これまで大手企業でサステナビリティ経営/SDGs推進支援を手掛けてきた当社の信澤みなみ(以下、信澤)が、今回は元大手メーカーのサステナビリティ推進部長として活躍した実績を持つAさん(※)とタッグを組み、プロ人材2名体制でT&Dホールディングスをご支援。グループの長期ビジョン策定に伴い、社員のサステナビリティ理解とバックキャスト思考への転換が求められていた同社に対し、両名がどのように施策設計やコンテンツ制作を行ったのか、たっぷりとお伝えします。

※今回は匿名希望のためお名前のご紹介を控えさせて頂いております

長期ビジョンの策定に伴い、社員のサステナビリティ理解が必須に

グループの成長戦略として「SDGs経営と価値創造」を目指し、社内浸透プロジェクトをスタート

株式会社T&Dホールディングス ソーシャル・コミュニケーション部長 小林誠一様

小林部長:T&Dホールディングスは、太陽生命、大同生命、そしてT&Dフィナンシャル生命の3社が中心となったグループ会社です。

当社は2021年5月にグループの長期ビジョンを策定し、成長戦略の重点テーマを5つ定めました。その一つが、「SDGs経営と価値創造」の実現です。今後は対外的に当社がどのような長期ビジョンや価値観をもって事業活動をしているのか情報開示し認知して頂くことはもちろん、グループ内にも当社がなぜSDGs経営をかかげ、共有価値の創造を目指すのかを浸透させるべく、今回のプロジェクトがスタートしています。

社内浸透によって、多部署間でSDGs経営のための自主的な連携と判断をしてほしかった

ソーシャル・コミュニケーション部 サステナビリティ推進課 課長代理 村松壯介様

村松:社内浸透が必要だった理由は主に2つです。一つは、小林の言った通りグループが長期ビジョンを策定したこと。もう一つが、各部署が自主的にSDGs経営に向け事業活動を通じた具体的な課題解決を図る段階に入ってきたことです。サステナビリティの分野はここ数年で急速に範囲が広がってきたために、今後は多部署が連携しながら自主的な判断する必要が出てきたのです。

小林部長:浸透にあたり、業界ならではの課題として大きかったのが、「生命保険」という形のない商品を扱っている点です。現場で働く社員にとっては、自分の業務とSDGsや社会課題を結び付けるのが難しい状態でした。だからこそ、SDGsの基礎的な知識だけでなく、他社事例なども学びながら浸透を図りたいと考えました。

ソーシャル・コミュニケーション部 サステナビリティ推進課長 尾林健太郎様

尾林課長:一方で、保険はSDGsと関連する部分もあるために「すでにSDGsには取り組んでいる」という意識も一定ありました。気候変動問題など「自分たちとは直接関係ない」と感じる部分と、「関連する項目にはすでに取り組んでいる」という部分、両方の側面があった状態です。

サステナビリティ推進課だけでは「浸透」に関するノウハウ不足を感じて専門家に相談

尾林課長:これまでサステナビリティに関する実務については我々サステナビリティ推進課が進めていましたが、グループ全体に浸透させるとなるとノウハウがなく、今回は社外の専門家の力を借りることにしました。

小林部長:社内ではすでに別件でサーキュレーションさんにご依頼をした実績があるということで、まずはご相談し、ご紹介いただいたのが信澤さんとAさんです。お二人とも実際に外部でサステナビリティ経営の推進支援に取り組まれている実績がおありで、具体的な施策のご提案もいただけたことからプロジェクトの具体的なイメージが湧き、正式にご依頼を決めました。

プロ人材がお互いに壁打ちをしながら適切な施策を考案するスタイル

SDGs/サステナビリティ推進のプロ人材 信澤 みなみ氏

信澤:私は「自社にとってサステナビリティとは?」を企業の皆さん自身が考え、言語化し、自分ごととしての実装していくことができる体制構築を目指して、さまざまな企業のサステナビリティ経営やSDGs推進を支援してきました。そして今回一緒にプロジェクトメンバーとして参画いただいたSさんは、元大手メーカーのサステナビリティ推進部長として活躍され、グループ企業を巻き込んだ戦略立案・推進を行ってきた人物です。

私たちがT&Dホールディングス様をご支援するにあたり、ポイントは2つありました。一つは、約1万人の社員に対して、変化が速く膨大なSDGsやサステナビリティの情報をどれだけ統一して伝えられるか。もう一つは、社員の皆さんがSDGsや自社を取り巻く状況をいかに「自分ごと化」して考える機会を創出できるか。理解統一と思考機会の創出、この2つを目指そうと考えました。

今回の社内理解促進において、業界を取り巻く環境や状況をふまえどのような切り口で何を伝えるのかを、私はSさんに、Sさんは私に対して壁打ちをし合いながらストーリーを決めていく形で進めました。役割としてAさんがSDGsやサステナビリティの情報の潮流を掴んでブラッシュアップする部分を、私は社内浸透のためのコンテンツ制作や施策設計そのものを担いました。さまざまな業種のサステナビリティ/SDGs推進に外部から関わってきた私と、大企業内で実際に責任者を務められてきたSさんの二人がタッグを組むことで、お互いの強みを活かしてより客観的かつ現実的な施策設計に繋がったのではと感じています。

e-ラーニングで知識を理解し、ワークショップで思考する機会を創出

ストーリーの設計からコンテンツ制作、実際の浸透までを4つのフェーズで実行

信澤:ご支援の流れを4つのフェーズに区切ると、まずはサステナビリティ推進課メンバーとの現状把握や目的の認識合わせ、そして全体的な浸透ストーリー設計がフェーズ1の段階でした。

小林部長:打ち合わせを通して今回行うことに決めた施策は、“サステナビリティ/SDGs/ESGの動向や企業が取り組む意義、及び当社がどのように考えているかを理解する”ことを目的としたe-ラーニングと、“2030年の中長期起点で自部門にどのような機会やリスク、取り組み可能性が描けるかを実際に思考する”ワークショップの2つです。特にグループ企業全てが集まってワークショップを行うような機会はほぼなかったため、議論に紆余曲折はありましたが、最終的に一番浸透スピードに対して効果が高いであろう、部長層約80名に対して実施することにしました。

信澤:フェーズ2は、e-ラーニングとワークショップ実施のための具体的な施策の設計です。コンテンツづくりについてはメンバーの皆さんと密にミーティングをさせていただきました。やはり外部からの視点では個社ごとに状況が異なる一企業に伝えるべき適正な情報の粒度や難易度の調整は測りきれませんから、社員の皆さんのサステナビリティに対する理解状況や社内風土なども踏まえながら、一緒に構成させていただきました。

フェーズ3、4は実際の浸透フェーズです。フェーズ3では全社的にe-ラーニングを発信し、アンケートも実施。社内の理解状況を把握しました。フェーズ4では部長層にワークショップを行ってもらい、e-learningで理解して終わるのではなく、実際に自らが中長期を想像し可能性を描く思考機会を創出しています。

保険業界特有のニュアンスを細やかに調整し、金融動向まで盛り込んだ独自のe-ラーニングを構築

村松:e-ラーニングの目的はSDGsの基礎知識習得に加え自社の経営ビジョンの浸透も含まれていたので、信澤さんたちにアドバイスをいただきながら、自分たちでかなり作り込みました。

小林部長:当社ならではの言い方をしないと伝わらない部分もありますし、細かな表現まで調整しましたね。

SDGs/サステナビリティ推進のプロ人材 信澤 みなみ氏

信澤:業界的に金融というくくりもありますから、通常だと少し遠いと感じられるような金融動向やESG投資の情報なんかも加えました。他の業界と比較して網羅的かつ少し難易度の高い内容に仕上がっています。これは、やはり皆さんと「何をどこまで入れるか」を調整したからこそですし、非常に重要なことだったと感じます。

グループ初の部署横断でのワークショップで、バックキャストによる未来に向けた思考転換を図った

左から株式会社T&Dホールディングス ソーシャル・コミュニケーション部 サステナビリティ推進課 課長代理 村松壯介様、ソーシャル・コミュニケーション部 サステナビリティ推進課長 尾林健太郎様、ソーシャル・コミュニケーション部長 小林誠一様

小林部長:先ほども申し上げた通り、ワークショップはグループ内で統一された内容を実施するのが初めてだったので、かなり手探りでした。そこは、信澤さんが目的や内容をしっかり汲んでくださったので、安心してお任せできました。

村松:とはいえ、e-ラーニングとは別の大変さがありました。セミナーに参加して聞くだけのものとは違いますから、「今後の業務につなげてもらう」という目的や実施の流れなどをしっかり伝えなければいけません。ここが難しかったですね。

小林部長:加えて、もともと当社には堅実に物事を進めていくスタイルがありました。「今ある事実と過去の経緯をしっかり踏まえた上で、実現可能性の高い計画を着実にやっていこう」という姿勢です。そのような前提を考えると、今後SDGs経営を実現するための思考転換を図ることそのものの難しさや必要性を感じていました。物事の変化が激しい時代の中で長期ビジョンを実現するためには、バックキャスティングという「逆算の思考」があることを知っていただくと同時に、堅実に積み上げていくだけではなく、未来を描き挑戦する思考とはどのようなものかを体感してもらう必要がありました。

尾林課長:生命保険という事業では、お客様からお金をお預かりして、何かあれば確実に保険金をお支払いします。確実な事業の継続が求められるという意味では、フォアキャスティングなのです。そうなると、どうしても3年、5年といったような短いスパンでしか考えられません。ワークショップは、2030年、2050年といった未来からバックキャストをする重要性を感じる、大きなきっかけになったと感じています。

今後大きな変化を生むための意識の転換が生まれている

小林部長:まだ目に見える成果が出てくる段階ではありませんが、ワークショップのアンケート結果では「バックキャスティングをぜひ取り入れてみたい」という意見が多く見られたので、これから変化が生まれてくるものと考えています。

村松:ワークショップではほかにも「グループ内の部長の意見を聞いたりコミュニケーションを取ったりすることがほとんどなかったので、良い機会を得られた」というコメントが多かったです。これまでは「今年や翌年どうするか」という視点だったところから、「中長期のスパンで考えていきたい」という意識も芽生えたようで、今後が非常に楽しみです。

e-ラーニングのアンケートについても、受講者ほぼ全員から「SDGsと長期ビジョンの理解が進んだ」という回答を得られていますし、感触は良かったですね。 また、当社にはグループ経営ビジョンのイメージビデオがあり、それを今回e-ラーニングの中に入れたのですが、お恥ずかしながら「初めて見て、良いものだと思った」という声もありました。管理層であれば経営ビジョンを気にしてくれるのですが、グループの社員全体に幅広く見てもらえるような機会はあまりなかったので、その点も実施した成果かなと思います。

    ワークショップ実施後のアンケート結果(抜粋)

    【1】レクチャーパート、「中長期視点や社会課題起点で考える思考方法」について理解頂けましたか?

    「大変理解できた」「理解できた」……91.5%

    【2】ワークセッションパート、「2030年起点で考える自部門の可能性」の内容について有意義でしたか?

    「大変有意義だった」「有意義だった」……89.4%

    【3】今回実施した研修全体について、参考になったかどうかを教えてください

    「大変参考になった」「参考になった」……88.1%

SDGsやサステナビリティの知見を得られたからこそ諦めずに浸透を推進できた

株式会社T&Dホールディングス ソーシャル・コミュニケーション部長 小林誠一様

信澤:本来のサステナビリティ経営というのは、経営陣だけではなく事業部自体も主体的に中長期に向けて実行していかなければなりません。そのとき肝になるのが、経営企画やサステナビリティ推進室の皆さんが、経営と現場の橋渡しをどれだけ本気で、諦めずにできるかです。部長層自らが意識を高めてくれれば理想的ですが、現実は簡単ではありません。経営の言っていることが伝わらずに、標榜やマテリアリティを掲げているだけになってしまうケースがあります。

その点T&Dホールディングス様は、推進課の皆さんが「長期ビジョンをいかに事業活動を通じて実現していくか」部課長クラスにも理解してもらい実現するための思考転換を図る、実装に向けてのアクションの重要性を理解されていらっしゃり、実工数や社内風土的なハードルも理解した上で諦めなかった。ここが会社としての強みであり、魅力だと感じました。橋渡しをしてくれる人こそ会社のカルチャーを一番わかっていますから、どのようなスピードでどのように浸透させればいいのかを調整できますし、それが本質的な会社独自のサステナビリティ経営につながるのだろうと感じます。

そういう意味で今回は皆さんがいて心強かったですし、今後目指す長期ビジョンの実現につなげていただければ幸いです。今回はありがとうございました。

小林部長:諦めずにいられたのは、これまでのご経験を踏まえて適切なアドバイスをくれる信澤さんたちがいてくれたからです。特にワークショップの運営シーンでは、信澤さんの「場を回す力」に助けられました。役職の高いメンバーから見ても納得度の高い説明、進行をしていただいたので、お願いしてよかったと思っています。どうもありがとうございました。

尾林課長:今後、新たなサステナビリティの施策をどんどん打っていかなければならない中で、まずは部門長の腹落ちが必要でした。しかし「社内浸透施策には限界があるのでは」と思っていたというのが、私の正直な気持ちです。その中で信澤さんたちが一緒にコンテンツを作ってくださり、実際のワークショップでも力を発揮していただいたことで、期待以上に大きく前進できた気がします。ありがとうございました。

村松:今回、サーキュレーションさんにご依頼するにあたって他社比較はしていませんが、そもそもサステナビリティに通じた専門家をアサインできる企業はまだ少ないでしょう。サーキュレーションさんの強みは、そんなニッチな人材ともつながっていることだと思います。 今後、信澤さんたちはまた新たに企業のご支援をされると思いますが、そこから得た知見を当社にもフィードバックしていただければと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

サステナビリティ/SDGsという世界的に注目されるテーマにおいて、最新の知見や視点を社内のみで得るのは難しいものです。必要な部分は外部のプロ人材を頼りながら、自社の企業文化を踏まえて理想と現実のギャップを埋めていく。この大変な作業に諦めず取り組むことが、サステナビリティ経営への実現に向けた活路を拓くのだと感じました。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

サステナビリティ推進案件におけるまとめ

課題・概要

新たにグループ全体の長期ビジョンを策定し、次のステップとしては現場の各事業部長がサステナビリティを理解し、バックキャストへの思考転換が必要だった。しかし、社員に自主的なサステナビリティ推進へのアクションの必要性を浸透させるのは、社内だけでは難しいと感じていた。そこでアサインされたのが、大企業でサステナビリティ推進に携わった経験のあるプロ人材A氏とサーキュレーションの信澤のペアだった

支援内容

  • 現状や課題把握、浸透対象の決定、状態目標の目線合わせ
  • 理解促進や思考機会創出のストーリー及び施策設計
  • e-ラーニングの発信とアンケートの実施による理解状況把握
  • ワークショップによる部長層への思考機会の創出

成果

  • 金融機関とそれ以外の業界からの着眼点から、複合的なサステナビリティ浸透のポイントに気付けた
  • グループ内の全80名の部長がオンラインで一堂に会する初の大規模なワークショップ形式の研修に成功
  • オリジナルe-ラーニングとワークショップの実施によって部長陣が自社の戦略に強く紐付いたサステナビリティ思考、バックキャスト思考へ転換のきっかけ創出

支援のポイント

  • サステナビリティ/SDGsの社内浸透を推進するためには、まずは社内文化をよく知る担当者が各レイヤーの理解度を確かめた上で、適切なターゲティングと要件定義をすることが重要。さらに浸透を図った結果として、部課長クラスのメンバーが自社とSDGsや社会課題の因果関係を知り、バックキャスト思考へと転換し、自主的にサステナビリティ推進を行えるようにしなければならない。そのためには、サステナビリティ/SDGsの豊富な知識と他社支援実績があるプロのサポートを得ると、推進が加速する

企画編集:竹内美晴

写真撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)

取材協力:株式会社T&Dホールディングス

※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。