前回は、架空の売上をつくる不正や、回転期間を延ばすことで不正を隠す方法、事例としてエフオーアイの不正会計と上場廃止について解説いたしましたが、実は、売掛金を利用した不正はこれだけではありません。

たとえば、1社に対する請求書で架空の売掛金をつくっていたものを、複数社に分けることでごまかそうとしたり、監査法人が発行する書類をごまかすために郵便ポストを見張るといった荒技まで、不正を隠すためにさまざまな手法が横行しています。

「たった1回だけだから・・・」という出来心で行ってしまった不正を隠すために、さらに不正を重ね、雪だるま式に増えてしまう。こういったことにならないように、売掛金の回収状況を常に把握しておくようにしましょう。

ひとつの不正が大量の不正に繋がる。売掛金の不正会計の様々な手口

Q:前回の売掛金が膨らんでいく不正をした場合、売掛金が異常に増加すると周りからおかしいと気づかれないのでしょうか。

A:はい、そのため売掛金を分散させる不正が行われることも多いです。

前回、架空売上に伴う長期滞留売掛金の事例を紹介しました。会計上、架空売上が行われると仕訳として、
借方 売掛金 ×× / 貸方 売上 ××
となります。

当然、これは架空な売上ですので、このままではいつまでたっても売掛金は減らず、増えていくばかりです。
となると、さすがに銀行や監査法人から「この売掛金はおかしい」といわれることがあります。そこで、偽の契約書や請求書などでもっともな理由を作って不正を隠すことになるのです。

また、それ以外にも下記のような手口があります。

1. 売掛金を小口に分散して、「大口の相手先ではない」「少額だから問題ない」と思わせる
2. 監査法人が確認状を発送した場合は、その確認状を偽装する
3. 売掛金から貸付金に振り替えて当面の期間取り繕う

では、それぞれの内容について詳しくみていきましょう。

■不正の手口その1:売掛金を小口に分散する

監査法人の監査では、サンプルとして取引が大きな相手先について確認します。そこで売掛金が滞留してくると、大きな売掛金を小口に分散して、監査法人の目をごまかそうとすることがあります。

【不正前】

             H27/3
  売掛金A   10,000
  売掛金B   8,000
  売掛金C 5,000
  売掛金合計   23,000

【不正後】

             H27/3
  売掛金A   4,500
  売掛金B   4,000
  売掛金C 4,000
  売掛金D 3,000
  売掛金E 3,000
  売掛金F 2,000
  売掛金G 1,500
  売掛金H 1,000
  売掛金合計   23,000

■不正の手口その2:監査法人が取引の確認のために発行する「確認状」を偽装する

監査法人は売掛金等の重要科目について「確認状」と呼ばれる文書で相手先に直接、取引金額を問い合わせます。この確認状は監査法人が直接発送をして、直接回収をするので、不正をしている場合には不正が判明してしまいます。

そこで過去あった事例ですが、監査法人の会計士の後をつけて、会計士がポストに確認状を投函した後、ポストで郵便局員を待った会社があります。そして「先程の封筒には誤りがあるので、一度回収させてください」と言い、確認状を回収。自分たちで都合のよい回答を記載し、監査法人へ返送して不正が発覚しないようにした会社もあります。

ここまでされてしまうと、監査法人も不正を見抜くことは困難ですね。ちなみにこちらの事例は、上場会社で起こりました。

■不正の手口その3:売掛金から貸付金に振り替える

売掛金がずっと残っていると、外部からこの売掛金は怪しいな、と思われてしまいますので、時期をみて売掛金を貸付金にしてしまう方法です。
(借方) 貸付金 ×× / (貸方) 売掛金 ××
と貸付金に振り替えるのです。

やり方としては売掛金を貸付金にするために、貸付金に関する契約書等を偽造して、長期にわたり回収予定として疑いの目を逃れるのです。とはいっても、この貸付金は架空の売掛金を引き継いだ架空の貸付金です。最終的には「回収不能でした」として貸付金を回収不能債権として損失処理して当初の滞留売掛金を隠し通すのです。
貸付金であれば、売掛金ほど短期に回収されなくても不自然ではないことを逆手にとった不正手法です。

いずれも巧妙で、外部から不正を早期に発見することを難しくしています。売掛金の確認にはぜひ注意して下さい。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。