「創業者と意見が合わず、経営統合が決裂」、「日本企業が米電機メーカーを買収」、連日のように紙面を飾るこれらのM&Aに関するニュースですが、これらも、M&Aを実施している企業の数から見れば氷山の一角。

M&A件数はリーマンショック後の落ち込みから堅調に増加し、日本企業のM&A(日本企業同士のM&A、日本企業による外国企業のM&A、外国企業による日本企業へのM&A)は昨年は年間2,500件に迫る規模となりました。(MARR Online「1985年以降のマーケット別M&Aの推移」https://www.marr.jp/mainfo/graph/

このように企業にとって重要な戦略上のオプションの一つとなったM&Aについて取り上げます。
合併や買収というと、大企業だけのことと考えてしまいがちですが、跡継ぎに困っている中小企業でも、最近ではM&Aにより後継者問題をクリアしているところが増えてきています。まずは基本を理解し、その時のために備えておきましょう。今回から7回に渡ってM&Aの基礎を解説いたします。

M&Aをすることで、自社だけでは難しい飛躍的な成長を望める

Q:M&Aについて、わかりやすく教えてください。

A:M&AとはMergers(合併) & Acquisitions(買収) の略で、企業買収のことをいいます。狭義には会社を買収することですが、広義には組織再編全般もM&Aといえます。
企業は継続して成長していくことが求められます。その中で、自助努力だけではなく他社を買収して成長する、そうした経営戦略の一つとしてM&Aが行われています。

ここではまず、M&Aの代表的な手法のひとつである「買収」における、譲受(買い手)側からみたメリットとデメリットを挙げてみます。

メリット デメリット
  M&Aのシナジー効果により事業規模が拡大する     統合が上手く行かず事業規模が縮小することもある  
  新分野へ進出ができる     M&A時の統合コストがかかる  
  商圏が広がる     風土が合わず社員の退社や顧客の離散が生じることもある  
  他社が持っているブランドや人材を取得できる       

世界中で、ますます広がるM&A

Q:ニュースでは聞くものの、日本ではあまり、M&Aになじみがない気がします。

A:世界的にみると、M&Aは積極的に実施されています。また近年では、日本企業同士のみならず、日本企業が海外の企業を買収するといった、グローバルなM&Aも増えてきています。

この傾向には、以下のような理由が考えられます。
・自社の事業とシナジー効果を求め、同業者を買収する
・自社が進出していない地域に対して、当該地域に強い会社を買収し、自社の業容範囲を拡大する
・自社で不足している人材を補う
・買収により企業規模を拡大することで原材料の購入コストや製造コスト、品質管理コストの削減や効率化を図る

なおM&Aには、他社の株式を取得して支配権を得ることや、包括的に吸収する合併、会社全体ではなく一事業だけを取得する事業譲受けなど、様々な手法があります。

次回以降は、以下の各手法における詳細やメリット、デメリット、選択される場面などを解説していきます。
・株式譲渡
・事業譲渡
・第三者割当増資
・株式交換、株式移転
・合併
・会社分割

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。