前回に続いて、私腹を肥やすために不正に手を染めた事例をご紹介します。

今回の事例は、会社ぐるみではなく、手口が巧妙でもありませんでしたが、支払や振込など経理業務を一手に担っていた経理責任者が起こした不正のため、誰も気付くことなく約3年もの間、不正は発覚しませんでした。

また、この3年の間に当該会社が上場をしたにもかかわらず、上場審査でも不正が見抜けなかったことも、大きな波紋を呼びました。

支払と振込の担当者を分けることで、不正の発生は回避できる

Q:上場直後の会社で不正送金があったと聞きましたが、どのような事例なのでしょうか。

A:経理の責任者が、支払先を偽装した不正送金です。

これまで見てきた不正会計事例は、比較的会社の売上や利益を偽装するための不正が多かったと思います。
しかし、残念ながら私腹を肥やすために不正に手を染めてしまうこともあります。今回は支払業務を担当していた経理責任者が、自分の管理会社や協力者を利用して、不正送金を実施した例をご紹介いたします。

当該会社では、動画に出てくる広告収入を一つのビジネスモデルとしていました。この会社は人気のある動画サービスのネットワークを持っています。この動画ネットワークにアプリ開発者が開発アプリを登録し、当該アプリを組み込ませることで、動画に広告を表示させることができるようになります。

人気動画であれば当然、動画を視聴するユーザがたくさんいます。そして、ユーザが広告をクリックする度に、クライアントが一定のマージンを差し引いた報酬がアプリ開発者に対して支払われます。

このようなビジネスモデルでは、アプリ開発者への報酬は広告のクリック数の発生データに基づきます。広告のクリック数の発生データに基づき、アプリ開発者への支払報酬が決まり、会計システムへの計上や振込データが作成される流れです。

流れを確認すると、
① 広告クリックの発生データ取得
② アプリ開発者への支払データの作成
③ 会計システムへの計上
④ 支払データから、振込データの作成
となります。

上場時にも不正を見抜けなかったのは不正が巧妙だったから?それとも審査に問題があったから?

Q:実際の不正の手順はどのようなものだったのでしょうか。

A:広告クリックの発生データ取得から、協力者への入金までを図で表すと以下のような形となります。

【該当会社のニュースリリースより】

本件では、管理部の管轄が③と④となっており、不正を行った経理責任者は④の振込データを改ざん後、実在するアプリ開発者への支払と不正協力者の口座へ入金をしていました。

さらに、不正協力者の口座が目立たないよう、1つの不正協力者振込先に対して送金を3回に分けて、1回の送金額を少額にしたり、インターネットバンキングの振込先頁に同一の送金先が入らないよう、3回に分けた振込を別々の振込ページに表示されるように注意するなど、手間暇かけて不正を行っていたのです。

最終的には、不正協力者の口座に不正送金を行った後、自身が管理する口座へ送金をさせることで利益を得られるようにしてありました。また、直接自分の管理会社への振り込みもあったということです。

本件では、約3年間で1億5千万円もの不正送金が為されていました。不正が発生した理由としては、上記の③と④の業務を、ほぼ一貫して不正取引実行者である経理責任者が担当していたことから、不正がしやすい状況ができてしまっていたと考えられます。

また当該会社については、上場時に会社や監査法人、証券会社が審査をしていたにも関わらず不正を見抜けなかったことについて、内部統制や上場審査にも問題があったのでは、と言われています。

このように、支払業務や経理業務が一部の社員に委ねられてしまうと不正が発生するリスクが高まってしまいます。たとえ小さな会社でも、記帳業務と出納業務については明確に分けて、内部で不正が発生しない牽制システムを設けるようにして下さい。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
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