前回の会計講座では、予算の種類や作り方を解説しました。自社にあった方法を考え、予算を作成してみた方も多いと思います。
ただし、予算を作っただけで満足していてはいけません。予算を立てて、実行し、実績を確認し、改善をしていく。PDCAをしっかり回していくことで、独立後の自身の計画の検証や、事業の成長に活かしていきましょう。
予算を経営に役立てる。予算策定からのPDCAの回し方
Q:予算を作成しましたが、どのように活用すればよいでしょうか。
A:予算を設定しましたら、予算と実績を月次ベースで比較分析し、差異が生じた場合にはその原因を分析し、必要なアクションを取っていく必要があります。
特にマイナスの差異の場合は予算策定時の前提であった事業の環境の変化の確認や現場の行動が事業計画通りであったのか分析する必要があります。予算策定時の仮説が正しかったのか確認し、次月の行動に活かしていきましょう。
例えば、アパレル事業を展開するとします。3年経って予算と実績を比較したときに予算が未達であった場合に、出店の立地が悪かったのか、対象とする年齢層やジャンルが悪かったのか、当初の事業計画と実際の結果を確認し、改善していくことが必要でしょう。
こうしてPDCAサイクルをまわしていくことで事業が改善されていきます。
Plan(計画)→Do(計画の実行)→Check(確認)→Act(改善)
予算は作成しただけでは何も意味をなしません。きちんと予算の裏付けとなった事業計画を実行し、確認して、改善し経営に活かしていきましょう。
まずは、前年との比較から始める。「前年同月」と「年度の累計」の視点を持つこと
Q:予算と実績の比較について、どのように見ていくと効果的でしょうか?
A:まず、先ほどは予算について月次で実績と比較していくことが重要と述べました。単純に比較といっても、予算と実績のほかにも、前月や前期の数値などいくつかの比較対象があります。比較するにあたって、「前年同月」と「○○年度の累計」の視点でみていくことが重要です。
なお、実際には、月次の予算と実績の比較は下記のようなイメージとなります。
科目 | 〇〇月 | 〇〇年度累計 | |||||
予算 | 実績 | 予算比 | 前年同月比 | 予算 | 実績 | 予算比 | |
売上高 | 5,000 | 4,700 | 94% | 102% | 30,000 | 29,000 | 97% |
売上原価 | 3,000 | 2,700 | 90% | 101% | 20,000 | 19,500 | 98% |
売上総利益 | 2,000 | 2,000 | 100% | 100% | 10,000 | 9,500 | 95% |
販売費および一般管理費 | 1,500 | 1,600 | 107% | 110% | 7,500 | 7,600 | 101% |
営業利益 | 500 | 400 | 80% | 97% | 2,500 | 1,900 | 76% |
見てわかる通り、予算と実績のほかにも、前年同月比、年度累計の数字が並んでいます。損益項目で大事なことは「前年同月」と「○○年度の累計」の視点を持つことです。
なぜなら、多くのビジネスでは売り上げに季節変動が生じたり、繁忙期と閑散期が生じるため、前年同月と比較する視点が必要となるのです。例えば、飲食事業ですと、年末と3月にイベントが多く繁忙期となります。アパレル事業であれば真冬の2月や真夏の8月は季節の終わりで閑散期となるためシーズン落ちのセールをして凌いだりします。
さらに2月のように営業日数が少ない月もあれば5月のように大型連休のある月もあり、営業日数も売上に影響があるでしょう。そのため前年同月比で比較する視点が大事です。
さらに、会社によっては詳細をみていくために部門別や地域別、店舗別の予算実績比較を実施していきます。
予実比較では、達成率を確認することで、目標がより明確に
Q:前年同月での比較については理解しました。そのほか、もっと細かい分析を行うには、どうしたらいいのでしょうか。
A:月次で予実比較をした結果を年度の累計でも確認しましょう。一年間の損益は毎月の積み上げですので、累計をみることで今自分たちが年度予算のどの段階にいるのか確認して下さい。
このような分析に慣れてきたら、次は地域別や店舗別などさらに細分化して分析をしたり、受注案件や客単価の推移などの分析をしたりして、より深く経営分析をしていっていきましょう。
ぜひ予算と実績を比較・分析し、企業の成長に活かしていきましょう。
専門家:江黒 崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。