今回からは、具体的な不正会計の手口について見ていきます。第1回目は現金や預金を使った不正会計についてです。

特に中小企業の場合、ベテランの経理担当者が通帳や社員を管理し、帳簿の記帳から現金の出納まで、すべてを任されている、といったことが多いと思います。
社員を信頼するのは悪いことではありませんが、人間ですのでミスもありますし、魔が差してしまうこともあるでしょう。

このようなことで不正が起こることのないよう、ダブルチェックを徹底して行っていくことが必要です。

不正を防止するには、経営者と社員でダブルチェックを行う

Q:現金や預金ではどんな不正が話題になりますか。

A:現金や預金を使った不正は、社長も気づかないうちに行われることが多いのが特徴です。不正や横領を防ぐにはダブルチェック体制が必要です。

また近年の実務では、経営者主導による何億円もの不正会計が大きな問題となっています。これは中小企業などで人員が少ないことによりダブルチェック体制が設けられず、少額の横領が起こってしまいやすいことが一因です。

現金や預金で不正が起こるのは、以下のような場合です。
・通帳や社印をスタッフが容易に持ち出せる
・会計帳簿の記帳担当者と銀行との現預金の出納担当者が同一
・会計記帳にダブルチェック体制が設けられていない

社員を信頼すること=お金の管理を丸投げすること、ではない

Q:ベテランの経理担当者にすべて任せていれば、問題ないでしょうか。

A:そうとは言い切れません。長期にわたって経理部担当者が変わっていない場合、担当者が周りの目を盗んで不正が起こしやすくなってしまいます。周りも「●●さんはベテラン経理だからしっかりやっているだろう」と油断することも多いです。

もちろん大企業でなければジョブローテーションなどをすることは難しいですが、社長さんが定期的にチェックをして不正をけん制したり、内部監査制度を設けたり、顧問の税理士さんに月次レビューを頼んだりなど不正を防止する体制を設けるべきです。

社長さんからすると誇らしげに「私は社員を信用しています。通帳や印鑑は社印に管理を任せています」とおっしゃる方もいます。しかし社内で不正が起こらない体制を作ることも経営者の仕事です。特に現金や預金は現物として不正・横領へ心理が働きやすい勘定科目ですので不正を防止する策を設けることが必須の業務です。

例えば、
・出納係と記帳する人を別々にする
・帳簿を定期的に第三者がチェックする(外部の税理士や会計士でも良いでしょう)
・社印は申請書を設けて誰がいつ使ったか記録に残す。申請制度にすることで不正使用に歯止めをかけることができます
・請求書の発行の際にはダブルチェックする、指定銀行口座も必ず確認する
・支払済みの請求書は不正な支払いがなされないよう請求書に「支払済み」印を付す
・不用の通帳口座は、不正に用いられないよう閉じる
などが考えられます。

社内に人が足りない、社長が忙しくて細かいことを気にかける時間がない、などと不正が起こるリスクを軽視してしまい、実際に不正が起こってから後悔することのないよう事前に防止策を設けるようにしましょう。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。