楽天が今年2月に発表した2015年12月期の通期決算(国際会計基準)では、売上高が過去最高だったにも関わらず、2007年以来8期ぶりとなる営業減益となりました。
この減益の大きな原因となったと言われているのが、海外事業の「のれん」減損。
2010年、2011年に買収した2社で、買収当時からの計画よりも収益性の向上が遅れ、赤字になったといいます。
今回は、この「のれん」について解説していきます。間違っても、「あの社長とは懇意にしているから」といった理由でのれんを上乗せしたり、不正に手を染めたりしないよう、基本的な考え方を理解しておいてください。
※のれんを利用した不正については以下の記事も合わせてご覧ください
【ノマドになる前に】独立に必要な会計講座:不正会計⑨ オリンパスのもう一つの不正 「のれん」の償却で過去の損失を帳消しに?!
https://nomad-journal.jp/archives/1524
データに表れない「のれん」にこそ買収のメリットがある
Q:前回の解説を読むと、買取価格は現在または将来の資産から算出されるということでしょうか。
A:実際に買取価格を決める際には、前回ご説明した評価方法で資産を評価した後に、「のれん(営業権)」を含めます。
のれんとは、買収される会社の時価評価純資産と買収価格の差額(=超過収益力)として計上されるもので、企業のブランドや技術力、優秀な従業員、優良な顧客など、目に見えない、つまり通常は財務諸表に現れない資産を指します。
これまで見てきたように、M&Aとはある会社がある会社を取得することです。
では、何のために取得するかというと、取得によりシナジー効果などの買収価値があるからこそ取得するのです。そこで、その価値を見込んで買収することになるのです。
この価値のことを、会計上は「のれん」と表現します。なお、「のれん」は貸借対照表上において目に見えない資産であることから無形固定資産として計上されます。
償却期間は「のれん」の効果を適切に見極めて決める
Q:無形固定資産ということですが、貸借対照表ではどのように記載すればいいのでしょうか。
A:計上された「のれん」は、会計上その効果の及ぶ期間や投資の回収期間を考慮して20年以内で償却する必要があります。その償却費は損益計算書上、販売費および一般管理費で処理します。
そこで問題となるのが、5年なのか、10年なのか、いつ償却するのかということです。償却時期によって販売費及び一般管理費の金額が異なることで、営業利益に影響が出てしまうのです。
具体的に説明してみましょう。
例えば、
●10億円の「のれん」を5年で償却する場合
毎年2億円(10億円÷5年=2億円)の負担
●10億円の「のれん」を10年で償却した場合
毎年1億円(10年÷10年=1億円)の負担
償却年数は一度決めると変更ができないので、何年で償却するべきかが重要な問題となってきます。
では、何年で償却するのが妥当なのでしょうか?
償却年数は、個々のM&Aにおける投資回収観点から考えていきます。
例えば、M&Aの投資計画において3年で投資回収を行うという計画であれば、計上された「のれん」は3年で償却することとなります。
また、「のれん」は超過収益力を考慮したものであることから、常に「超過収益力がある投資をした結果なのか」という視点で、その価値を確認することが求められます。
そのため、せっかくM&Aをしても効果がなかった場合は、判明した時点で「のれん」を一度に減損(損失処理)しなければなりません。
このようなことが起こらないよう、効果の見込みがあるのかを事前にしっかりと調査した上でM&Aを実行し、さらにM&A後もしっかりと効果が出るよう努める必要があります。
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。