:株式会社アール・アイ
※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。