株式会社ポケットメニュー代表取締役の戸門慶さん。ポケットメニューは、500 Startups Japanの資金調達を受けるなど、加速度的に成長しているスタートアップです。
最高の「おもてなし」をテクノロジーで実現するというミッションのもと、ミシュランの星取得レストランの予約から決済までを可能にした業界唯一のwebサービス、「ポケットコンシェルジュ(https://pocket-concierge.jp/)」を展開。その便利さから、接待や会食で予約困難な一流レストランを利用したいと考えるビジネスパーソンや、日本で最高の食を味わいたいと考える外国人観光客を魅了してやまないサービスとなっています。

約8年間の料理人経験の後に、webサービスを起業されたという異色のキャリアを持つ戸門さんの起業までの経緯や、企業のブランディング、エンジニアとのコミュニケーションなどをテーマにお話をお聞きしました。

※本インタビューは、フライヤー×サーキュレーションの「知見と経験の循環」企画第13弾です。経営者や有識者の方々がどのような「本」、どのような「人物」から影響を受けたのか「書籍」や「人」を介した知見・経験の循環について伺っていきます。

「目標から逆算して今やるべきことを考える」。過酷な料理人下積み時代を支えた指針

Q:8年近く、和食料理屋で料理人をされていたとのこと。料理人時代のキャリアについてお聞かせいただけますか。

戸門 慶さん(以下、戸門):

実家が40年以上の歴史ある料理屋をやっていたので、自然と将来は自分のお店を持ちたいと考えるようになりました。10年後に店を経営するという未来から逆算すると、最初は手に職をつけるために3年間料理の修行をして、その後3年はステップアップの時期。その後は経営の勉強をするというプランを立てていました。

Q:下積み時代はどうでしたか。

戸門:

下積み時代は厳しい環境でしたね。1日の労働時間が18時間くらいで、時給換算するとかなり安い給料でした。それに、上下関係が厳しいので、上の人たちから消火器を投げられたりすることもありましたね(笑)。ですが、そんな過酷な状況を乗り切れたのは、目標から逆算して、「この時期を1、2年耐えれば、次のステージに行ける」というのが見えていたからだと思っています。

次なるステップアップに向けてどの店に移ろうかと考えていたとき、判断基準にしたのは、自分なりの創意工夫が試せる環境かどうかでした。例えば鯛一本おろすにしても、店ごとにさばき方のルールがあり、それを自己流にアレンジするなんて言語道断という店もたくさんあります。ですが、例えば梅雨の季節なら、普段の器ではなく蓮の葉に料理を盛るというのも粋ですよね。こうした工夫が受け入れられる環境で、自分の力を試したいと思い、休みの日はひたすら料理屋に食べに行って将来自分が勉強できそうな店を探していたんです。

その後は経営を学ぶために店舗の飲食コンサルもしながら、経営戦略の考え方にふれていきました。この時期は、財務や会計、そして経営者の思想の本を読むようになりました。カウンターにいると、高級料亭に通っているお客さんは経営者が多いので、「経営者になりたい」と話すと、色々と本をお薦めしてくれるんです。このときに読んだ本は起業してからも役立っていると思います。

「料理人とエンジニアのマインドの壁」をどう打ち破ったのか?

Q:実際にお店を出すというのではなくwebサービスの起業へと転換されたきっかけは何だったのでしょうか。

戸門:

正直なところ、飲食店の労働環境ってかなり劣悪なところもあるのが現状です。現場に身を置いていると、飲食店で働く人たちが抱えている課題も見えてきます。飲食店の多くはギリギリの人数で運営しています。そのため、予約や支払いなどでお客さんとのトラブルが発生すると、その解決に時間をとられてしまい、サービスレベルの低下や従業員の不満につながっていたのです。私たちはそこにビジネスチャンスを見出し、ネットのサービスの力を使えば、店が抱える課題をよりスマートに解決でき、働く人が今以上にハッピーになれるんじゃないかと思いました。

ポケットコンシェルジュでは、お店探しから予約、要望の伝言、支払いまで一貫してオンラインで行えるサービスです。お客さんは接待や記念日などを信頼できるお店で過ごすことができ、支払いなどで煩わしい思いをすることがありません。また、お店側も、お客さんの苦手な食材などを事前に把握することができ、直前のキャンセルも防ぐことができます。お店にとってはトラブルや売り逃しがなくなり、労働環境の改善やサービスの向上といった大きなメリットを得られることになります。ポケットコンシェルジュでは、お店探しから予約、要望の伝言、支払いまで一貫してオンラインで行えるようにすることで、お店側がお客さんの情報をスムーズかつ的確に得られ、直前のキャンセルを防げるようにしています。

実際にwebサービスを始めてみたら、予想とは違ってネットの世界にも料理の現場とはひと味違った大変さがあると気づきましたが(笑)

Q:予想と違って大変なことは何でしたか。

戸門:

エンジニアとのコミュニケーションや彼らのマネジメントに苦労しましたね。僕はプログラミングがわからないので、実際のプロダクトと、僕が思い描いている理想とのギャップが生じる原因がわからず、「なぜこんなことができないのか」とつい思ってしまうわけです。

しかも、料理人とエンジニアってマインドが真逆なんです。料理人の世界はまさに親方至上主義なので、目の前のものが白くても、親方が黒と言ったら弟子は黒と従うのが当たり前。一方、エンジニアはいくら上から言われても、論理的な説明がないとなかなか納得しない。だから、意見が食い違ったときは、どちらかが折れない限り平行線なわけです。そういう面で、最初は苦労しましたね。

また、期日に対する考え方も違うことが多いというのも彼らと接する中で学びました。料理の世界ではお客さんが待っているので、そこに食事を出す時間がずれるのはありえない。いくら仕込みに時間がかかろうと、何が何でも間に合わせるために計算して仕事をするのが普通でした。お客さんが目の前にいるので逃げられないわけです。ところが、エンジニアにとっては、当然期日は重要ではあるものの、突如バグが多発するなんて日常茶飯ですし、場合によってはサービスのリリースを少し遅らせるという判断もある。こんなふうに、料理人とエンジニアでは、仕事での発想がそもそも違うんです。

まかないご飯で、コミュニケーションを促進

戸門:

転機となったのは、まかないご飯をつくり始めたこと。キッチン付きのオフィスに移転したので、僕がご飯をつくることが増えたんです。そうすると、一緒にご飯を囲んでいるとメンバーとの会話も増えますし、食べた後の食器を誰が洗って、誰が拭くかなどと、みんなで分担しあうようになるので、自然とコミュニケーションの機会が増えていく。すると、お互いの考えていることやキャラクターもわかってくるので、仕事も進めやすくなりました。料理人とエンジニアの発想の違いも、徐々に「そういうものなんだ」と受け止められるようになったんです。

私はもともとせっかちな性格です。なので、サービスを触っているとついいろいろと口出しをしたくなります。ただ、横からアレコレと口出しをしていくことが、かえってエンジニアの業務の妨げになったり、モチベーションや生産性の低下につながったりして必ずしもサービス開発にとって最適ではないと気付きました。今はできるだけ口を出さないように気を付けて自分を抑えていますね。(笑)

(後編に続く)

取材・インタビュア/松尾 美里
撮影/宮本 雪

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和食料理人としての経験を積み、webサービスを起業された戸門さんと、
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フライヤー

ノマドジャーナル編集部
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